プレスリリース
【研究の要旨とポイント】
マイクロプラスチック問題解決のためには、プラスチックごみの排出削減に加え、清掃活動による回収も重要な役割を果たすと考えられますが、あまり研究は進んでいません。
日本全国の河川清掃活動のごみ回収量データから、年間およそ1000トンのプラスチックごみが回収されていることがわかりました。
プスチックごみの回収量は、台風や大雨などの極端な気象現象によって増加しました。
本研究は、日本全国のプラスチックごみ回収量を定量的に評価した初めての報告で、今後の施策を考える上での基礎となる重要な知見です。
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【研究の概要】
東京理科大学 創域理工学部 社会基盤工学科の田中 衛助教、岡田 友萌菜氏(2022年度 同大学理工学部土木工学科卒業、現 オリエンタルコンサルタンツグローバル)らの研究グループは、日本全国の市民、行政による河川清掃活動のごみ回収量データを整理し、年間およそ1000トンのプラスチックごみが回収されていることを明らかにしました。これは、日本全国のプラスチックごみ回収量を定量的に評価した初めての研究です。
自然環境中に流出したプラスチックゴミは、風化によって微細化してマイクロプラスチックになります。マイクロプラスチックは一度環境中に放出されると回収はほぼ不可能な上、分解には非常に長い年月がかかることから、深刻な環境問題となっています。そのため、プラスチックごみの削減に加え、プラスチックごみが微細化する前に回収することが重要です。しかし、これまで日本全国でのプラスチックごみ回収量を定量的に評価した研究はありませんでした。
そこで本研究では、国土交通省が提供する109の一級河川水系におけるごみ回収データを用いて、2016年度から2020年度の5年間におけるプラスチックごみ回収量と、流域情報との関係性を検討しました。その結果、調査期間における1年間のプラスチック回収量は平均938トンで、プラスチック回収率と人口や清掃参加者には中程度の相関がみられました。また、水系ごとの回収量は、台風や大雨などの極端な気象現象の影響を受けることも示唆されました。
今回の研究から、日本全国のプラスチック年間回収量は、これまでに推定された陸上プラスチックの年間排出量よりもはるかに少ないことがわかりました。これは、マイクロプラスチック問題を解決するためには、プラスチックごみ排出量そのものを減らすこと、そして、ごみ回収を継続して行うことの重要性を改めて示す結果といえます。
本研究成果は、2024年11月1日に国際学術誌「Marine Pollution Bulletin」にオンライン掲載されました。
【研究の背景】
マイクロプラスチック問題への関心は年々高まりつつあり、排出量の推定や陸域におけるプラスチックごみの動態についての研究が盛んに行われています。マイクロプラスチックは河川によって陸地から海へと運ばれるため、河川におけるプラスチックごみ汚染について調べた研究も数多く報告されています。田中助教らも、河川のマイクロプラスチック汚染状況の実態を把握するためのサンプリング手法を提案するなど(※1)、河川におけるマイクロプラスチック問題に取り組んできました。
※1 「河川のマイクロプラスチック汚染を十分な精度で調査できるサンプリング回数を決定する方法を提案 〜現場サンプリングのコスト抑制に貢献〜」
https://www.tus.ac.jp/today/archive/20220802_1608.html
このように、河川流域におけるプラスチックごみの組成や動態についてのデータについては蓄積が進む一方、河川流域からのプラスチックごみの回収量については、これまであまり研究が進んでいません。そこで本研究チームは、国土交通省が提供するデータセットを用いて、2016年度から2020年度までの日本の河川水系からのプラスチックごみの年間回収量を定量化しました。さらに、人口、土地利用、流域面積、河川長などの流域情報を用いて回帰分析を行い、プラスチック回収量との相関関係についても調べました。
【研究結果の詳細】
国土交通省から、日本全国の109の一級河川水系における、2016年度から2020年度までごみの回収量に関するデータの提供を受け、解析をおこないました。一級河川とは、地域経済や自然保護の観点から設定されている特に重要な水系であり、その流域は日本の国土の68%を占め、人口の8割ほどが居住しています。そのため、今回のデータは日本全国を代表する値といえます。なお、今回のデータは、河川敷および河川表面から回収されたごみの量を表しています。
このごみ回収データでは、ごみは「プラスチック・紙等」、「粗大ごみ等」、「流木・水草等」、「その他」の4種類に分類され、体積(m3)ベースで年間回収量がまとめられていました。こうしたごみ回収は、手作業による回収、重機による回収、水面に設置されたオイルブームによる回収など、自主的・行政的な清掃活動によって行われました。清掃参加者数も、流域ごと、年ごとに記録されており、本研究ではそうしたデータも活用して、流域情報とプラスチック回収量の関係について調べました。
