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【国立科学博物館】1900万年前の温暖期の地層から“オベチェの森”を発見〜地球環境変化と植生変化との関係解明に期待〜

(PR TIMES) 2023年07月04日(火)17時45分配信 PR TIMES

独立行政法人国立科学博物館(館長:篠田 謙一)は、北海道大学大学院理学研究院の山田敏弘教授らの研究グループとともに、岐阜県美濃加茂市の木曽川河床に露出する約1900万年前の地層中に見られる約130本の化石樹幹を調査し、それらがすべてオベチェ(アオイ科)の仲間の絶滅種ワタリア(Wataria parvipora)であることを発見しました。
ポイント


・岐阜県美濃加茂市の約1900万年前の地層から、オベチェだけから構成される化石林を発見。
・現生のオベチェはアフリカ中部だけに生育するアオイ科の熱帯性樹木。
・本発見は地球温暖化後の植生変化を予想する重要な手がかり。

概要


 北海道大学大学院理学研究院の山田敏弘教授らの研究グループは、岐阜県美濃加茂市の木曽川河床に露出する約1900万年前の地層中に見られる約130本の化石樹幹を調査し、それらがすべてオベチェ(アオイ科)の仲間の絶滅種ワタリア(Wataria parvipora)であることを発見しました。また、この化石林の林床には、1種類の葉ウリノキモドキ(Byttneriophyllum tiliifolium)が降り積もっていました。つまり、この化石林は純林*1であり、化石樹幹と葉化石が同じ樹木に由来することは確実です。
 現在の植物が落葉することから想像できるように、植物の器官は化石になる前に、互いに別れ別れになります。そのため、植物全体が化石として保存されることは極めて稀で、特に大きな樹木全体が化石として見つかることは滅多にありません。その結果、葉や幹に別々の学名が与えられるのが普通です。一方、化石を含む植物の類縁を推定するためには、様々な器官の特徴を総合的に観察することが必須です。ウリノキモドキは約1900-1000万年前の北半球に普遍的に見られるものでしたが、その類縁は分かっていませんでした。今回、幹と葉が“繋がった”ことにより、ウリノキモドキがオベチェの仲間のものであることが初めて解明されました。
 現生のオベチェはアフリカ中央部だけに分布する熱帯性の高木です。ウリノキモドキが見つかる時代は、地球の平均気温が最大で4°C上昇した温暖期にあたります。今回の発見により、この温暖期に高い気温を好む樹木が世界中に拡大したことが示されました。一方、この温暖期の後には、急速に寒冷化が進行します。ウリノキモドキは、寒冷化の開始後も生育していましたが、ついに寒さに耐えきれなくなり、約650万年前に絶滅しました。このような植生史は、植物が温度変化に合わせて分布を変えることを示す一方、ある程度の環境変化に耐える強かさを持っていることを暗示します。
なお、本研究成果は、2023年6月22日(木)公開のScientific Reports誌に掲載されました。
[画像1: https://prtimes.jp/i/47048/627/resize/d47048-627-d0ab6fb3e00385e3f3b9-1.jpg ]


背景


 新生代中新世の前半(約1900-1600万年前)は温暖期にあたり、約1600万年前には地球の気温は現在よりも平均で4°C高くなりました。ウリノキモドキはこの温暖期を代表する葉化石で(p1図左)、北半球から広く見つかっています。ここで「葉化石」と書いたのは、この化石が葉だけに基づいて名付けられた化石であるためです。植物は多くの場合、化石になる前に体を構成する器官がバラバラになります。例えば、植物が落葉することから想像できるように、樹木の幹と葉とが繋がって化石になることは滅多にありません。
 一方、植物の類縁推定は、様々な器官の特徴を組み合わせて行われるのが普通です。そのため、ウリノキモドキは中新世の葉化石として極めてポピュラーなものでしたが、その類縁はこれまで分かっていませんでした。
岐阜県美濃加茂市御門町の木曽川河床には瑞浪層群中村層(約1900万年前)が露出しています。1994年の木曽川大渇水の際には、この場所から約400本の直立樹幹化石*2が発見され、この場所は現在、美濃加茂市化石林公園として公開されています。この化石林の一部はワタリアであることが知られていましたが、化石林を構成する樹種はこれまで包括的に調べられていませんでした。

