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国立大学法人千葉大学

レーザー照射がダイヤモンドの変質状態と導電性に与える影響を明らかに

(PR TIMES) 2022年11月01日(火)11時15分配信 PR TIMES

〜高電圧用のダイヤモンド電子デバイスの開発へ前進〜

千葉大学大学院工学研究院の比田井洋史教授、尾松孝茂教授らの研究チームは、レーザーの照射により絶縁体であるダイヤモンド内部の一部が変質して導電性を示す現象について研究しました。その結果、試料に照射されるエネルギーの総量が小さいほど変質領域の導電性が高くなる、すなわちエネルギーが小さいほど変質量が多くなるという特異な現象を発見し、その原因を解明しました。これまで明らかになっていなかったレーザー照射条件によるダイヤモンド変質領域の形状と導電性の違いを明らかにした本研究結果は、ダイヤモンド変質領域を利用した高電圧用微細配線のような電子デバイス開発への貢献が期待されます。
本研究成果は、2022年10月31日に学術誌Scientific Reportsで公開されました。

研究の背景

ダイヤモンドはシリコン半導体などと比較して、10倍以上の高い熱伝導率や電気絶縁性といった優れた特性を有するため、半導体材料や電子デバイスへの応用が期待されています。特に、超短パルスレーザー(注1)の照射によりダイヤモンド内部は導電性をもつ黒色のアモルファスカーボン(注2)に変質することが知られており、近年はその応用手法が研究されています。ダイヤモンド内部にワイヤー状の変質領域を作製する手法は図1の通りです。

[画像1: https://prtimes.jp/i/15177/648/resize/d15177-648-5190b8623396d6741fcc-3.png ]

角柱のダイヤモンドの内部でレーザー焦点を移動することで、図2のようにダイヤモンドの裏面からレーザー照射面である表面にかけて、黒色の変質領域がワイヤー状に作製できます。この性質を利用し、ダイヤモンド内部に文字を書き込んだり、電気伝導路として利用できることが報告されています。しかし、レーザー照射条件が変質領域の形状と導電性の関係に与える影響は未解明であるため、それらの制御は困難でした。

[画像2: https://prtimes.jp/i/15177/648/resize/d15177-648-4942dece7994fa74e4ef-2.png ]



研究の内容と成果

研究グループはまず、変質領域の形状とレーザーの強度分布との関係に着目しました。レーザーを試料内部の1点に照射すると、図3のように部分的な変質領域が生成されます。この形状と、レーザーの強度分布の関係を調べ、これらが同形であることを確認しました。

[画像3: https://prtimes.jp/i/15177/648/resize/d15177-648-84b4916e08fab98235e1-1.png ]

次に、導電性について調査しました。ダイヤモンドを移動し、この速度と変質領域の太さ、導電性の関係を調べたところ、図4のような結果を得ました。○が変質領域の直径、□が導電性を示します。図の矢印で示すような領域では、ダイヤモンドの移動速度が速いほど、導電性が上昇し、ある値で急激に減少することがわかります。

[画像4: https://prtimes.jp/i/15177/648/resize/d15177-648-9ab059be4140519f7258-0.png ]

これにより、【焦点移動速度が速い=単位長さあたりの総エネルギーが少ない】ほど導電性が上昇するという特異な現象を示す焦点移動速度の領域を発見しました。この現象は焦点移動速度が速いほど1パルスあたりの変質領域がより長くなることが必要であり、これはレーザー強度が高い部分でのみ、より効率的に変質されるためであると明らかにしました。図3で示した通り、変質領域の直径は焦点で最小になり、また、図4の通り焦点移動速度が速いと直径が徐々に小さくなることから、焦点移動速度が速いほどよりレーザー焦点に近い(レーザー強度が高い)位置で線状の変質が作製されたことによります。

また、図4の青点線より焦点移動速度が速い場合は、変質領域がワイヤー状につながらず不連続になるため、導電性が著しく減少することも明らかにしました。

今後の展望

本研究は、レーザー照射によりダイヤモンド内部に生成される変質領域の形状と導電性が変化する要因を明らかにしました。これは、高電圧用微細配線のような変質領域を利用した電子デバイスの開発に際して、変質領域の物性を制御するために必要不可欠なデータです。今後は導電性を利用したデバイス開発のために、より微細かつ高い導電性を示す変質領域の作製に向けて研究を進めます。


用語解説

(注1)超短パルスレーザー:パルス幅(光の照射時間)が短く高エネルギーが短時間に照射されるレーザーであり、加工困難な材料の加工に使用されている。
(注2)アモルファスカーボン:ダイヤモンドは炭素の結晶であり、同素体(同一元素で構成されているが配列が異なるもの)として、黒鉛(グラファイト)が知られている。アモルファスカーボンはダイヤモンド結合とグラファイト結合の両方を有しており、その結合比によって、物性が変化する。

研究プロジェクトについて

本研究は、NEDO (JPNP14029)、 JSPS科研費(17K18820、18H03749、 JP16H06507、JP18H03884、22K18981、 JP22H05138)、JST CREST (JPMJCR1903)、JST A-STEP (JPMJTM20LE)、JST SPRING (JPMJSP2109)および工作機械技術振興財団の支援を受けて遂行されました。


論文情報

タイトル:Focus movement distance per pulse dependence of electrical conductivity and diameter of diamond internal modification induced by picosecond laser
著者:Daijiro Tokunaga, Masataka Sato, Sho Itoh, Hirofumi Hidai, Takashige Omatsu, Souta Matsusaka
雑誌名:Scientific Reports
DOI:https://doi.org/10.1038/s41598-022-21432-9



プレスリリース提供:PR TIMES

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