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出光興産株式会社

世界に誇る青色有機EL材料「出光ブルー」の今。材料開発チームの研究にかける想い

(PR TIMES STORY) 2022年10月31日(月)15時02分配信 PR TIMES

今やディスプレイの主役となってきた「有機EL」。

1997年、当時不可能とされていた青色有機ELの実用化に、出光興産は世界で初めて成功しました。


それから25年を経て、2022年5月、世界最高レベルの性能を実現する新技術を開発。

最前線を走り続けてきた出光の青色有機EL材料「出光ブルー」の軌跡をたどるとともに、新技術の開発メンバーに研究への想いを伺いました。

写真左から:

電子材料部 電子材料開発センター

素子評価グループ 神戸 江美子、西村 和樹、田崎 聡美

材料設計グループ 糸井 裕亮

不可能とされた青い光を追った30年以上の歴史

出光の有機EL研究の始まりは1980年代。まだその実用化は不可能とされていた時代に、石油化学などの研究分野で得た知見を基に、若手を中心とした数人の小さな研究開発チームが発足。そして1997年、米国のボストンで開かれた国際ディスプレイ学会に、世界初の有機ELテレビの試作品を出品し、出光はその将来性を世界に示しました。立役者となった材料が「出光ブルー」。有機EL実用化の鍵を握る、青色に発光する有機EL材料でした。

ディスプレイ業界を革新した有機EL材料開発

有機EL(エレクトロ・ルミネッセンス) とは、特定の有機化合物に電流を流すと自ら発光する現象のことを指します。主な用途はスマートフォンやテレビに搭載されるディスプレイ。その最大の特徴は発光方法にあります。旧来型の液晶ディスプレイは、バックライト・液晶パネル・カラーフィルターの3層構造で、バックライトが液晶パネル全体を照らす仕組みです。一方で有機ELディスプレイは1層構造で、その中の赤・青・緑の3色の有機EL素子自体が発光体となります。素子一つひとつが独立して発光するため、高いコントラストと色の再現性を有し、旧来型の液晶では再現できなかった深い黒と、自然界に存在するさまざまな色彩を再現できます。また、「バックライトがない分、消費電力が少ない」「薄くて軽いため、さまざまな形状のディスプレイの実現が可能」「素子の高速応答により、なめらかな動画表示ができる」といった利点もあります。

 

パネルを構成する光の三原色(赤・青・緑)のうち、発光させることが最も難しいとされ有機EL実用化への最大の障壁となっていたのが「青色」でした。出光の研究者たちは、商品に応用できるレベルで明るく長く光り続ける青色材料を求め、10年以上の歳月をかけて粘り強く研究を続けました。こうして生まれた、1万時間発光する青色材料はフルカラー・ディスプレイの実用化に大きく貢献することができました。そしてこれらの研究開発が評価され、2018年、国内の発明表彰最高賞である「恩賜発明賞」の受賞にいたりました。

さらなる挑戦は続き、2022年5月、新発光方式の開発により世界最高レベルの発光効率と長寿命化に成功。電子ディスプレイ業界の世界最大のシンポジウム「Disp lay Week 2022」の最優秀論文に選定されました。

 

「出光ブルー」を生み出した千葉県の次世代技術研究所では、世界トップクラスの品質・性能を実現する技術力の下、有機ELディスプレイの製造に必要な幅広い材料・商品の研究開発を行っています。高い技術力と、それらを最大限生かすサポート体制が、顧客が求める高い品質基準を満たす材料の開発・提案を可能にしています。

有機EL・出光と業界の歴史

1997年に出光が試作した有機ELテレビ初号機


●:出光の有機ELの歴史)

1985年 ●有機EL材料の研究開始

1987年 有機ELの基礎技術に関する論文を発表(イーストマン・コダック)

1989年 ●青い光を放つ「ジスチリルアリーレン」を発見

1997年 ●青色ドーパント「スチリルアミン」を発見

1997年 ●世界初となる有機ELテレビを試作

1999年 マルチカラー有機EL搭載のカーオーディオが製品化(パイオニア)

2002年 ●高効率・長寿命の純青色発光材料の特許取得

2007年 ●静岡県御前崎市に当時世界最新鋭の有機EL材料工場竣工

2007年 世界初の有機ELテレビを発売(ソニー)