しかし、国土交通省のデータではプラスチックごみ単独の集計は行っておらず、紙ごみ等と合算した量しか計測されていませんでした。そのため、まずは「プラスチック・紙等」回収量から、プラスチックごみ回収量を算出する必要がありました。そこで本研究では、市民グループ 「大堀川の水辺をきれいにする会」主催のごみ清掃活動に参加し、回収したごみの組成を調べ、妥当な換算式を割り出し、これを用いてプラスチックごみ回収量の概算値を推定しました。
その結果、対象の5年間では、全国のプラスチックごみ回収量は年間763〜1177トンで推移し、平均938トン/年という結果が得られました。また、プラスチックごみ回収量は、上位7つの水系、すなわち淀川水系(平均91.6トン/年)、吉野川水系(平均85.8トン/年)、利根川水系(平均78.8トン/年)、太田川水系(平均76.2トン/年)、多摩川水系(平均72.0トン/年)、木曽川水系(平均69.2トン/年)、阿武隈川水系(平均53.9 トン/年)で全国の5割を占めていました。このうちいくつかの水系では、水害との関係性が示唆されました。例えば、太田川水系と木曽川水系では、2018年度にプラスチックごみ回収量が顕著に多かったのですが、これらの水系は2018年西日本豪雨で特に被害が大きかった地域であり、災害により発生したプラスチックごみが大量に回収されたためと考えられます。また、阿武隈川水系は2019年度に回収量が多く、これは2019年台風19号による水害の影響だと推測されます。こうした結果は、災害によって発生した大量のプラスチックごみが河川敷に溜まることで、結果として回収量が多くなっていたことを示唆しています。
流域情報との相関解析では、清掃活動に参加する人数が多いほど、回収量も多くなるという関係があることがわかりました。特に、淀川流域と利根川流域では、回収に携わる市民が多く、プラスチック回収量も多いことがデータから示されました。これは、それぞれの水系の人口が約1,100万人、1,300万人と非常に多いことから、プラスチックごみ発生量、そして回収に携わる市民いずれも多かったためだと考えられます。
海外では、セーヌ川水系でのプラスチックごみ回収量を学術的に評価した論文がありますが、全国規模で調査を行なったのは、本研究が初となります。
陸域で発生したプラスチックごみは主に河川によって海洋まで運ばれるため、河川からの回収量の評価は、海洋マイクロプラスチック汚染の低減に向けた重要な知見です。今回の研究から、市民によるプラスチックごみ回収の重要性が示されました。マイクロプラスチック問題を根本的に解決するためには、そもそもプラスチックごみを投棄しないことに加えて、河川でのごみ回収を継続することも重要だといえます。
また、本研究では、日本のような災害の多い国では、災害にともなう大量のプラスチックごみが環境に大きな影響を与えることも示唆されました。現在、環境省では日本における自然環境下のプラスチックごみの収支(発生している場所や量、回収されている量、土壌河床に堆積している量、海洋へ放出されている量)を科学的な根拠に基づいて推定しています(※2)。本研究はそのような推定における根拠となるデータを提供するものとしても、非常に重要です。
※2 環境省「日本の海洋プラスチックごみ流出量の推計」
https://www.env.go.jp/water/marine_litter/survey/estimates_plastic_waste_in_Japan.html
研究を主導した田中助教は「この研究はまず、国土交通省からのデータ提供がなければ実施できないものでした。国土交通省のご担当者はもちろん、関わってくださったすべての方にお礼申し上げたいです。また、本研究の大部分は、当時卒業研究生だった岡田友萌菜さんが行ったものです。一人の研究者として、私自身、彼女の真摯な姿勢にはハッとさせられました。今回、その成果を国際学術誌に論文という形で発表することができ、大変うれしく思います」と、研究を振り返っています。
本研究は、独立行政法人環境再生保全機構(ERCA)の環境研究・技術開発基金(JPMEERF21S11900)、公益財団法人河川財団の河川基金(2022-5211-028, 2024-5211-060)の助成を受けて実施したものです。
【論文情報】
雑誌名:Marine Pollution Bulletin
論文タイトル:Country-wide assessment of plastic removal rates on riverbanks and water surfaces
著者:Mamoru Tanaka, Yumena Okada, Jin Kashiwada, Hiroshi Kaneko, Hiroko Ito, Yasuo Nihei
DOI:10.1016/j.marpolbul.2024.117218
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