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国立大学法人熊本大学

造血幹細胞の発生過程を試験管内で再現することに成功

(PR TIMES) 2024年07月26日(金)15時40分配信 PR TIMES


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(ポイント)
●造血幹細胞*1は複数の分化段階を経て発生しますが、分化の進行に必要なシグナル因子*2が分化段階ごとに変化することを明らかにしました。
●造血幹細胞の前駆細胞である血管内皮細胞*3を試験管内で培養する際に、胚体内と同様の環境を再現することで、造血幹細胞を誘導することに成功しました。
●この培養法は特殊な材料を必要とせず汎用性が高いという利点を有しており、さらに造血幹細胞の発生過程を再現することから、造血幹細胞発生の分子メカニズムを解明するための研究ツールとして有用です。
●この培養法が、将来的に多能性幹細胞 (ES細胞及びiPS細胞) *4 からの造血幹細胞誘導につながることが期待されます。


(概要説明)
熊本大学 発生医学研究所の古賀沙緒里助教及び小川峰太郎教授のグループは、造血幹細胞の前駆細胞である血管内皮細胞から造血幹細胞を試験管内で分化誘導することに成功しました。これまで、血管内皮細胞から造血幹細胞を試験管内で分化させるためには、人工的に遺伝子を改変した支持細胞*5との共培養や血清存在下での培養が必要でした。そのため、汎用性が低く、血清中のサイトカイン*6等の影響があるためメカニズム解明の妨げになるという問題点がありました。そこで本研究では、誰でも利用できる材料のみを使用した血清フリーの培養法の構築を目指しました。その結果、市販されている一般的な血管内皮細胞株*7を支持細胞として用いて、SCF (ステムセルファクター) とTPO (トロンボポエチン) のみを添加することで、造血幹細胞を分化誘導することに成功しました。
 造血幹細胞は、胎生期に血管内皮細胞からプレ造血幹細胞を経て発生します。血管内皮細胞からプレ造血幹細胞への分化は大動脈の内腔で起こりますが、本研究でこの環境に存在する血管内皮とそこから産生されるSCFがこの分化過程に寄与していることが分かりました。また、プレ造血幹細胞から造血幹細胞への分化にはSCFとTPOが必要であり、プレ造血幹細胞がこれらの因子を受け取るためには肝臓への移行が必要であることも明らかにしました。本研究により構築した培養法は、血管内皮細胞から造血幹細胞が発生する過程に必要な環境を再現しており、造血幹細胞発生の詳細なメカニズムを解明できる強力な研究ツールになります。さらに、将来的にはES細胞やiPS細胞からの造血幹細胞誘導につながることが期待されます。
 本研究成果は、日本時間2024年7月23日に米国科学アカデミー紀要『Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America (PNAS)』のオンライン版に掲載されました。本研究は、東京女子医科大学及び東京医科歯科大学との共同で行われたものです。また、本研究は文部科学省 科学研究費助成事業、公益財団法人 稲盛財団、熊本大学 めばえ研究推進事業、熊本大学 発生医学研究所 共同研究拠点、熊本大学 発生医学研究所 高深度オミクス医学研究拠点ネットワーク形成事業の支援を受けて実施されました。

(展開)
本研究により構築した培養法は、造血幹細胞の発生過程を詳細に解明できる強力な研究ツールになります。また、世界中で利用可能な汎用性の高い培養法であり、造血幹細胞の発生に関する研究の進展に貢献できると考えています。さらに、将来的には多能性幹細胞から造血幹細胞への分化誘導の実現につながることが期待されます。


(用語解説)
*1: 造血幹細胞
骨髄に存在し、自分自身を複製する能力(自己複製能)と全ての血液細胞に分化できる能力(多分化能)を併せ持つ組織幹細胞の一つ。胎児期に発生し、生後から生涯にわたって血液細胞を産生し続ける。


*2: シグナル因子
細胞の機能を調節するシグナル伝達物質であり、分化、増殖、活性化、抑制等の細胞応答を引き起こす。タンパク質、遺伝子、脂質等、様々な物質がシグナル因子として働くことが知られている。


*3: 血管内皮細胞
血管の最も内側の層(血管内皮)を形成し、血管内腔面を裏打ちしている細胞。一部の血管内皮細胞は胎児期に一過性ではあるが血液細胞へと転換する能力を持ち、造血幹細胞の起源となるプレ造血幹細胞を生み出す。


*4: 多能性幹細胞
体を構成するほぼ全ての細胞に分化する能力と無限に増殖する能力がある。受精卵から発生した胚から樹立される胚性幹細胞 (ES細胞) と、体細胞に複数の遺伝子を導入することで人工的に樹立される人工多能性幹細胞 (iPS細胞) が多能性幹細胞として利用されている。


*5: 支持細胞
特定の細胞を培養する際に、その細胞が接着しやすいように足場となる細胞。培養環境を整えるために用いられており、細胞の未分化性の維持、分化、増殖等の重要な役割を担う場合もある。


*6: サイトカイン
免疫細胞や組織構成細胞から産生される分泌タンパク質であり、生理活性作用を有する。細胞の分化、増殖、活性化、抑制等、様々な細胞応答を引き起こし、細胞間相互作用にも関与する。


*7: 血管内皮細胞株
様々な組織の血管内皮に由来し、安定して増殖する性質を有しているため長期間にわたって培養できる細胞。それぞれの細胞株により由来や特徴等に違いがあるが、血管内皮細胞としての一定の性質を共通して持つ。


(論文情報)
論文名:Transition of signal requirement in hematopoietic stem cell development from hemogenic endothelial cells
著者:Saori Morino-Koga (責任著者), Mariko Tsuruda, Xueyu Zhao, Shogo Oshiro, Tomomasa Yokomizo, Mariko Yamane, Shunsuke Tanigawa, Koichiro Miike, Shingo Usuki, Kei-ichiro Yasunaga, Ryuichi Nishinakamura, Toshio Suda and Minetaro Ogawa (責任著者)
掲載誌:Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America (PNAS)
doi:10.1073/pnas.2404193121
URL:https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2404193121

▼プレスリリース全文はこちら
 https://www.kumamoto-u.ac.jp/whatsnew/seimei-sentankenkyu/20240725

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