2012年 ●韓国・パジュに有機EL材料工場竣工

2017年 ●スイス・バーゼルに有機EL開発会社を設立

2017年 ●上海に現地法人設立

2018年 ●青色発光技術で恩賜発明賞を受賞

2018年 ●成都に現地法人設立

2022年 ●新発光方式の開発で「Display Week 2022」の最優秀論文に選定

「世界最高」を実現するチーム

30年以上の研究開発の歴史を誇る、電子材料部の有機EL材料。

2022年5月、新たに蛍光型青色材料を用いた有機EL素子の発光方式を開発し、高発光効率かつ長寿命の素子開発とその実用化に成功しました。

チームリーダーである田崎さんを筆頭に、世界最高レベルの性能を実現した開発チーム4名に話を伺いました。

世界最高レベルの寿命と発光効率を両立


西村:有機ELの長年の課題が「寿命と効率のトレードオフの法則」。寿命を長くすると効率が下がる。私たちはそれをどうすれば改善できるかについて、長く議論してきました。今回の研究開発でその答えを見つけたのが、チームリーダーの田崎さんです。これまで同じ領域で起きていた二つの現象を、2種類の青色材料の積層を使って分離することで発光ロスをおさえ、高い発光効率と長寿命を両立しました。



田崎:「寿命と効率のトレードオフの法則」を打破するには、これまでの技術の延長では不可能だと思っていたので、新しい構造のコンセプトやアイデアをたくさん出して、ひとつずつ、過去の研究開発で使用した素材を試す実験を繰り返しました。研究開発の歴史が長いので、質の高い過去材料が豊富だったことが幸いしました。


神戸:仮説はたくさん出ていたので、どれかはできるはずと感じていました。それを実現する概念を見つけたのはさすがですよ。

そして、その田崎さんの概念を具現化する材料を設計したのが糸井さん!

今回の受賞は、このチームワークがあってこその快挙ですね。


糸井:最初に試した素材では、寿命と効率が非常に良い一方で、他の性能面に問題が出てしまいました。すべてのステータスを高いレベルまで引き上げる材料設計には、かなり悪戦苦闘して…。


田崎:いくら寿命と効率が良くても、他の点でお客様が求める基準に達していなければ、商品化できませんからね。


神戸:私たちが開発する素子の用途は、スマートフォンやテレビのディスプレイなどさまざまです。それぞれのお客様によって、求められる特性も少しずつ違います。

今は、ご要望に応じて性能を微調整していますが、理想はやはり、どんな要望にも応えられる、どこをとっても高性能な素子の開発です。これは私たちの、今後の大きな目標のひとつです。




高い基準に応え、信頼され続けるために

田崎:圧倒的に良いものを作りたいですよね。

そのためには、従来の技術の延長線上にあるものではなく、今回の新発光方式のような、今までの既成概念を覆す技術開発が必要だと思っています。








西村:革新的な研究開発こそ、出光の強みです。「出光ブルー」での特許取得に代表される知財力の高さ。その強みを生かして、さらに新しい技術開発を進めていくことができる。



糸井:チームや役割にとらわれない、横の連携や気軽に相談できる雰囲気も強みですよね。普段から執務室で互いの研究について話したり、ディスカッションしたり… そういうたわいもない話をしているときの方が、良いアイデアが出る気がします。少数精鋭だからこそのスピード感とアットホームな雰囲気は私たちの強みですね。





神戸:有機合成と素子評価がしっかりできるのも良いですね。二つのチームが連携して、お客様のご要望に沿った最良の提案ができる。そして、光る・光らないという結果だけでなく、なぜ光ったのかという解析も専門的にやりきる。ここまでできるところは、なかなかないですよ。


田崎:現象の根本的な原因まで深く突き詰めて考え、その理解を応用して新しい技術を開発する。それが私にとっての研究の醍醐味で、一番楽しいと感じる瞬間でもあります。

今回の開発の成功で、まったく新しいものを生み出す、チャレンジする、という流れをつくれたんじゃないかと思うと、嬉しいです。

既存の延長を超えて挑戦を続ける

神戸:もちろん、新技術の開発だけに注力してもいられません。お客様のご要望に応じた改良も重要なので、どちらもスピードを落とさないことを心がけて、日々の研究開発に向き合っていかなくては。

今後は、新しい青色素子の普及を進めたいですね。展開先が増えると、求められること・新たな課題も増えますが、その一つひとつに丁寧にお応えしていきたい。採用の実績は、技術への信頼の証ですから。


