プレスリリース
・血管新生増殖因子(VEGF)に向かって血管が枝分かれする際、その枝の向きをガイドする先端の内皮細胞(Tip)とTipに追随し増殖する(枝を伸ばす)内皮細胞(Stalk)が存在します。このTip-Stalkを規定する転写システムを明らかにしました。
・長期のVEGF刺激を受けたTip細胞では転写因子FOXO1*1が核内移行し、Tip細胞を運命付ける遺伝子セットを発現誘導する一方、Stalk細胞での増殖を誘導するNotch シグナル*2を抑制します。さらにNotchシグナルはFOXOシグナルを抑制することで StalkがTip細胞にならないように相互に牽制するシステムが成り立っていることを示しました。
・FOXO1は長寿関連転写因子として知られており、内皮細胞においては血管成熟に不可欠です。加齢の転写システムを明らかにすることで、超高齢社会での血管病変(がん転移・動脈硬化)に関するシステム解明に繋がることが期待されます。
(概要説明)
熊本大学生命資源研究・支援センター 分子血管制御分野の南 敬 教授らの研究グループは、血管内皮細胞を用いたVEGF刺激での次世代シークエンス網羅解析によって、血管分岐先端部 (Tip) では核内移行した転写因子 FOXO1 が、(1)Tip 細胞を運命付ける遺伝子セットを包括的に発現誘導すること、(2)Notchシグナルを抑制しStalk化を防護すること、(3)内皮分化を決定するマスター転写因子とともに、内皮特異的なエピゲノム-クロマチン構造変化を促し、血管成熟に関する遺伝子セットを誘導することを明らかにしました。これまで全身性のFOXO1欠損マウスでは血管ネットワークの形成不全で胎生致死になることが報告されていましたが、血管に特化したその病態メカニズムの詳細は分かっていませんでした。FOXO1転写因子はあらゆる細胞に存在し、特に長寿を促すものとして、抗酸化ストレスや飢餓代謝に関与することがクローズアップされています。一方、細胞毎に結合できる領域が異なり、違った機能を発揮します。実際、今回の研究でも免疫細胞ではアポトーシス関連遺伝子の発現制御領域に結合するのに対し、内皮細胞では全く異なる血管分岐や内皮成熟に関わる遺伝子制御領域に特異的に結合しました。即ちFOXO1の転写活性化が血管ネットワークの維持に不可欠であることが示され、FOXO1がないことで血管不全により致死になる病態を改めてメカニズム論として解明することに成功しました。
高等動物は血管ネットワークを正常に獲得することで、正常に発生し、臓器に酸素や栄養を送り大きくなります。一方、生活習慣病として知られる高血圧・動脈硬化・糖尿病含めヒトは血管から老いていきます。今後、本研究成果は抗加齢転写因子FOXOに基づいた血管老化のメカニズム解明と生活習慣病・血管病変の原理解明に役立つことが期待されます。
本研究成果は令和6年2月16日に、Cell Press 誌「iScience」に掲載されました。
また、本研究は文部科学省科学研究費助成事業(21H02917・19H04972)、公益財団法人小野医学研究財団、公益財団法人先進医薬研究振興財団、公益財団法人武田科学振興財団及び国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)「次世代研究者挑戦的研究プログラム」(JPMJSP2127)、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)革新的先端研究開発支援事業(AMED-CREST)(23gm1710009s0301)の支援を受けて実施したものです。
[展開]
超高齢社会を迎え、我が国では転移や再発を伴う悪性がんや脳梗塞・心血管疾患での死亡率は増加の一途にあります。これら三大疾病には血管病態が密接に関わっており、「ヒトは血管とともに老いる」という米国の医学者ウィリアム・オスラー博士(1849-1919)の格言にあるように、血管の分岐と成熟化(血管新生)や炎症、加齢に伴う機能低下の分子メカニズムを解明することが極めて重要となっています。FOXO1 は長寿・抗老化タンパクとして認知されていましたが、今回血管でのエピゲノム環境変化を伴って、安定化・成熟化の分子機構が明らかになったことより、この転写ネットワークを応用した抗血管病に至る新規機構解明に将来繋がることが期待されます。
▼プレスリリース全文はこちら
https://www.kumamoto-u.ac.jp/whatsnew/seimei-sentankenkyu/20240220
[画像: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/124365/73/124365-73-e83e13c794a61caf42c73c175aac7bd0-540x304.jpg ]
プレスリリース提供:PR TIMES