プレスリリース
テレビやネットニュースで最近よく目にする「昆虫食」。聞いたことはあっても、「本当に虫を食べるのか?」「味や栄養は?」といった思いを抱く方も多いかもしれません。
創業74周年を迎える教育の出版社・株式会社新興出版社啓林館は、社内の児童書ブランド・文研出版から、昆虫食の図鑑「ホントに食べる? 世界をすくう虫のすべて」を2020年4月に刊行しました。
企画を出したのは、長野県出身で幼い頃から昆虫食に親しんできた本書の編集者。アイデアが生まれてから10年近くを経て出版に至るまでのストーリーを、編集者生田よりお伝えします。
左から、編集者の生田と監修者の内山昭一先生
「昆虫食は恥ずかしいこと」と思って育ってきた
私にとって、昆虫食は幼い頃から身近でした。日々の食卓にあるものではありませんでしたが、祖父母の家に行くと、祖母がよくイナゴの佃煮を食べさせてくれました。昆虫ではありませんが、タニシの味噌汁も、そんな思い出の一品です。ハチノコやザザムシなども、目にする機会がよくありました。
本書にもレシピが紹介されているセミチリ
ですが、成長し地元を離れ、長野県出身だと話すと、「虫食べるんでしょ?」と冗談めかして言われることばかり。そんな中で「昆虫食は恥ずべきこと」という意識が強くなりました。
そんな思いに変化が起きたのは2013年頃。とある有名料理人の方が雑誌で発表された昆虫料理でした。昆虫たちが高級料理のように、誇らしげに並んでいる様子を見て、「食べたい!」と思うとともに、昆虫食を取り巻く世界が変化する兆しを感じました。昆虫食をめぐる新しい時代が来るのならば、子どもの世代にこそ働きかけが必要なのではないかと考えました。
メリットがたくさんある昆虫食の可能性を信じて
企画を提出するにあたり、昆虫食について調べてみると、健康や環境の面において多くのメリットがあることがわかりました。栄養面では、昆虫100gのカロリーが大豆200gに相当するほど高カロリーであり、ビタミン・ミネラルがたっぷり含まれ、栄養価が高いこと。
しかも家畜1個体の可食部は骨や皮を除いた肉が約40%であるのに対し、昆虫はほぼ丸ごと食べられるので、生きるのに必要な栄養素をバランスよく摂ることができます。加えて昆虫は種類個体数が地球上で最も多く、温室効果ガスをほとんど出さず、養殖に必要な水や土地も少なくて済むなど、地球環境面でのメリットも大きいのです。
本書の1ページ
ちょうどその頃、2013年は、国連食糧農業機構(FAO)から昆虫食の世界的展望を記した報告書が発表された年でした。いずれ来るだろう昆虫食が必要不可欠な世界。それに向けて抵抗なく昆虫食を受け入れるためには、やはり児童に向けたアプローチが必須だろうと考えました。
また、資料として読んだ、昆虫料理研究家の内山昭一先生の書籍がとてもキャッチ―な視点で書かれており、「きっと子どもたちが興味を持ってくれる本ができる」と確信し、図書館向けの昆虫食書籍として企画を出しました。
企画がなかなか成立しないもどかしさ
最初に企画を出したのは2014年ですが、実現には至りませんでした。昆虫に苦手意識を持つ児童が多いだろうということ、それを食べるとなると、尚更嫌悪感が増すのでは、ということが大きな理由でした。
文研出版ではそれまで社会問題を扱った図書館向け商品を多く出版していたことから、「昆虫食という新しい切り口で、環境や社会面にアプローチする」ことに観点を絞り、新しい情報を常に調べつつ、めげずに企画を出し続けました。当時の上司の「おもしろいと思う」という後押しを受け、スタートを切ることができたのは、2018年のことでした。
日本で買える昆虫スナック
昆虫食に抵抗のある人が9割。その中でどんな本を目指すか
現在、世界では20億人が約1900種類もの昆虫を食べている一方で、日本では「昆虫食に抵抗のある人が9割」というニュースもあります。だからこそ、読者が楽しんで「虫ごはん」に触れられることを大切にして、制作を進めました。
内山先生や、外部制作委託したウララコミュニケーションズ、リアルコーヒーエンタテイメントの皆さまと話し合いを重ね、クイズやランキングを入れ、採集の方法や調理にわかりやすいポイントを入れるなど工夫しました。たとえ発せられる言葉が「えー」でも「キモい」でも、この本をたくさんの子どもたちが囲んでくれることを期待して、開きやすい横長の判型を採用しました。
決して食べることを強要する本ではなく、あくまで昆虫食の入り口として楽しんでもらうことを念頭に、制作を進めていきました。他に例のない書籍だったこともあり、構成を決めること、また取材や写真収集などに時間がかかり、予定より数か月遅れて、2020年4月に発刊に至りました。
抵抗のない1割の人に大いに食べてもらい、その人たちから広がっていってほしい
自身の幼少体験から、子どものうちに昆虫の命、ひいては昆虫食に触れることの重要性を実感していた内山先生にとって、この書籍への期待はひとしおです。内山先生は以前から、特に夏休みの自由研究で昆虫食を取り上げる小学生が多いことを感じており、夏にはもってこいの書籍だと思います。この夏もこの本を使って、ぜひ有意義に過ごしていただきたいと感じています。
「昆虫食に抵抗がある人が9割」というニュースに対して、内山先生は「抵抗のない1割の人に大いに食べてもらって、その人たちから広がってほしい」と話します。
さまざまな工夫を凝らし、昆虫食の小学生向けの書籍でありながら、大人が読んでも十分に昆虫食のムーブメントが理解できる「昆虫食の超入門書」となりました。書籍の最後には「虫グルメ認定証」もあります。ぜひ、この本を読んで虫グルメになってください。全国の書店およびネット書店で販売中です。
【本書について】
「ホントに食べる? 世界をすくう虫のすべて」
内山昭一/監修
発行年月/2020年4月
A4判/上製本/128ページ
4色/日本語
定価/本体3,600円+税
小学校中学年〜一般向け
ISBN978-4-580-88627-8
NDC 383 / C8045
【出版社情報】
株式会社新興出版社啓林館
研出版児童図書部
東京都京区向丘2−3−10
TEL:03−3814−5185
FAX:03−3814−2159