プレスリリース
・オミクロンXBB.1.5のウイルス学的特性を多角的に解明。
・ウイルスの性状変化に関与するウイルスタンパク質とそのアミノ酸を同定。
・新型コロナウイルスの生態の全容解明に貢献する研究成果。
【発表概要】
北海道大学大学院医学研究院の福原崇介教授、田村友和講師、研究コンソーシアム「The Genotype to Phenotype Japan (G2P-Japan)」*1らの研究グループは、2022年10月ごろに出現したオミクロン*2XBB.1.5のウイルス学的特性を明らかにしました。
XBB.1.5は、それ以前に流行していたXBB.1と比較して、スパイクタンパク質*3とORF8タンパク質*4にアミノ酸の点変異*5を持つことが分かっていました。しかし、なぜ二つのアミノ酸の違いで、XBB.1.5が流行するに至ったのかは不明でした。本研究では、このXBB.1.5について系統進化、スパイクタンパク質の構造及びウイルス学的解析を行うことで、多角的にその特性を解析しました。
まず、オミクロンの系統進化学的解析を行ったところ、XBB.1.5で認めた二つの変異はORF8、スパイクの順に出現したことが分かりました。次に、直接の祖先であるXBB.1とXBB.1.5を用いて、中和試験*6を実施したところ、同等の中和感受性を示すことが分かりました。クライオ電子顕微鏡を用いた解析ではXBB.1とXBB.1.5のスパイクタンパク質と新型コロナウイルスの感染受容体であるACE2*7との相互作用の違いは認めませんでした。さらに、合胞体形成活性*8、培養細胞及びオルガノイドでの増殖能もXBB.1とXBB.1.5との間で有意な差を認めませんでした。一方で、ハムスターモデルにおけるXBB.1.5の病原性はXBB.1.よりも低いことが明らかとなりました。そこで、ウイルスの弱毒化のメカニズムを明らかにするために、オルガノイドにおけるMHCクラスI分子*9の発現を調べました。その結果、XBB.1.5はXBB.1と比較して、発現の低下が抑えられていないことが分かりました。それぞれの点変異を持つ組換えウイルス*10を作出し、病原性試験を行ったところ、ORF8の機能欠損による免疫抑制機構の低下がXBB.1.5の病原性に関与することを突き止めました。
なお本研究成果は、2024年2月8日(木)公開のNature Communications誌に掲載されました。
【謝辞】
本研究は、福原教授らに対する日本医療研究開発機構(AMED)「新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業(JP23fk0108617;JP22fk0108516;JP22fk0108511)」、AMED先進的研究開発戦略センター(SCARDA)「ワクチン開発のための世界トップレベル研究開発拠点の形成事業(HU-IVReD、JP223fa627005)、AMED SCARDA「ワクチン・新規モダリティ研究開発事業(JP223fa827001)」、AMED-CREST(JP23gm1610008)、科学研究費助成事業(基盤B、JP21H02736)などの支援の下で実施されました。
【今後への期待】
2024年2月現在、オミクロンXBB.1.5はさらに多様化し、その子孫であるHV.1が米国を中心に流行しています。一方、オミクロンBA.2から別に派生したBA.2.86とその子孫であるJN.1が世界的な感染拡大を引き起こしています。今後もオミクロン系統ウイルスの流行、性質、進化の継続的な監視が重要です。
G2P-Japanは、SARS-CoV-2の進化・流行動態を司る原理の解明に関する研究及び出現が続く様々な変異株について、ウイルス学的特性の解析や中和抗体や治療薬への感受性の評価、病原性の研究に取り組んでいます。G2P-Japanでは今後もSARS-CoV-2の変異(Genotype)の早期捕捉と、その変異がヒトの免疫やウイルスの病原性・複製に与える影響(Phenotype)を解明するための研究を推進します。
プレスリリース全文はこちら
https://www.kumamoto-u.ac.jp/whatsnew/seimei-sentankenkyu/20240216
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