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武田薬品工業株式会社

絶滅危惧種にも選定される“世界最大級の花”の標本づくりに傾ける情熱を追う 

(PR TIMES STORY) 2022年12月23日(金)13時04分配信 PR TIMES

左 京都薬用植物園 園長の野崎、右 ショクダイオオコンニャク栽培担当の坪田

比叡山のふもとに広がる京都薬用植物園

京都市左京区に位置する武田薬品の京都薬用植物園。比叡山を望む緑豊かな94,000平方メートルの敷地の中に、約3,200種の植物を保有しています。このうち約2,000種が薬用植物で、256種が環境省版レッドリストにランクされている絶滅危惧種です。


京都・比叡山を望む緑豊かな94,000平方メートルの敷地の中に、約3,200種の植物を

保有する京都薬用植物園


その京都薬用植物園で、2022年の7月に、1993年より栽培するショクダイオオコンニャク(サトイモ科コンニャク属)が、2017年の初の開花以来、約5年ぶりに花を咲かせました。開花したのは2017年と同じ個体で、同一個体での連続開花は、その時点で国内4例目となる快挙であり、メディアでも紹介されました。

やっと開花しても、数日で枯れてしまう“世界最大級の花”のその後

ショクダイオオコンニャクは栽培が難しく、やっと開花しても独特の花の形や強烈な臭いを愛でることができるのはほんの数日しかありません。枯れた後の花はどうなるのでしょうか。今回、京都薬用植物園のメンバーは、同じくショクダイオオコンニャクの開花実績を有する京都府立植物園の協力を得て、貴重な花を標本として残すというプロジェクトに挑戦しました。


ここでは、京都薬用植物園で園長を務める野崎さんに植物園の役割や、生物多様性保全活動を行う理由を、そして、ショクダイオオコンニャクの栽培を含む、熱帯植物の研究・栽培に30年ほど携わる担当の坪田さんに、絶滅危惧種であるショクダイオオコンニャクを栽培する難しさや標本プロジェクトの目的と意義についてうかがいます。


野崎さん、まず京都薬用植物園の役割について教えてください。


野崎:この植物園の活動目的は、@絶滅危惧種など重要な薬用植物の収集・保全、A薬用植物の栽培研究と技術の継承、B医療関係者、学生、児童への教育、研修支援活動の3つとなっており、2000年頃から生物多様性保全に関する取組みを強化しています。日本植物園協会が2006年に開始した植物多様性保全拠点園ネットワーク事業に参画し、「薬用植物の保全拠点園」として、植物の収集・保存、生物多様性保全の普及・啓発に努めています。


京都薬用植物園の園長を務める野崎香樹


園内には、日本薬局方に収載されているトウキ、ミシマサイコなどの重要な生薬の基原植物を中心に、約200種を栽培・展示し、オニバスやコウホネなどの水生植物などが植栽されている中央標本園をはじめ、熱帯・亜熱帯の薬用・有用植物を約700種栽培・展示している温室、メタセコイア、セコイア、カツラなどの高木やコブシ、サンシュユ、ナツメなど薬用の樹木を植栽し、樹林下にはカタクリ、セリバオウレン、フクジュソウなどが自然に近い状態で生育している樹木園、様々なツバキの原種のほか、江戸時代に作出された品種やユキツバキの系統・品種を含め、昭和30年代から収集した560余りの品種を栽培・展示しているツバキ園など、様々なエリアに貴重な植物を保全しています。ショクダイオオコンニャクは、園内の温室にて、担当の坪田さんが大切に栽培している希少性の高い植物です。

広大な園内は、中央標本園、漢方処方園、温室、樹木園、展示棟、ツバキ園、香辛料園、民間薬園など、様々なエリアに分かれている

絶滅危惧種にも選定されるショクダイオオコンニャク

坪田さん、ショクダイオオコンニャクの栽培を担当されていますが、この植物について教えていただけますか?


京都薬用植物園でショクダイオオコンニャクをはじめとする温室植物を担当する坪田勝次


坪田:サトイモ科コンニャク属の希少植物で絶滅危惧種に選定されているショクダイオオコンニャクは、インドネシア・スマトラ島の熱帯雨林に自生しており、学名はAmorphophallus titanumと言います。開花すると、高さ1〜3メートルに伸びた「付属体」を取り囲む仏炎苞(ぶつえんほう)が直径1メートルほどに広がり、全体の姿が巨大な燭台(しょくだい)のように見えることから、この名が付けられています。


ギネスブックで認定された世界最大の記録は花の高さ3.1mで、世界最大級の花といわれています。花は1つのように見えますが、小さな花が集まった花序です。自生地では7年に一度しか開花しないといわれ、国内ではこれまで25例(2022年12月20日時点)の開花報告しかなく、また開花期間は2〜3日と短いため、目の前で開花の様子を観賞できる機会は極めて稀です。開花すると、腐った肉のような強烈な臭いを放ち、世界でもっとも醜い花とも呼ばれます。


2017年に続き、2022年7月に同じ個体での開花に成功した


ショクダイオオコンニャクの栽培は、どのような点が難しいのでしょうか?


