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豪雨による洪水被害から市民を守る巨大調節池をつくる - 境川木曽東調節池工事(その2)

(PR TIMES STORY) 2024年12月13日(金)12時09分配信 PR TIMES

東京・町田市の境川(写真左)に沿って地下深さ22mの雨水貯留施設の建設が進む。完成すれば約4.9万mの貯留が可能だ


神奈川県相模原市・城山湖付近を水源として相模湾に注ぐ境川は、東京都と神奈川県の都県境を流れる、延長約52kmの2級河川だ。そのうち鶴瀬橋上流から根岸橋までの約10kmの区間を東京都が管理している。大林組はこの境川流域で「境川木曽東調節池」の構築を進めている。


気象庁によると、大雨の年間発生回数は増加しており「より強度の強い雨ほど増加率が大きくなっている」と報告されている。日常生活を簡単に壊してしまうほどの豪雨災害が珍しいものではなくなった今、治水強化のための環境整備は喫緊の課題だ。


高度経済成長期の急速な市街地化は境川流域にも浸水被害の増加を招いたが、護岸整備などの推進によって激減した。しかし、近年になって頻発する局地的豪雨はこれまでの対策を上回るほどの猛威を振るい、実際に町田市内の浸水被害も引き起こした。そうした中で、流域の暮らしを守るための治水施設整備が加速している。


調節池(ちょうせつち)とは、洪水による浸水・氾濫を防ぐため川の水を一時的にためておく施設のこと。ためた水は下流側の水位が下がってから流す。境川木曽東調節池の貯留量は約4.9万m。大林組は、急変する天候や現場上空を通る高圧線といったリスクに対応しながら、工事を進めている。


境川木曽東調節池は地下に洪水をためる構造。洪水発生時に取水する越流堤を川に面して構築する


調節池にためた水を河川に戻すために利用する放流渠(きょ)。越流堤と放流渠の工事中は、川沿いの歩道を一部通行止めにしている

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地下躯体の構築が進む境川木曽東調節池(動画再生時間:25秒)

25mプール164杯分を貯留する巨大な箱を地中に構築

豪雨リスクと隣り合わせの中で安全に工事を進める

大林組が手掛けるのは地下箱式の「境川木曽東調節池」。延長約115m、幅約60m、深さ約22m 、25mプールおよそ164杯分を貯留可能な巨大な躯体を地中に構築し、河川の水を一時的に取り込んで水位の上昇を抑える。


この調節池が、いかに必要なものであるか──。入札段階から携わり、2020年の着工時に現場に着任した所長の岡田は「やはり川の水位変化には敏感になります。ゲリラ豪雨や、大型台風の際には、現場に大量の水が流れ込むギリギリまで水位が上昇したこともありました」と説明する。


工事では一部護岸を切り下げる必要があり、現場そのものが豪雨リスクと隣り合わせのプロジェクトであるだけに、より徹底した安全対策が求められる。ウェブカメラによる常時監視、水位を測る量水標に基づく作業中止や避難行動などのルールを決めた。


地下躯体は約22mの深さがあるため、いつ急変するかもしれない天候に応じ、素早く作業員や重機が退避できるようスピーカーを設置して危険を知らせる仕組みも整備した。「天気には絶対がないので、複数の天気予報アプリを活用して多角的な情報収集や分析によって的確な状況判断に努めています」と岡田は説明する。


大林組境川木曽東調節池U工事事務所 所長 岡田康


護岸の切り下げも伴う越流提工事では、河川の退避基準を設定するとともにライフジャケット(赤色)を装着して工事に当たる


上空の高圧線を察知して精度高くクレーンを制御する

全地球衛星測位システムによりセンチメートル単位で停止

現場上空を横断する2系統の特別高圧線。赤色の鉄塔で高い位置を通る橋本線(15.4万V)と、これに直交する低い位置を通る渕野辺線(6.6万V)


神経をとがらせなければならないのは、真横を流れる川や天候だけではない。工事のハードルを上げる要因は、2系統の特別高圧線だ。岡田は「送電線に近づいただけでも感電の危険があり、広範囲な停電を引き起こしてしまう。作業する場合は高圧線から離隔距離を確保することが定められていますし、作業制限範囲の徹底した管理が不可欠だと考え、早い段階から効果的な接触防止策について検討しました」と話す。


そこで、BIM(Building Information Modeling)を活用して3次元の情報をモニターに表示することでオペレーターの安全で効率的な作業をサポートするクレーンマシンガイダンスや、レーザーバリアといった既存のテクノロジーを導入。加えて、大林組として初めて「GNSS(Global Navigation Satellite System:全地球衛星測位システム)センサーを用いたアラートシステム」の開発に着手した。


開発を担当した大林組東日本ロボティクスセンターの佐藤は「高圧線に接近していることを敏感に察知して知らせ、かつ警告と連動してクレーンを停止させるようにしてほしい。そんな相談を受けて、開発に乗り出しました」と説明する。


レーザーの光を面状に照射することでバリアを作り、バリアに侵入する物体を検知して警報を行うシステムを導入


大林組東日本ロボティクスセンター 運営管理部 主任 佐藤圭吾


GNSSセンサーを用いたアラートシステムを搭載した4.9tクローラクレーン。標準搭載の作業範囲規制機能(起伏・伸縮制限)を利用しつつ、制限範囲以外の場所では起伏制限をかけずに施工する必要があったため、本現場ではシステムを併用する


