プレスリリース
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日照時間の長さから、「日本のひなた」と称される宮崎県。そのほぼ中心に、新富町という人口1万7千人ほどの小さな町があります。美しい海岸線と豊かな自然に恵まれたこの町は、宮崎平野を代表する野菜の産地であり、特にピーマンの生産量においては全国でトップレベルです。今、NVIDIA Jetson(https://www.nvidia.com/ja-jp/autonomous-machines/embedded-system)がこの町のピーマンの収穫において活躍しています。新富町発の農業ロボット ベンチャー、AGRIST株式会社(以下AGRIST)は3月、ピーマン自動収穫ロボット「L(エル)」の最新モデルを発表(https://agrist.com/archives/3475)しました。このロボットはNVIDIA Jetsonを搭載し、市場投入モデルとして2022年秋からレンタルサービスが開始する予定です。
持続可能な農業を願う農家の声から誕生したAGRIST
行政も含めて農業で街を盛り上げていこうとする中で、新富町役場は2017年に地域商社「こゆ財団」を設立しました。その代表理事にシリコンバレーのITベンチャー企業でサービス開発責任者を務め、帰国後は地域創生事業に取り組んでいた齋藤潤一氏が就任しました。「こゆ財団」では「儲かる農業研究会」という農家を中心とした勉強会を定期的に開催しており、その中で、「農業界は平均年齢が67歳を超えており、5年後、10年後を考えた時に今働いているパートさんもそのまま確保することは難しい。人手が足りず、持続可能ではない今の農業の状況をロボットで何とか変えられないか。」という声が農家から挙がっていました。農業へのロボットの必要性を感じながらも、開発する技術がなかった齋藤氏が、ロボット開発の仕事に従事していた秦裕貴氏と出会ったことがAGRIST起業のきっかけです。もともと農業に興味があった秦氏は、「農業とテクノロジを結びつけるビジネスは世界を変える可能性がある」という斎藤氏のビジョンに賛同し、2019年に齋藤氏が代表取締役社長、秦氏が取締役CTOとしてAGRISTを立ち上げました。
農家のアイディアが詰め込まれた、ユニークな収穫ロボット「L」
秦氏は高専時代からロボット開発において慣れ親しんでいたNVIDIA Jetsonを活用し、ピーマン収穫ロボット「L」を開発しました。「L」の最大の特徴は吊り下げ式の形状です。ハウスの天井から張り巡らせたワイヤーをロープウェイのように伝いながら移動し、ハンドによる収穫を行います。ユニークなネーミングは、吊り下げ式のロボットのフレームがL字型であること、そして、すべてのピーマンを収穫するのではなく「L玉」と呼ばれる大きなピーマンを積極的に収穫することにより、周りの小さいピーマンを効率的に育成するというロボットのコンセプトから由来しています。
「もしエンジニアのみで収穫ロボットを構想していたらとしたら、地上を走行する台車型のロボットになっていたと思いますが、実は農業の現場では地面がぬかるんでいたり、障害物が置かれていることも多いです。現場を熟知した農家の方の話を聞きながら開発を進めることで、ロボットの移動における課題を吊り上げ式という形で解決できました。」と秦氏は述べています。
二つ目の特徴はロボットのハンドです。「L」は吊り下げ式で移動しながらピーマンを探し、見つけるとAGRISTが自社で開発したハンドでカットし、ロボットのボックスの中にためていきます。一定量たまると、所定の場所のコンテナに放出し、また戻って収穫を続けます。収穫する際はピーマンの茎を回転するベルトで巻き取りながら把持します。このハンドのおかげで吊り下げ式で多少揺れたとしても、ピーマンがベルトに吸い込まれるように入っていくことで安定して収穫することができます。
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動画:「L」がピーマンを収穫する様子(https://www.youtube.com/watch?v=YzoYhZD9rAM)
AGRISTは、物体検出の機械学習モデルであるYOLOと、NVIDIAが提供する推論を高速化するためのSDK、TensorRT(https://developer.nvidia.com/tensorrt)を活用し、ピーマンの認識を行うニューラルネットワークを開発しています。このニューラルネットワークを「L」に搭載し、NVIDIA Jetson Nano(https://www.nvidia.com/ja-jp/autonomous-machines/embedded-systems/jetson-nano/)で実行しています。Jetson Nanoはクレジットカードよりも小さいサイズでありながら472 GFLOPS とパワフルな演算性能を持ち、駆動させるための消費電力はわずか 5 ワットです。Jetson Nanoが生い茂る葉の中からピーマンを探すための物体認識と、ロボットを制御する行動計画の一部を担っています。
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動画:「L」がピーマンを認識する様子(https://www.youtube.com/watch?v=fR6erUu4M10)
また、3月に発表した市場投入モデルでは、AIによる枝切り防止機能を新たに実装しています。今後もAIによる精度向上や機能強化を予定しており、NVIDIA Jetsonシリーズの中でもより演算能力の高いモデルの採用も検討しています。
収穫ロボットの展開予定と、AGRISTが目指す農業AI
AGRISTの直近の目標として、10アール当たりのピーマンの収穫量の20〜30%を「L」が担うことで、農家がロボットを活用した収穫で採算が取れる水準を目指します。さらにピーマンのほかに、キュウリ収穫のための開発も進めています。サービスの提供地域も、今後は茨木を中心に関東への拡大も予定しており、全国展開の後は海外展開も視野に入れています。
「現在日本において、特に個人の農家の方が収穫ロボットを使って農業をする姿はまだなかなか想像がつかないかもしれません。AGRISTとしてはまず、低コストで気軽にロボットを導入できるという感覚を広め、将来的には、コストをかければその分収穫量も上がり、『稼げる農業が実現できる』ことを実感いただけるようにロボットの改良やさらなるサービス開発に努めたいと思います」と秦氏は述べています。
また、AGRISTはロボットから収集したデータをAIで解析しビッグデータ化することにより、再現可能な農業のデータ蓄積に取り組んでいます。データ活用を通じたサービスの需要は高く、例えば農作物の育成や収穫量の予測、病気の検知、最適化された品種や栽培方法の確立などが期待されます。また、農家が日々判断している栽培方法をAIが学習、営農指導することにより新規就農者の拡大にも寄与できます。AGRISTは、最終的にはデータを活用した世界の農業のバリューチェーンの課題解決を目標に掲げています。
※ブログ内の画像提供:AGRIST
プレスリリース提供:PR TIMES