研究手法


 研究グループは、現在でもアクセスできる樹幹化石約130本(p1図右)の樹種を、岩石剥片を作成して調べました。また面白いことに、樹幹化石の根元にはウリノキモドキを多産する葉の化石層がありました(図1、2)。そこで、この化石層の中に含まれる葉の種類と埋まり方とを調べることにしました。

研究成果


 調べた約130本の樹幹化石は、すべてワタリアであることが分かりました(図3-6)。樹幹の中には直径が1mを超えるものがあった一方(図4、6)、その多くは直径が20 cm以下の若い木でした(図5、6)。つまり、化石林公園に見られる化石林はワタリアの純林であり、この純林が長期にわたって維持されていたことが分かります。また、根元に見られた葉化石の98%はウリノキモドキであること、ウリノキモドキの化石には水によって運搬された形跡がないこと(図2)、が分かりました。このことは、この化石層がウリノキモドキだけからなる落葉層であることを意味します。
 以上の結果を考慮すると、ワタリアの幹にウリノキモドキの葉が着いていたと考えざるを得ません。そこで、葉と幹の化石の特徴を組み合わせて類縁を推定したところ、ワタリア/ウリノキモドキが現生アオイ科のオベチェ(Triplochiton scleroxylon)と近縁であることが分かりました。オベチェやその近縁種であるべテス(Mansonia altissima)は、アフリカ中央部の熱帯地域だけに分布します。また、アオイ科内の両種を含むグループも熱帯から亜熱帯にしか分布しません。これらのことから、ウリノキモドキが温暖期に合わせて、北半球の広い範囲に分布を広げたことが分かります。一方、地球は約1600万年前を境に急速に寒冷化を始めます。ウリノキモドキはその後しばらく寒くなった地球で生きていましたが、約650万年前頃に絶滅しました。ウリノキモドキは湿地を好んだと考えられており、安定的で競争が少ない湿地環境が寒冷気候下での生存を可能にしたのかもしれません。あるいは、ウリノキモドキは温度変化に対してある程度柔軟に対応できたのかもしれません。

今後への期待


 現在の状況のまま温暖化が進行すると、100年後には約4°Cほど地球の平均気温が高くなるという推定があります。ちょうどウリノキモドキが生きた頃の地球と同じ気温です。本研究成果は、地球の気温変化に合わせて、植物の分布が変化する実例を示しました。一方で、植物は意外と強かに気候変動を乗り越えていく可能性も示唆しました。今後、長いスケールでの植生変化を様々な植物化石で観察していくことで、「気候変動により絶滅する植物と絶滅しない植物の違いは何か?」が見えてくることを期待しています。
 純林の化石が見つかることは世界的に見ても極めて稀です。美濃加茂市化石林公園は、市民の皆さんが簡単に訪れることができる場所にあり、このような貴重な場所が長らく保存されていくことを切に願います。

謝辞


 本研究は、特色ある共同研究拠点の整備の推進事業(過去に学び未来を拓く植物多様性保全研究・教育拠点:JPMXP0622716984)及び文部科学省科学研究費研究活動スタート支援(20K22673)の支援を受けて行いました。また、本研究の遂行にあたり、美濃加茂市及び国土交通省から調査・採集の許可を頂きました。

論文情報


[表: https://prtimes.jp/data/corp/47048/table/627_1_75d05f0750d9a172b4b5bf7f6f07e997.jpg ]



参考図



[画像2: https://prtimes.jp/i/47048/627/resize/d47048-627-689ae0fdbc9b42f10881-0.png ]


用語解説


*1 純林 … 一種類の樹木だけで構成される森林のこと。
*2 直立樹幹化石 … 生き埋めで化石になった木の幹のこと。



プレスリリース提供:PR TIMES

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