坪田:当園は1993年に他の植物園からコンニャク芋を譲り受けて栽培を開始しました。国内外ともに栽培事例が少なく、栽培方法が不明な点も多いため、手探りかつ丁寧な取り扱いを心がけており、温度や湿度の調整、水やりの頻度や肥料の量などの試行錯誤を続けています。休眠期の扱いも重要で、水やりの有無を見極める必要があるほか、芋を傷つけてしまうとそこから何らかの病気に罹患してしまう恐れもあります。また、線虫の寄生を避けるためにも植え替えを良しとする栽培法もありますが、植え替え時に芋を傷つけてしまうリスクと天秤にかけて判断する必要があります。当園ではこの希少な植物の葉挿し(はざし)増殖に成功しており、現在、増殖で得られた10株を栽培し詳細なデータを取得しながら観察を続けています。


この夏、同じ個体からの連続開花を達成し、標本づくりに挑むことになりましたが、その経緯をお聞かせください。

坪田:ショクダイオオコンニャクの花を咲かせるには、日々の積み重ねが大切です。一度咲かせることも大変ですので、それが5年の時を経て再度咲いてくれた時の喜びはひとしおでした。植物園の仲間も大変喜んでくれましたし、何よりも、観賞期間が2〜3日と短い花を、タイムリーに一般公開することができ、多くの皆さまに花の大きさ・個性的な造形・ニオイの強さを体感していただけたことが嬉しかったです。


2022年7月に開花し、4日間限定で一般公開イベントが実施された


そして、京都府立植物園をはじめ、多くの植物研究者や専門家の皆さんも駆けつけて下さり、共に花を観賞し、今後の研究について議論できたのも良い経験でした。ちなみに、ショクダイオオコンニャクの開花は国内で25例あります(2022年12月20日時点)ので、携わった研究・栽培担当者で情報を共有するネットワークができているのです。およそ15名くらいでしょうか。今回の開花に関してもこの全員と連絡を取り合い情報を共有し、そのうち10名ほどが、実際に花を見に来てくださいました。京都だけでなく、東京や豊橋や、日本中から。本当にありがたいですし、彼らとの情報共有は楽しくて実りがあります。


開花した花を目の前に皆さんとお話しをする中で、花が枯れてしまったあとは、標本にしてみてはどうか?という話になりました。5年前に当園で咲いたときは、標本化には挑戦できていませんでした。今回、ありがたいことに、昨年に開花があり、標本づくりに携わった京都府立植物園の磯見さんとボランティアの皆さんの直近の経験から協力を得られることになり、私どもとしても、ぜひ標本づくりを試してみよう、ということになりました。

細心の注意と地道で繊細な作業を要する標本づくり

ショクダイオオコンニャクの花を標本にする作業は難しいものなのですか?


坪田:はい。ショクダイオオコンニャクの花は大きいだけでなく形状が複雑で、かつ付属体の部分など、厚みのある植物なので、乾燥させるだけでも大変難しく、繊細かつ地道な作業が必要になります。また、経験がものを言いますので、昨年の記憶がフレッシュなうちに、技術を持った京都府立植物園の職員さんやボランティアの皆さんの助言と協力が得られたことも本当に大きかったです。花や付属体など、部分により厚みや色も違うため、カットして下準備する作業から、乾燥し、標本として糸で土台に縫い付けていくにしても、すべての過程で相当な作業量を要し、かつ、神経も使います。


葉と付属体の切断、解体、乾燥、台紙への縫い付けまで、標本作成の手順は多く、時間も要する


さく葉標本を作製する手順を教えてください。


坪田:花は開花後わずか数日で枯れてしまいます。できるだけ綺麗な状態で仕上げるためには、そろそろ付属体が倒れるという段階から作業を開始する必要がありました。7月2日の開花の5日後に、葉と付属体を傷つけないように、慎重に根本から切断し、大型バケツ内に固定して京都府立植物園に運びました。その日のうちにパーツごとに切断して、太さのある付属体の部分の中身を取り出して平面にし、あとは押し花の要領で新聞紙に押さえつけました。


額装前のさく葉標本


乾燥までには日数が必要ですので、毎日、様子を見ながら新聞紙を取り換えて徐々に乾燥させていきました。これには京都府立植物園のボランティアの皆さん、計20名様ほどがお手伝いをしてくださいました。標本として縫い付けられる状態になるまで、約60日間かかりました。その後、台紙への縫い付け作業を始めました。葉や付属体など、微妙な色の違いにあわせて糸を選び、その糸でひと針ひと針、丁寧に台紙に縫い付けていきます。最後に空気が入らないように慎重に額に入れて、9月末に完成しました。


額装のもよう 空気が入らないように慎重に行った


標本の作製経験がものを言うポイントは、たとえばどういう手順ですか?


