プレスリリース
年を追うごとにアクセラレーション期間が終わった後の活動の広がりが増しており、それは社外のスタートアップ企業との協業やコラボレーションで顕著になりつつある。TRIBUS 2021で採択され、成果発表会では審査員特別賞「LEO賞」を受賞したUnifinity(ユニフィニティー)は、極めてスマートにTRIBUSを、そしてアクセラ期間終了後にはリコー全体を“利用”し、事業の拡大を図っている好例のひとつ。2022年現在、もっともホットなテーマの「ノーコード」をテーマに、TRIBUSをどう利用したのか。Unifinity 代表取締役CEOの曽良俊介さんに、その経緯を聞いた。
株式会社ユニフィニティー 代表取締役社長 曽良俊介氏
――TRIBUSにエントリーされた理由を教えてください。
もともとリコージャパンとパートナー契約を結んでおり、弊社製品をリコージャパンのお客様にご紹介してもらうなどの協業をしている関係でした。その中でご担当の方から「今度こういうのがあるよ」とご案内いただいたのがTRIBUSでした。その方は弊社のソリューションをとても気に入ってくださっており、TRIBUSを通過すればリコージャパンとして当社製品をもっと大きく扱うためのお墨付きをもらえるというか、他の数多くの取扱製品のうちのひとつという状況から抜け出すことができると思ってくれたようです。
僕らとしても、もちろんリコーとの結びつきが強くなればいいなという思いはありましたが、最初はリコーのリソースを使ってビジネスを大きくしようとか、具体的にこうしてやろうというようなことは一切なかったんです。漠然とリコーとの距離が縮まればいいな、くらいで。結果としてはものすごく縮まったんですけどね。
エントリーした内容は「現場を便利にするアプリを簡単に作成する業務用モバイルアプリのノーコード開発プラットフォーム」というものです。このテーマを掲げた背景には、近年うちが抱えていた課題があります。
うちは「ノーコード」という言葉がなかった時代から、プログラムを書けない人でもアプリを作ることができるツールを開発してきました。かつては「MADP(Mobile Application Development Platform)」と呼ばれたものです。これはいわゆる「ノーコード」ではあるのですが、「非エンジニアやコードを書けない人でもアプリを作れる」という今的な意味での「ノーコード」ではなく、エンジニアが効率的に開発するために、部分的にコードを使わずにプログラミングするために使うものでした。効率的な開発ツールの提供とも言えるかもしれません。
それが2018年頃になってノーコードという言葉が提唱され、ノーコードが開発のカの字も知らない人向け、という意味合いが強くなってきた。つまり今のノーコードは、僕らがやってきたノーコードとはちょっと違うんです。この乖離をどうにかしたい、という課題がずっとあったんです。それで、せっかく社外の方と組めるのであれば、それをなんとかしようと考えたわけです。
――アクセラレーション期間では具体的にどんなことをされたのでしょうか。
先述の乖離を埋めるために、新しいノーコードの製品を立ち上げることに取り組みました。
一般的なノーコード製品とうちのノーコード製品の大きな違いは、できることの数の多さ、多機能性です。一般的なノーコードが10くらいのことができるのだとすると、うちは350くらいのことができる。簡単さと多機能性はトレードオフの関係なので、簡単にするには、必要な機能は何か、どこまで簡略化することができるのかを明らかにしなければなりませんが、そのバランスがとてもむずかしい。その検証とテストとトライアルをしたのが、アクセラ期間中の活動でした。
今主流となっているような形のノーコードにするために、まず相当機能を絞らなければなりませんが、最終的に必要となる機能を想定し、そこから逆算して、機能をラジオボタンや簡単なフォームで入力して選べるようにすることにしました。ユーザー側から見ると、どんな機能の、どんなアプリが必要か、がある程度想定されているため、選びやすくなっている格好です。
アサインしていただいたカタリストの皆さんとこれをどう進めるかを話し合い、まずデザインのできる方に加わってもらい、画面デザインを20パターンほど作成してもらいました。これをフォームツールにはめ込んで、簡単にアプリの開発ができるようにしてみました。
10月から制作を始めて12月にプロトタイプの無償提供を開始。リコー社内でノーコードのセミナーを開いてもらい、このプロトタイプを使用してくれる人を募ったところ25件のレスポンスがあり、アプリを作ってお返しし、実際に作られたアプリの出来上がりがどうか、アンケートで反応を取りました。
――その結果、どんなことが分かったのでしょうか。
一番確かめたかったことは、そんなに機能を絞ってしまって、使う人がいるのか?ということでした。機能を絞り込みすぎて使える人が少なくてもいけないし、絞らなさすぎてもいけない。そのバランスを取るのがすごく難しいんです。アクセラ期間の実証実験で、その絞り込み方をどうすればいいかが分かってきました。入力するUIのレベル感がどれくらいで、できあがるアプリの種類がどれくらいあればいいのか。インプットとアウトプットがだいたい分かってきたので、それを製品化したものが、『Unifinity Wizard』です。
実証実験のときのアプリ制作では、インターフェイスを作り込んでありましたが、実は裏側で手作業だったんですよ。もともとうちの製品はクライアントソフトで、自動でアプリを組み立てる機能がなかったんです。Investor's Dayの後からその機能の開発を始めて、製品版としてリリースできたのが2022年5月でした。このWizardがローンチできたことが、TRIBUSでの一番の成果ですね。