GNSSは高精度な位置情報の取得を可能にする。高圧線の下に検知エリアを設定しクレーンのジブ(アーム)先端に取り付けたGNSSセンサーがエリア内に侵入すると、ブームの動作が制御され、自動で停止する。今回用いられているセンサーは「センチメートル単位」で測位可能な精度を誇り、誤検知の恐れも小さい。


本システムでは、クレーンのジブ先端に取り付けたGNSSセンサーが、設定したエリアへの接近を検知し、警告する。エリアは任意点を結んだエリアで作成でき、複雑な形状や現場の状況に合わせて設定が可能だ。従来技術のレーザーバリア(反射式レーザースキャナー)を設置困難な場所にも対応できる。また、本現場では、警告時に自動で安全に停止するように設定している。


特別高圧線への接触防止対策としてシステムを使いこなすため、クレーンオペレーター用に利用ルールをまとめたマニュアルも作成している。



多角形での検知エリア設定、停止高さ設定が可能

給電や停止アラートなど安全にクレーンを制御するシステムを開発

正しく、安全に停止するシステムとして成立させるため、2023年7月の導入までにおよそ1年間かかった。衛星の信号を安定して受信するためにセンサーは常に真上を向く位置に取り付けることが求められた。試行錯誤して取り付け位置が決まっても、次はセンサーの電源が課題になった。


佐藤と共に開発を進めた、東日本ロボティクスセンターの三谷は「当初はモバイルバッテリーを試しましたが1日で消費してしまったことから、センサーとクレーンの動力を伸縮ケーブルリールでつないで給電する方法に切り替えました。バッテリー切れの心配はなく、クレーンの伸縮も妨げません。エンジンをかけると自動的に作動するため、電源の入れ忘れも防止できます」と説明する。


日々現場で蓄積されていくデータや現場の声から手応えが得られている。今後は「高精度のアラート」に特化した汎用性の高いシステムへと発展させていく計画だという。「安価に、そして早く導入できることが開発のコンセプトです。短工期の現場、あるいは1 、2日のスポットで使用するクレーン、またはクレーンではなく高所作業車などにも取り付けるだけで、手軽に利用できるシステムを目指しています」と佐藤は展望を語る。


大林組東日本ロボティクスセンター 運営管理部 職員(現所属:西日本ロボティクスセンター施工技術部)三谷祐哉


各分野の技術者と連携し課題解決を進める

全ての工事完了は2026年5月末の予定で、現時点で工程の80%程度が完了している。「更地だった段階から乗り込み、工事に携わっていますので、現場に対する思い入れは強いですね」そう話すのは、所長の岡田と同じく、着工から現場をけん引してきた工事長の伊藤だ。課題解決の軸となって、最適な工法の選択や安全性向上を図ってきた。


また、掘削に伴って地下水が地山を押し上げる現象「盤ぶくれ」の対策として採用したハイパーディープウェル工法では大林組技術研究所と、等厚な連続壁で止水性が高いという利点がある TRD( Trench cutting Re-mixing Deep wall)工法による土留めや仮設構台などの工事では大林組土木本部と、協力してプロジェクトを前進させた。


大林組境川木曽東調節池U工事事務所 工事長 伊藤益嗣


越流堤と放流渠の構築では、境川の中に鋼矢板を圧入することにより仮締切を作り、水のない状況で構築作業を進める


ハイパーディープウェル工法の揚水井戸。盤ぶくれを抑えるため、効率的な揚水で井戸本数削減が可能な工法を選択。地下水位低下システムで周辺の地下水環境への影響を防止する


土留め壁の支保には、ハンマーストラット切梁構造を採用して部材数やボルト締結数を大幅に低減。開口面積を約20%拡大でき、作業効率と安全性を向上させた


地域の応援を原動力に

今回の工事は近隣住民の皆さんの理解や協力が欠かせない。「遊歩道が通行止めになるなど不便な思いをさせてしまっているのですが、とてもフレンドリーに声を掛けてくださる方が多いです。地元の小学生や市民の見学会も積極的に受け入れていますが、応援してもらえることで、地域の皆さんから求められた施設だと実感でき、一層頑張ろうという気持ちになれますね」と、伊藤は仕事への原動力を語る。


豪雨災害は「いつか起こるかもしれない」ではなく「明日起こっても不思議はない」との認識に変わり、調節池は大きな安心感を地域にもたらしてくれるはずだ。完成した暁には足場が全て解体された地下躯体を調節池の底から見上げたい。そんな光景を夢見る岡田は「最後まで事故を起こさず、やり遂げることは当然ですが、何よりも、この調節池が機能して地域を守り、社会に貢献することを強く願っています」と決意を語った。




大林組-プロジェクト最前線

「豪雨による洪水被害から市民を守る巨大調節池をつくる」

https://www.obayashi.co.jp/thinking/detail/project89.html


工事概要

名称 境川木曽東調節池工事(その2)

場所 東京都町田市

発注 東京都

設計 建設技術研究所

概要 地下箱式地下調節池(開削延長約115m、幅約60m、深さ約22m、

   貯留量4万9,000m)、越流堤工事一式、仮設工事一式

工期 2020年6月11日〜2026年5月29日

施工 大林組


※ 2024年9月に取材実施。情報は当時のもの


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