プレスリリース
日本のスタートアップ業界は、ここ数年で急速に成長を遂げ、資金流入が増加し、起業家の質も向上している。しかし、アメリカや中国と比較すると、ビジネスモデルや技術の革新性、売上の規模、そして成長率が見劣りするという声も多い。果たして永久にそうなのだろうか?彼我間の差を埋めるためには、何が必要なのだろうか?
このストーリーでは、日本の可能性を信じているシリコンバレーのアメリカ人が中心となり、その貴重な時間とネットワーク、更には自らの資金も投じて、日本のスタートアップの為にGo Globalの背中を押してきた歴史を、Japan-US Innovation Awardの誕生秘話も織り交ぜながらお届けします。
シリコンバレー現地の方々が1年をかけて審査し、日米において革新的なスタートアップ企業を選ぶ 「Japan-US Innovation Award」
2024年7月18日,スタンフォード大学のアリラーガ・アルムナイ・センターに於いて,今年で14回目を迎える Japan-USS Innovation Awardが開催された。
2011年に始まったこのイベントは、シリコンバレーで日本に関係が深いアメリカ人と現地在住の日本人を中心に、日米で革新のあった企業を表彰するイベントである。ロードスターを出して間もない時代のTeslaや、コロナ以前のブームになる前のZoomなど、審査メンバーの先進性には定評のあるAwardである。2015年からは、さらに Innovation Showcaseという部門が新設された。これは、今後の成長が期待される日本のスタートアップが選出され、スタンフォード大学でプレゼンの機会を得ることに加え、資金調達や人材採用、営業組織の構築など、それぞれのスタートアップ企業のニーズにあったメンターを、シリコンバレー現地のコミュニティの中から紹介してもらう事が出来るプログラムである。これまでにWhill、Spiber、Preferred Networks、Treasure Data、ABEJA、Astroscale、 ispaceといった企業が、まだアーリーな段階で表彰されている。
Japan-US Innovation Awardは、スタンフォード大学のUS-Asia Technology Management Centerと、Japan Society of Northern California (JSNC)の共催イベントである。このJSNCというのは、1905年(明治38年)に設立された米国の民間非営利団体(NPO)である。日露戦争に勝利した日本に対する脅威から排日論が進む中、スタンフォード大学の初代学長であるデイビッド・スター・ジョーダンと、サンマテオ出身の弁護士で日本美術愛好家のヘンリイ・パイク・ブイ、当時サンフランシスコ領事だった上野季三郎の3人が中心となり、日本の文化や美術、歴史や言語の伝承を通じ、日米の友好を深める目的で設立され、今日ではシリコンバレーという特徴を活かし、イノベーションと経済成長に関するイベントも加えながら、その活動を続けている。
GHOVCパートナーのアレン・マイナーから始まった活動
アレン・マイナーの事をご存じの方も多いと思う。彼は Oracle Japanの創業者で初代の代表取締役である。Oracle Japanが日本で上場を果たしたあと、アレンはサンブリッジを設立し、国内外でのスタートアップ投資事業や、海外のIT製品の日本での販売事業を行ってきた。マクロミル、ガイアックス、オウケイウェイヴ、アイティメディアといったIPO企業への投資実績に加え、Salesforce Japanや Marketo Japan、Concur Japanを設立、更には日本ベンチャーキャピタル協会の創設に関わるなど、日本のIT業界、並びにスタートアップ業界におけるレジェンド的な存在である。
アレンは日本のスタートアップの長年のサポーターであると共に、2000年代からその可能性とグローバル展開の必要性を提唱していた一人だ。2008年にはシリコンバレーの Plug and Play Tech Centerに日本のスタートアップの為の席を自腹で用意し、ネットオフやパンカク、モルフォ、フィジオスといったスタートアップを招致。
同Centerの「iExpo」というイベントでWinnerやFinalistに選ばれるきっかけも作っている。
「日本のイノベーションやスタートアップは、シリコンバレーのスタートアップに比べて遜色はない。臆することなく、どんどんこちらに来て、勝負して欲しい。」「シリコンバレーの人達に、もっと日本のスタートアップの素晴らしさを知ってほしい」iExpoを通じて、この想いを強くしたアレンは、Plug and Playとは別のイベントを自らが中心となって行うべきだという結論に至る。協力を依頼したのが、北カリフォルニア・ジャパン・ソサイアティのジョン・トーマスと、長年の友人でもあるスタンフォード大学のリチャード・ダッシャー教授だった。
ジョン・トーマスとリチャード・ダッシャー教授
ジョン・トーマスは、JP Morgan Trust Bank Japanの社長を務めた後に帰国。爾来これまで25年の長きに亘り Japan Society of Northern California (JSNC)で活動してきた。2002年から2008年まではJSNCの会長を務めている(第二次大戦後最長)。ジョンはアレンの提案に二つ返事で同意。当時、駐日米国大使であったジョン・ルースも巻き込みながら話を実現化させていく。更にスタンフォード大学のUS-Asia Technology Management Centerのセンター長であるリチャード・ダッシャー教授の協力も得て、2011年にJapan-US Innovation Awardは立ち上がった。
日本の成長著しいスタートアップに注目
日米において、革新的な企業をEmerging Leaderとして表彰する形で始まったのがJapan-US Innovation Awardだったが、日本にはまだ成長途上ではあれど、注目すべき沢山の技術、及びスタートアップ企業がある。これら新星に焦点をあてるべく2015年に始まったのが、Innovation Showcase Programである。
このプログラムでは、毎年5社のスタートアップを、シリコンバレー在住のInnovation Advisor Councilのメンバーが選出。この5社に、スタンフォード大学の講堂でプレゼンする機会を提供すると共に、それぞれの会社のニーズあったメンターをアレンジする事にある。メンターのアレンジは、ダッシャー教授を中心としたSteering Committeeのメンバー達だ。今まで協力してもらったメンターには、シリコンバレーの著名VCや、スタートアップ経営者、関連技術に関して研究を重ねるスタンフォード大学の教授、著名弁護士事務所の特許関係のパートナー、人材コンサルなど多士済済。このInnovation Awardに関わるメンバーはすべてボランティアベースである。こんなところにも、シリコンバレー・ローカルが持つ「Pay it forward」の文化が感じられる。
Innovation Showcaseに選出され、シリコンバレーのエコシステムからメンターを受けた会社は、これまでの累計で50社となり、上場を果たした企業も多い。これらスタートアップの横の連携を強くする為に、毎年在日アメリカ大使公邸において、レセプションも行っている。
Showcaseプログラムに選出されたスタートアップ達が、次の世代のスタートアップのメンターになっていく流れも始まりつつある。
2023年11月17日、Innovation Awardの創設者の一人であるジョン・トーマスがこの世を去った。日本を愛し、日本を信じ、1905年にJSNCを設立した人達と同じ思いを持つアメリカ人が旅立っていった。しかし、その想いは確実に次世代へとバトンタッチされている。アレンがPlug and Playで日本のスタートアップの為に自腹をきったのが2008年、Japan-US Innovation Awardが立ち上がったのが2011年。現在の日本のスタートアップ業界の隆盛は、想像だに出来なかった時代である。それでも、日本のイノベーションを信じて、自らの損得抜きに行動し、命を燃やした、そしてまだ命を燃やしてくれているアメリカ人がいる。我々は、こうして井戸を掘った人のことを忘れてはならない。そして成功の裏には、こういった篤実な国内外の方々の、地道な努力があることを。