『Unifinity Wizard』は簡単なフォーム入力やラジオボタンによる設定だけで、完全なノーコードでアプリを制作することができます。バーコードやカメラ、GPS情報などのデバイス機能にも対応しており、製造の工程管理や在庫管理など、現場で幅広く使えるようになっています。
基本的にはPoCでの利用を想定していますが、実証の後はもちろんアプリを作り直す必要なく、本格運用も可能です。完全無料で利用できますが、有料版に切り替えるとユーザー数や機能開発のバリエーションが増やせるようになります。
また、TRIBUSを通じてわかったことは、『Unifinity Wizard』が、いわゆるユーザー企業だけでなく、例えば開発会社の営業担当やコンサルタントといった「プロ」の方にも使ってもらえるのでは?という気付きです。『Unifinity Wizard』のプロトタイプを作っているときに、大手飲料メーカーの方から『社員にスマホを持たせているんだけど活用できていない』という相談を受けて、『Unifinity Wizard』で簡単につくったプロトタイプをいくつかお見せしてブレストをしたらすごく盛り上がってアプリのイメージがかなり具体化したということがあって、「これか」と思い当たりました。今までシステムの営業をする方は、徒手空拳、身振り手振りで営業しなくてはならないし、それを開発者に伝えるのも大変で、コミュニケーションの負担がすごく大きかった。しかし、『Unifinity Wizard』を使えばパッとモノを出せて、クライアントと、ここは違う、こうしたいという非常に具体的な話をすることができるわけですよね。
それでさらに思ったのが、これはリコージャパンの方に使ってもらえるんじゃないかということなんです。
リコージャパンの営業の方は、すごくお客様を大切にしているし、リレーションを大事にしている。だからお客様からもいろいろな相談を受けるし、営業の方もその相談にできるだけ答えようとしている印象があります。営業の皆さんにとっては、商品やサービスが多種多様で課題も多岐にわたるので『Kintone』のようなデータベース型クライアントサービスとの相性がいいのでよく使っているようですが、『Unifinity Wizard』も同じように使えるんじゃないかと思いました。
特にリコージャパンの顧客の多くの割合を占める中小企業。まだ十分にデジタル化が進んでいないなかで、いきなりCRMを導入したって元になるデータがないから意味があまりない。いきなりCRMツールを入れて素晴らしいグラフができます、でもデータがありません、みたいな話はよく聞くんです。だったら、まずは小さなアプリから始めて、いろいろなものをデータベース化するところから始めたほうがいい。そのデータベースをもって、BIなりAIなり分析系の機能を導入していけばいいじゃないですか。現場の手触り感があるところから始められるのは、うちの強みだと思います。
――TRIBUSを、どう評価していますか。
やはり期間が決まっていて、その中で成果をしっかり出そうとする集中力がひとつのポイントかと思います。
そしてカタリストの方々、非常に優れたビジネスのベテランがプロジェクトに参加してくれるのは、ちょっと他では見ることのできないすごいことじゃないでしょうか。もちろん、必ずしも我々の事業について完全に精通はしていなかったとしても、ビジネスに関してはこのうえなくベテランで、フラットでニュートラルな意見を出していただいて、ディスカッションできるというのは、非常にありがたいことでした。こういう人たちが大勢いるところに、リコーの懐の深さを感じました。
あとはデザイナーさんをアサインしていただいたことも大きかったです。レベルの高いデザイナーさんで、作っていただいたUIは今でも使わせていただいています。このグレードのデザイナーさんは、我々ではお金を出しても依頼できるものではない。そういうレベルの高いリソースに手が届くのは、TRIBUSだからだったのではないでしょうか。
また、TRIBUSを通して、リコーはなんというか、いい意味でボトムアップな会社なんだなと感じました。トップダウンじゃない、社員の皆さん一人一人が魂を持って働いているという感じがします。強いトップがいて上意下達をしっかりして、一から十まで統制されているというのではなく、現場のひとりひとりが、自分の考えや哲学を持って動いているということがよく分かりました。
――今後の展開について、お考えがあればお聞かせください。
『Unifinity Wizard』は、本当にIT業界の営業の皆さんの生産性を変えるんじゃないかなという気がしています。お客様と会話しながら営業の段階である程度のカタチまで作れてしまうので、SEさんに持ってくるころには、全部決まっている。そういう世界観が作れるんじゃないかと考えています。
リコーとは、これまでの協業をさらに強化して、中身を充実させていけたらと期待しています。また、弊社の新しい事業に、リコーの皆さんに社外副業で参画していただこうというプロジェクトが進んでいます。実は『Unifinity Wizard』でPoCをした後に、ソフトウェア開発を弊社に発注するクライアントが増えています。その対応のため、弊社で開発センターを準備しており、そのエンジニアを募集していますが、そこにリコー社員の方にご参画いただく予定です。カタリストの方々にもお願いしていますし、現場を離れた元エンジニアの方などにも呼びかけています。言語は違っても、プログラミングの経験のある方は飲み込むのも早いので、改めて開発者としてご活躍いただこうと思っています。
TRIBUSにエントリーする際には、漠然と「距離が近づけばいいな」くらいにしか考えていなかったのですが、リコーのさまざまな部署の方々に支えていただいて、製品・サービスも、事業それ自体もとても加速することができました。これからも、良い関係を築きつつ、日本のITビジネスの現場を変えていけたらと思います。