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国立大学法人千葉大学

金属触媒・酵素触媒の力で生物活性分子群の骨格を不斉合成

(PR TIMES) 2022年12月05日(月)17時45分配信 PR TIMES

―新たな手法の開発により創薬シーズ創出へ前進―

千葉大学医学薬学府博士後期課程3年生 橋本佳典氏、大学院薬学研究院 原田慎吾講師及び根本哲宏教授の研究グループは、金属元素を含む触媒と酵素触媒を駆使することで、薬理効果を示す多くの天然有機化合物に含まれるアザビシクロ[3.3.1]ノナン環を有する縮環インドール骨格(注1)の触媒的な不斉合成法(注2)を開発することに成功しました。本研究成果により、薬用植物などに含まれる薬理活性分子群を人工的に合成できるため、多様な分子骨格ライブラリー(注3)の構築が可能となり、迅速な創薬シーズ創出が期待できます。
この研究成果は、本邦とドイツ連邦共和国Bielefeld大学Harald Groger研究室との国際共著論文として、2022年11月28日に”ACS Catalysis”に掲載されました。

研究の背景

アザビシクロ[3.3.1]ノナン骨格(図1、赤色部分)は、抗がん作用をはじめとする、多くの薬理効果を示す天然有機化合物や医薬有効成分に含まれる重要な分子構造です。また、この部分にインドール環が結合した天然有機化合物も同様にさまざまな薬理効果を示すことから、創薬シーズとして注目を集めています。しかし、植物からの抽出方法が報告されたにもかかわらず、供給量が少ないせいか薬理効果の検証が十分に行われていない天然有機化合物も数多くあるため、インドール縮環型アザビシクロ[3.3.1]骨格を効率的に構築する新たな手法の開発は重要です。
これらの天然有機化合物はこれまで、特定の化合物の合成のみを目的とした「標的指向型合成法」で作られてきました。しかし、図1にも示すように、天然有機化合物のインドール部位の置換パターンは様々であることから、1つの合成法で天然有機化合物を網羅的に合成することは困難でした。
[画像1: https://prtimes.jp/i/15177/666/resize/d15177-666-30408a2a6266670de790-0.png ]



研究成果1- 金属触媒(注4)による対称化合物の合成と酵素触媒(注5)による対称性の崩壊

同研究グループは、分子内にジアゾ基(C=N2)を有する化合物に対し、安価で毒性の低いCu(銅)触媒を作用させることで、対称構造を有するアザビシクロ[3.3.1]ノナン骨格を構築しました(図2)。その後、酵素触媒を用いた加水分解反応の検討を行いました。反応系中にpHの変化を色の変化として目で見ることができるBTB試薬を入れることで、反応の進行を可視化しました。60種類を超える酵素触媒を効率的に検討した結果、反応を促進できる触媒を特定できました。さらに検討を続けた結果、それらの酵素触媒は、有機触媒では困難だった高い立体選択性を発現可能であることがわかり、目的のキラル(注6)化合物を得ることに成功しました。

[画像2: https://prtimes.jp/i/15177/666/resize/d15177-666-0a75cbbb201de205fe0a-2.png ]



研究成果2- 多様性指向型の変換

同研究グループは、合成した化合物を更に変換することで、天然有機化合物の合成経路における中間体へと導き、20種類を超える天然有機化合物の合成が可能となりました(図3)。本手法は、合成経路終盤にインドール部位を導入できることから、様々な天然有機化合物の合成への応用が期待できます。効率良く様々な縮環インドール類を含む化合物ライブラリーの構築が可能なことから、合成化学のみならず創薬科学に対する波及効果も期待でき、迅速な創薬シーズ創出への貢献が予想されます。

[画像3: https://prtimes.jp/i/15177/666/resize/d15177-666-ec5bde1dbf8138ed5d9f-1.png ]



研究者のコメント(千葉大学大学院薬学研究院 原田慎吾 講師)

今回の研究によって、天然有機化合物の新しい触媒的不斉合成法が開発されたことに加え、反応の進行を可視化できる実用的な手法を公表することができました。本法を用いることで、大掛かりな機器を使うことなく、迅速で網羅的な触媒の検討を実施することができます。従来法と比較すると使い方により十倍以上高速で、有望な活性を有する触媒を選抜することが可能となります。またこの研究プロジェクトは、千葉大学国際交流事業の「若手教職員・研究者の海外渡航支援プログラム」の支援を受け、Gröger研究室とのスタッフ・学生の交換留学が始まり、国際共同研究へと発展することで実現しました。


論文情報

論文タイトル:Merging Chemo- and Biocatalysis to Facilitate Syntheses of Complex Natural Products: Enantioselective Construction of N-Bridged [3.3.1] Ring System in Indole Terpenoids
著者:Yoshinori Hashimoto, Shingo Harada, Ryosuke Kato, Kotaro Ikeda, Jannis Nonnhoff, Harald Gröger, Tetsuhiro Nemoto
雑誌名:ACS Catalysis
DOI: https://doi.org/10.1021/acscatal.2c04076

用語解説

(注1)インドール骨格:ベンゼンとピロール(五員環構造を持つ窒素原子を含む芳香族化合物)が縮合した化学構造。
(注2)不斉合成法:ある化合物の三次元化学構造と、それを鏡写しにした三次元化学構造を作り分ける方法。
(注3)分子骨格ライブラリー:様々な分子骨格を持つ化学物質のコレクション。創薬研究において、網羅的な生物活性の評価が可能となることから創薬シーズの探索に有効となる。
(注4)金属触媒:自身は変化しないが化学反応を促進する機能(活性化エネルギーを下げる作用)を持ち、金属元素を含む物質のこと。一般に高い活性を有するものが多い。
(注5)酵素触媒:自身は変化しないが化学反応を促進する機能を持ち、生物により作り出される物質のこと。一般に活性が低いものが多いが、反応が進行すれば高い立体選択性を発現することがある。
(注6)キラル:左右の手のように、鏡像関係にあって重ね合わせることのできない物質の性質。



プレスリリース提供:PR TIMES

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