坪田:花の採集、切り分け方、乾かす作業、台紙に縫い付ける作業、すべてに昨年の経験が生かされました。花の部分ごとに質が違うので、それぞれの切り方や扱い方は、昨年は試行錯誤しつつだったそうですが、今回は京都府立植物園の皆さまのアドバイスにより、ほぼ迷いなく進めることができました。


乾燥の下準備などもポイントと言えるかもしれません。付属体の部分はたっぷりと繊維質が入っているので、それをうまく取らないと乾燥できません。その方法も適切な量を取り除く必要があるので、どの程度取ったら成功するか、綺麗にかつ正確に標本として残すことができるか、そういうところに経験値が生きています。そのおかげで、たいへん美しい標本に仕上げることができました。

左から、2022年開花の花の写真、その花のさく葉標本、2017年開花時の写真


複数の植物園が協力した、チームワークで仕上げた標本なのですね。


坪田:はい。先日、京都府立植物園の職員さんとボランティアの皆さんが額装した完成品を見るために当園にいらっしゃいました。標本の出来栄えをご覧になり、「美しく仕上がっています。額装された姿は想像以上に良い出来栄えです」との感想をいただき、大変嬉しかったです。


他にどのような感想がありましたか?


坪田:標本を作製するのは花が終わった直後が良いそうです。今回はタイミングよく作業を進めることができたので、雌花の状態がとてもよかったとのご意見です。また、この標本をぜひショクダイオオコンニャクの今後の研究に生かしてほしいというコメントもいただきました。植物の大きさを確認したり、実物では見られない雄花、雌花の確認など。そして、将来的に DNA を調べて進化の不思議の解明に役に立てばよいと言う方もいらっしゃいました。


京都薬用植物園としては、この標本をどのように活用していきますか?


坪田:研究成果の発表・知見の共有活動の一環として役立てたいと考えています。当園にはたくさんの標本が保管されており、中には100年前のものもあり、現在も研究に役立っています。今回、額装したショクダイオオコンニャクの標本を見やすく展示するために、展示棟の中に専用スペースを作ろうと考えています。生物多様性を紹介するチームと協力して啓発活動に活かせる展示をつくり上げていきます。また、国内外のショクダイオオコンニャク栽培ネットワークの皆さんとも知見を共有していきたいです。今後、花が咲いたあとに標本を作りたいという皆さんの参考になると思いますし、今度は私たちが他の植物園の方々のお手伝いができればと考えています。また、日本植物園協会の協会誌にも研究成果として情報を共有し、掲載いただく予定です。


野崎園長、ショクダイオオコンニャクの保全活動は京都薬用植物園での活動の一例だと思いますが、今後、園としてどのような活動に注力していきたいとお考えですか?


野崎:先にご紹介したように、京都薬用植物園の活動には3つの柱があります。現在は生物多様性保全や啓発活動にも力を入れており、地元の京都府、京都市をはじめとした自治体の皆さまや植物の専門家の方々との連携を深めています。2021年には京都市と生物多様性保全に関する協定を締結させていただいており、その枠組みの中で、つい先日、京都府保健環境研究所・京都市衛生環境研究所施設の中に、府民・市民の皆さまが植物に触れて学ぶことのできる植栽コーナーの設置に協力するなど、地元に密着した活動も広く実施しています。また、世界的な環境保全活動である30 by 30(2030年までに陸と海の30%以上を健全な生態系として効果的に保全する目標)アライアンスにも参加しています。今後も自分たちにできる活動を確実に、誠実に行っていきたいと思います。

 

希少な薬用植物の保護・保全の観点から、通常は一般公開していないが、年4回、完全予約制の見学会を実施している


武田薬品では、野崎さん、坪田さんはじめ、植物園のスタッフが担当エリアを紹介する動画と植物園に関するトリビアを、「世界に尽くせ、タケダ。」サイトで公開しています。ぜひご覧ください。


「ルーツ探訪 時代を超えて社会に尽くす、京都薬用植物園」

https://www.240.takeda.com/exploringroots/01/



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