プレスリリース
消費電力20%以上の削減が期待でき、カーボンニュートラルの実現に貢献
NEDOが委託する「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業」の一環として、沖電気工業株式会社(OKI)と国立大学法人東北大学は、光インターネットサービスで採用されるパッシブ光ネットワーク(PON)システムを効率よく運用することを目的に、必要な通信量を人工知能(AI)で予測して効率よく資源を割り当てる「仮想化資源制御技術」(以下、本技術)を開発しました。総トラフィック量をAIで予測し、オープンソースソフトウエア(OSS)ベースの仮想PONで自律的な波長資源の増減切り替え実験に成功したのは、世界初となります。
本技術の効果を消費電力に置き換えた場合、既存方式と比べて20%以上の削減が期待できます。また、既存のPONで使用される通信局側の光信号送受信装置(OLT)の消費電力は、ポートあたり年間約8.8kWhとされており、本技術の活用によって年間約1.8kWh以上の削減が期待できます。ポスト5Gのサービスが社会実装される2025年ごろには、全国で現在の約100倍にあたる数千万台のOLTの設置が予想されていることから、本技術の活用によって年間約2GWhの消費電力削減(二酸化炭素(CO2)換算で約920t削減)が期待できます。あわせてPONシステムの加入者側装置(ONU)やアンテナ側のスリープ制御も含めた場合、さらなる消費電力の削減が見込めることから、カーボンニュートラルの実現への貢献が期待されます。
[画像1: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/17036/677/17036-677-a0d398135be3bc2ae37a27ecc2e1f201-1000x424.jpg ]
1.背景
2020年に開始した第5世代移動通信システム(5G)では、第4世代移動通信システム(4G)から高速大容量化したサービスが展開されていますが、2025年ごろにはさらに超多数接続・超低遅延といった機能が強化されたポスト5Gのサービスが見込まれています。
ポスト5Gでは、膨大なIoT機器とセンサーを組み合わせたサービスや自動運転サービスなど、さまざまなサービスの提供が期待されるため、基地局に設置が必要なアンテナ(セル)数は4Gのマクロセル(注1)に比べ約100倍に増大します。また、2030年ごろに見込まれる第6世代移動通信システム(6G)では、セル数が一層増大すると予想されます。これまで基地局からセルへの光配線はPoint-to-Point方式(注2)で接続していましたが、ポスト5G以降、同じ方法で敷設を行った場合、光ファイバーの本数が爆発的に増え、運用コストが高騰し、消費電力も増大します。一方で、今後のモバイルシステムは有線ネットワークと同様に仮想化が検討されており、RAN(注3)部分のオープン化も検討されているため、RANの光伝送部分はさまざまな方式が適用できるようになります。
このような背景の下、NEDOが委託する本事業(注4)において、OKI、東北大学はOSS(注5)をベースとした仮想PON(注6)システムの構築や資源の割り当て、AIによる最適資源予測技術の開発などに取り組んできました。
2.今回の成果
本技術において、OKIはPONシステムに適応して駆動する資源制御技術の開発として、XGS-PON(注7)をベースに異なる2波長(10Gbps×2)を使用した仮想PONシステムの構築と、ネットワーク機器オープン化の業界団体ONFで規定されるアクセス向けOSSのONOS/VOLTHAに波長/時間の帯域資源によるスライス(注8)を割り当てる機能の構築(スライスごとに低遅延、最大帯域などの通信要件の確保)を行いました。東北大学は、トラフィックのAI予測技術の開発として、イタリアテレコムのオープンデータを用い、時系列データの予測によく用いるロング・ショートターム・メモリー(LSTM)を使った学習と、複数エリアを演算することでメモリー使用率の低減に向けた予測・実装を行いました。
この結果、ONUが送受信する波長を切り替えることでOLTへの収容を変更でき、1波長あたり10Gbpsの通信量をまかなえます。実証実験では2波長(20Gbps)を実装し、総トラフィックのしきい値(境目となる値)を8Gbpsとすることで、AI予測の結果がしきい値以下の時は1波長(1台のOSU(注9))ですべてのONUを収容し、しきい値以上の時は2波長(2台のOSU)でONUを収容できるように波長資源を制御し、資源の割り当てを変更することに成功しました。
波長資源増減の概要図(図2)では、総トラフィックがしきい値を超えると、ONU3の波長をλ2に変更することで、ONU1とONU2はOSU1で収容、ONU3はOSU2で収容することになります。このため、しきい値以上のトラフィックが発生しても、通信回線にアクセスが集中し、つながりにくくなる輻輳(ふくそう)が起きることなく、通信が可能になります。なお、総トラフィック量をAIで予測し、OSSベースの仮想PONで制御する、自律的な波長資源の増減切り替えを実証したのは、世界初となります。
[画像2: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/17036/677/17036-677-c8cfc5bb7f95d31afd6527fa3f0bc788-1000x484.jpg ]
本技術は、膨大なアンテナと基地局をつなぐ光通信ケーブルの効率的な運用をPONスライス制御技術により実現するものであり、スポーツイベント、交通渋滞などで不定期に人が集中するエリアや、オフィス街/住宅街など時間帯により人が集中するエリアに適用すると効果が発揮できます(図3)。具体的には、必要なトラフィック量の増減をAIで予測し、その結果からトラフィックのダイナミックな変動に対応してサービスごとのスライスを割り当て、光通信ケーブルに適用されるPONシステムを最適化して駆動することで、利用効率を改善できます。
