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国立大学法人千葉大学

ウイルスによる胃癌発症の新たなメカニズムを解明

(PR TIMES) 2021年06月15日(火)18時15分配信 PR TIMES

  千葉大学大学院医学研究院 分子腫瘍学 金田篤志教授らの研究グループは、エプスタインバー(EB)ウイルス胃癌(注1)について、ウイルス感染が胃癌を引き起こす新たなメカニズムを解明しました。EBウイルス蛋白の1つLMP2Aの発現により、癌に関与する重要なシグナルが活性化し、さらにその下流にある転写因子(注2)の発現上昇が、多くの遺伝子を発現上昇させ発癌に寄与していることが明らかになりました。
 この成果は、胃癌をはじめEBウイルスが関与する多くの悪性腫瘍についての原因の解明や治療法確立につながることが期待されます。
 本研究成果は2021年6月14日発行の癌専門誌Cancer Scienceにオンライン公開されました。

研究の背景

 生き物の基本設計図はゲノムと呼ばれる全遺伝情報に描かれており、細胞の性質はエピゲノム(注3)と呼ばれるゲノムの飾り情報で決まります。癌はゲノム配列の変異とエピゲノムの異常が蓄積して起こります。
 胃癌は細菌やウイルスなどの感染が発症に大きく関わる疾患で、我が国で年間13万人以上が罹患する悪性腫瘍です。EBウイルスが原因となる胃癌は、その約1割を占めています。研究グループは、これまでにエピゲノム網羅的解析を用いて、EBウイルス感染により多くの増殖遺伝子のプロモーター領域(注4)が不活化されたり、多くの増殖関連遺伝子のエンハンサー領域(注5)が活性化されたりすることなど、ウイルス感染から発癌に至るメカニズムを解明してきました。(関連ニュースリリース 参照)
 今回、研究グループは、EBウイルスの感染によりエンハンサー領域が活性化する機構をさらに詳しく探求しました。

研究の成果


[画像1: https://prtimes.jp/i/15177/497/resize/d15177-497-621696-0.png ]

 研究グループは、以下の1.〜3.より、EBウイルスが胃細胞に感染して胃癌を引き起こすメカニズムを明らかにしました。
1. EBウイルス胃癌で活性化する遺伝子群やエンハンサー領域を特定
 遺伝子発現やエピゲノム状態の網羅的解析により、WNTシグナル(注6)という重要な癌シグナルに関連する遺伝子群や、EHFという転写因子が認識するゲノム領域が、EBウイルス胃癌で異常に活性化していることが分かりました。
2. 実験によりEHFの重要な機能を確認
 EBウイルスに感染した胃培養細胞を用いて、転写因子EHFがWNTシグナルに関与するfrizzled 5 (FZD5)遺伝子のエンハンサーに結合してFZD5発現を上昇させることを確認しました。EHFを発現低下させると細胞増殖が低下し、FZD5など WNTシグナル関連遺伝子が発現低下しました。
3. EHF発現上昇の原因を解明
 さらにEHFの発現上昇は、ウイルス感染で発現する蛋白LMP2Aが、転写因子STAT3のリン酸化を起こすことに起因することを確認しました(右図)。STAT3の発現量を減少させた細胞では下流のEHFやさらに下流のFZD5が発現低下し細胞増殖が低下することが分かりました。同じ細胞でEHF発現を回復させるとFZD5発現や細胞増殖も回復しました。

研究者のコメント(千葉大学大学院医学研究院 金田篤志教授)


[画像2: https://prtimes.jp/i/15177/497/resize/d15177-497-891590-1.png ]

 今回の研究により、EBウイルス胃癌の発症においてWNTシグナルという重要な癌シグナルの活性化が起きていること、さらにどのように活性化に至るかがわかりました。このタイプの胃癌の新たな治療法の開発につながることを願っています。


用語解説

(注1)EBウイルス胃癌:EBウイルスの感染による悪性腫瘍の1つで他に上咽頭癌やリンパ腫などが知られる。胃癌の7-15%を占め、世界各地で発症が確認されている。
(注2)転写因子:DNAに結合し、遺伝子の転写を開始したり転写量を調節したりする蛋白質。
(注3)エピゲノム:ゲノムDNAのメチル化や、ゲノムDNAが巻き付いているヒストン蛋白のアセチル化など、その領域の遺伝子を使うか使わないかを制御しているゲノムの飾り情報。
(注4)プロモーター領域:ゲノムに存在する遺伝子の読み取りを開始する部分として機能する領域。
(注5)エンハンサー領域:転写因子が結合すると周囲の遺伝子のプロモーター領域に近づき遺伝子の発現量を調節する役割を持つゲノム領域。細胞の性質を決定づける。
(注6)WNTシグナル:WNT蛋白が細胞膜のfrizzledという受容体に結合すると細胞内で伝達されるシグナル。WNTシグナルが活性化するとβカテニンという蛋白質が核内に移行し蓄積する。


論文情報

・ 論文タイトル:“Activation of EHF via STAT3 phosphorylation by LMP2A in Epstein-Barr virus-positive gastric cancer “
・著者:Wenzhe Li, Atsushi Okabe, Genki Usui, Masaki Fukuyo, Keisuke Matsusaka, Bahityar Rahmutulla, Yasunobu Mano, Takayuki Hoshii, Sayaka Funata, Nobuhiro Hiura, Masashi Fukayama, Patrick Tan, Tetsuo Ushiku, Atsushi Kaneda
・雑誌名:Cancer Science
・DOI:https://doi.org/10.1111/cas.14978

研究プロジェクトについて


[画像3: https://prtimes.jp/i/15177/497/resize/d15177-497-956377-3.png ]

 本研究は、日本医療研究開発機構次世代がん医療創生研究事業、日本学術振興会科学研究費補助金、千葉大学グローバルプロミネント研究基幹の支援を受けて行われました。


関連ニュースリリース

「胃癌の約10%を占めるEBウイルス胃癌の原因を解明 感染ウイルスが、眠っていたゲノム領域を叩き起こして発癌させていた」(2020年7月28日)
https://www.chiba-u.ac.jp/general/publicity/press/files/2020/20200728stomachcancer.pdf



プレスリリース提供:PR TIMES

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