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国立大学法人千葉大学

ビッグデータが明らかにする日本の敗血症の実態

(PR TIMES) 2021年09月28日(火)16時45分配信 PR TIMES

―超高齢社会の新たな課題―

 千葉大学大学院医学研究院 救急集中治療医学 中田孝明教授、医学部附属病院 今枝太郎特任助教らは、2010年〜2017年の8年間にわたる5,000万人以上の日本の入院患者のデータを抽出し、日本における敗血症(注1)の患者数や死亡数に関する全国的なデータをまとめ、日本の敗血症の実態を初めて明らかにしました。このデータは、日本独自の診療報酬の包括評価制度であるDiagnosis Procedure Combination (DPC)の保険請求に基づくデータベースを利用して抽出したものです。
 本研究により、日本における敗血症患者の死亡率は低下傾向である一方、患者数や死亡数は増加傾向にあることがわかりました。高齢者は敗血症となるリスクが高く、超高齢社会である日本において、今後も敗血症患者数は増加傾向をたどると推測されます。このことから、敗血症の早期発見だけではなく、敗血症を引き起こすきっかけとなる感染症を予防するためのワクチン接種や衛生保持などの感染症に対する予防も重要であると考えられます。

研究の背景

 敗血症とは、細菌やウイルスなどの感染に対する体の反応が、自らの組織や臓器(心臓、肺、腎臓など)を傷害することで生じる生命の危険を及ぼす状態です。組織障害や臓器障害をきたすため、集中治療室での治療が必要となります。ショックや著しい臓器障害をきたす場合は死に至る場合もあります。現在、世界で猛威を振るっている新型コロナウイルス感染症による呼吸不全の重症例も敗血症です。
 敗血症の発症率と死亡率に関しては、地域間格差があると言われていますが、日本における敗血症の患者数や死亡数に関する全国的なデータはありませんでした。
 日本集中治療医学会、日本救急医学会、日本感染症学会は、敗血症の啓発と対策を行うためにJapan Sepsis Alliance(日本敗血症連盟)を立ち上げ、その中の研究グループがビッグデータを活用して日本の敗血症の実態を調べました。
 2016年に、現在の敗症の国際的な定義であるSepsis-3(注2)が発表され、敗血症は感染症に伴う臓器障害をきたしている状態とされました。海外の施設からはこの新たな定義を用いた敗症患者の死亡率の年次推移や、敗症に対する治療内容や結果などの報告がされています。しかし、その結果には地域間や人種間の違いがあることから、これらのデータを一般化して日本の実態に適用することはできない可能性がありました。

研究内容と結果


[画像: https://prtimes.jp/i/15177/525/resize/d15177-525-6a119a263fc4758e60ad-0.png ]

 研究グループは、日本全国で多く用いられているDPCデータから敗症患者を抽出し、日本独自の大規模データに基づいて敗血症の実態を明らかにするために本研究を行いました。
 DPCデータ上では、感染症に伴う臓器障害をきたしている、すなわち敗症にも関わらず「敗症」という病名で登録されていない症例や、「敗症」と登録されていても新定義に当てはまらない症例も多数存在します。よって、2010年から2017年のDPCデータより、1.液培養を採取し抗菌薬投与を行った患者を重症感染症患者として抽出、その中で2.感染に伴う臓器障害をきたした患者を最終的に敗症患者と定義して抽出作業を行い、抽出されたデータから敗症患者数やその死亡数/死亡率の推移、感染巣(注3)、患者背景、治療などを解析しました。
1.8年間の入院患者数全体に見る日本の敗血症の傾向
・2010年から2017年までの8年間に、約5,000万人の成人入院患者が含まれており、このうち約200万人(約4%)の患者が敗血症を発症し、約36万人が敗血症によって死亡しました。
・敗血症患者の年齢の中央値は76歳でした。
・主な併存疾患は、悪性腫瘍(約35%)、高血圧(約26%)、糖尿病(約22%)などで、高血圧や糖尿病の患者数は年々有意に増加していました。
・感染源としては、呼吸器感染症が最多です(約41%)。臓器障害については、呼吸不全患者が最も多く、2017年には約82%を占めていました。
・入院期間の中央値は約30日で、院内死亡率は約20%でした。
2.2010年〜2017年の傾向の変化(図参照)
・入院患者全体に占める敗血症患者の年間割合は、2010年に約11万人(入院患者全体の約3%)から2017年は約36万人(入院患者全体の約5%)に増加しました。
・入院患者1,000人当たりの敗血症の年間死亡数も、2010年の約6.5人から2017年は約8人に増加しました。
・敗血症が原因で死亡する人の数は、2017年に年間約6万人で2010年比2.3倍となりました。
・敗血症患者の死亡率は、2010年の約25%から2017年の約18%と、減少傾向を示しました。

今後の展開

 DPCデータを用いて日本の敗症患者のより正確かつ網羅的な疫学調査を行った結果、日本における敗血症患者の死亡率は低下傾向である一方、患者数や死亡数は増加傾向であることがわかりました。これらの傾向は欧米のデータと一致している一方で、敗血症患者の割合や死亡数の割合は高い傾向にあります。これらの一因として日本が超高齢社会をむかえている点があげられ、今後もこれらの数値は更に増加するものと予想されます。
 今回の研究結果は、敗症の適切な予防・治療・後遺症対策などを今後行政と共同で構築し実施していく上で重要なものであると考えます。Japan Sepsis Allianceはこれからも引き続き日本の敗血症対策を推進していきます。

用語解説

(注1)敗血症: 2011年には米国において敗症に係る医療費が2兆円を超え、他疾患と比較して社会的影響が大きな疾患であると報告されました。2017年には世界中で4,980万人が敗血症となり、うち1,100万人が死亡し、世界保健機関 (WHO) により、敗血症は「世界が取り組むべき課題」に設定されました。現在全世界の死亡原因の約20%を占めていると推定され、常に死亡率の高い疾患です。生存した後も長期化する臓器障害や日常生活動作の低下により、長期間の通院やリハビリテーションを要するため患者や家族の社会活動が制限されます。
(注2)Sepsis-3:2016年に発表された敗血症および敗血症性ショックの国際的な定義の第3版。
(注3)感染巣:病原微生物が増殖している場所。例えば肺炎では、肺が感染巣です。腹腔内、皮膚・軟部組織、尿路なども具体例として挙げられます。


掲載論文

題名: Trends in the incidence and outcome of sepsis using data from a Japanese nationwide medical claims database ーthe Japan Sepsis Alliance (JaSA) study groupー
著者名: Taro Imaeda, Taka-aki Nakada, Nozomi Takahashi, Yasuo Yamao, Satoshi Nakagawa, Hiroshi Ogura, Nobuaki Shime, Yutaka Umemura, Asako Matsushima, Kiyohide Fushimi
掲載誌: Critical Care
掲載日: 2021年9月16日
DOI: https://doi.org/10.1186/s13054-021-03762-8

プレスリリース提供:PR TIMES

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