[画像3: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/17036/677/17036-677-c5c8a3eca3f36564baeec8a06db0e2d3-1001x672.jpg ]
本技術の効果を消費電力に置き換えた場合、既存方式と比べて20%以上の削減が期待できます。また、既存のPONで使用される通信局側のOLTの消費電力はポートあたり年間約8.8kWhとされており、本技術の活用によって年間約1.8kWh以上の削減が期待できます。超多数接続・超低遅延といった機能が強化されたポスト5Gのサービスが社会実装される2025年ごろには、全国で現在の約100倍にあたる数千万台のOLTの設置が予想されています。本技術の活用により、年間約2GWhの消費電力削減(CO2換算で約920t削減)が期待できます。あわせてONUやアンテナ側のスリープ制御も含めると、さらなる消費電力の削減が見込めることから、カーボンニュートラルの実現への貢献が期待されます。
3.今後の予定
今後、OKIは仮想PONの実用化(注10)を目指し、商品開発に取り組んでいきます。また、本技術は今後爆発的に増加するモバイル通信用の基地局アンテナを結ぶ光通信ケーブルの配線効率化にも適用が可能です。ネットワークの課題である消費電力削減の解決だけでなく、「格安スマホ」などのサービスを提供する事業者(MVNO)の運用コストの削減にも貢献していきます。
東北大学はAI予測技術のさらなる精度向上と、予測結果に応じたネットワーク資源割り当て技術に関する研究開発(注11)を進めます。
NEDOは本技術をはじめ、今後もポスト5Gに対応した情報通信システムの中核となる技術を開発することで、日本のポスト5G情報通信システムの開発および製造基盤の強化を目指します。
用語解説
注1:マクロセル
一つの基地局の電波がつながるエリアであり、2km圏の範囲のことを指します。
注2:Point-to-Point方式
光トランシーバを1対1で光ファーバーを用いて接続した光通信方式です。
注3:RAN
Radio Access Networkの略であり、モバイル端末とバックボーンを接続するアンテナ/基地局/回線制御装置で構成するネットワークです。
注4:本事業
事業名:ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業/先導研究(委託)/光アクセスネットワークの仮想化技術の研究開発
事業期間:2020年度〜2023年度
事業概要:https://www.nedo.go.jp/activities/ZZJP_100172.html
注5:OSS
業界団体Open Network Foundation(ONF)で規定、開発されたスイッチやリンクなどのネットワークコンポーネントを管理するONOS(Open Network OS)と、OLTを抽象化するVOLTHA(Virtual OLT Hardware Abstraction)を実装しました。
注6:PON
Passive Optical Networkの略であり、パッシブな分岐で1本の光ファイバー回線を複数の加入者で共有する方式(1対N通信)になります。PONの局側装置がOLT、加入者側装置がONUです。
注7:XGS-PON
ITU-Tで規格化された双方向10GbpsのPONシステムになります。
注8:スライス
ネットワークの物理装置から論理的な機能を切り出した論理ネットワークであり、要件の異なる複数の論理ネットワークを構成できます。
注9:OSU
Optical Subscriber Unitの略、OLTをユニットで構成したものになります。複数のOSUでOLTが構成されます。
注10:仮想PONの実用化
OKIでは仮想PONの実用化を目指し、以下の取り組みを進めています。
「光アクセスネットワークの仮想化技術の研究開発」が経済産業省、NEDOの「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業/先導研究(委託)」に採択 https://www.oki.com/jp/press/2020/11/z20085.html
「Beyond 5G向け大容量・低消費電力を実現する光アクセス資源制御技術」 https://www.oki.com/jp/otr/2023/n241/html/otr241_r07.html
注11:研究開発
東北大学ではAI予測技術のさらなる精度向上に向け、以下の取り組みを進めています。
「モバイルトラヒック予測に基づく仮想ネットワーク最適化」 https://www.cn.riec.tohoku.ac.jp/research/#research_optslice
沖電気工業株式会社は通称をOKIとします。
その他、本文に記載されている会社名、商品名は一般に各社の商標または登録商標です。
本ニュースリリースの内容についてのお問い合わせ先
NEDO IoT推進部
TEL:044-520-5211
OKI 広報室
お問い合わせフォーム
https://www.oki.com/cgi-bin/inquiryForm.cgi?p=015j
東北大学 電気通信研究所 総務係
TEL:022-217-5420
本件に関するお客様からのお問い合わせ先
OKI 技術本部研究開発センター
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