糸井:そうですね。これからもお客様のご要望に応じた素子の改良・開発を続けていきます。

私たち材料設計グループから、素子評価グループの田崎さん・西村さんにアイデアを提案して、新技術開発に貢献していければ。


西村:お客様が求める基準はどんどん高くなっていきますから、延長線上で考えているとすぐに戦えなくなります。

繰り返しになりますが、新しい技術にどんどん挑戦していかなければならないですね。


田崎:すでに、今回の新しい積層技術では到達できない目標も見えてきていますので…。

具体的にどうするかを考えるのはこれからですが、今後も、既存の概念にとらわれることなく、チャレンジを続けます。

女性研究者のキャリアについての考えと、研究にかける想い

今回の研究開発のチームリーダーを務めた田崎さんは、2022年5月に第1子を出産。復職後は、育休中の夫と協力して、子育てと仕事を両立しています。

過去にとらわれず挑戦する、やりたいことに真っすぐでいたい

田崎さんが研究者を志したきっかけは、大学の卒業研究。元々は理科の先生を目指していましたが、研究の楽しさに魅せられ、大学院への進学を決意。専攻した光科学の基礎研究に打ち込む中で生まれた「もっと社会に役立つ、”次につながる“研究をしたい」という想いから、アカデミアではなく社会人としての研究者の道を選び、出光に入社。その想いが変わらなかったからこそ、「早く研究に戻りたい」と産休に入ってから約3カ月での復職を決めました。

 

日本の研究者に占める女性の割合は16%前後※と諸外国に比べて著しく低いですが、「幸いにも”女性だから“という理由で苦労を感じたことはありません」と田崎さんは話します。理系の道に進む女性が少ないことは、進路を選択する過程ではっきりと認識しており、だからこそ、入社後はキャリアに不安を抱くことなく研究にまい進。しかし、結婚してからは子どもを持つタイミングに深く悩んだといいます。特にスピードが求められる企業の研究開発の世界では、出産・育児で前線を離れた数年間に知識的なギャップが生まれ、復帰が困難になることも少なくありません。


「考えても考えても、何が正解かはわかりませんでした。それでも、繊細な作業が必要な研究職は、自分の目や手が思いどおりに動かせる時期にしかできない仕事でもある。限られた時間を、自分がやりたい研究に費やしたいという想いがありました。」


悩みながらも出産を決意した田崎さん。そんな彼女を温かく送り出すチームメンバーの存在は何より大きいものでした。

「ちょうど開発が一段落ついていた時期だったことも幸運でした。偶然、出産と学会発表が同週に重なり、メンバーからの『無事に発表終わったよ』という連絡に、『こっちも無事に生まれたよ』と返信していました。」

 

出産を終えて復職し、田崎さんは出光の研究環境について改めてこう感じています。

「男女問わず出産・育児への理解があり、何より自分がやりたい研究を積極的にやらせていただける環境がありがたいです。過去のやり方や慣習にとらわれず、自分が『やってみたい』と思ったことには、これからも積極的にチャレンジしたい。その挑戦が、世の中にない新しい価値を生み出すはずです。」

※参考 総務省「科学技術研究調査」(令和2年)


「Display Week 2022」最優秀論文に選定!新発光方式の青色有機ELってなに?

テレビやスマートフォン用のディスプレイへの普及が進む有機EL。液晶よりも省エネといわれているものの、実は画面サイズが大きくなればなるほど、消費電力は大きくなります。そのため、さらなる省電力化のために、部材である有機EL発光材料の性能向上が求められてきました。

今回の新発光方式の発見では、最も開発が難しいといわれる青色発光材料の高性能化と長寿命化の両立を実現。省電力化に加え、製品ライフサイクルの向上による環境負荷の低減への貢献も期待されます。

01 有機ELってどうして発光するの?

特定の有機化合物(発光材料)は、電流を流すと電気エネルギーによって分子が高エネルギーの状態になります(励起)。これが元の状態に戻るとき、エネルギーの差によって発光する現象を利用したのが有機ELです。有機化合物は粉末状になっており、そのままでは発光しません。発光材料を薄く板状にした“発光層”を挟むように、電子の流れをコントロールするなどの機能を持つ層を重ねることで発光します。このように、材料が発光する構造に設計されたものを「素子」と呼びます。

02 新発光方式の「積層」ってなに?

今回、世界最高レベルの性能の実現のカギを握ったのが、「積層」による新しい発光方式の発見でした。積層とは、従来ひとつの発光材料が持っている2つの機能を、2つの材料で別々に発生するように設計したもの。具体的には、励起子※1を生成する領域(再結合領域)と、三重項※2励起子同士がぶつかる領域(TTF領域)を別材料にすることで、再結合とTTFのそれぞれのパフォーマンスを向上。結果、性能の向上と長寿命化を両立することに成功しました。

※1 励起状態になっている分子

※2 有機物の励起状態の種類のひとつ。三重項エネルギー状態




出光興産は今後も有機EL材料をはじめとした高性能電子材料の開発により、ディスプレイのさらなる高性能化に貢献していきます。

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