プレスリリース
〜患者の主体性を尊重する看護を考える場を提供〜
摂南大学(学長:久保康之)大学院看護学研究科は一般向けの公開講座を開催し、同研究科の森谷利香教授と現代社会学部の樫田美雄教授が「神経難病を持つ人々への研究から見えた看護実践への示唆」と「ALS患者の在宅療養現場からの社会学的考察」をテーマに講演をしました。
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【本件のポイント】
● 近年、全国で増加している「在宅医療」において患者・家族と共に医療者が変化する時代に応じた質の高い看護を考える機会として公開講座を開催
● 社会学の観点から在宅医療の現場におけるALS患者※1と看護師とのコミュニケーションを研究している現代社会学部の樫田教授が講演
【公開講座 概要】
開催日 :2023年12月2日(土)
講師 :現代社会学部 教授 樫田美雄、大学院看護学研究科 教授 森谷利香
参加者数:126人
講座内容:一部「“患者の主体性を尊重する”とはどういうことか?
-ALS患者の在宅療養現場からの社会学的考察-」現代社会学部 教授 樫田美雄
二部「神経難病を持つ人々への研究から見えた看護実践への示唆 -多発性硬化症・
視神経脊髄炎に焦点を当てて-」大学院看護学研究科 教授 森谷利香
※1:筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis : ALS)は、運動をつかさどる神経(運動ニューロン)が障害を受け、脳から「手足を動かせ」という命令が伝わらなくなることにより、力が弱くなり筋肉がやせていき、やがては呼吸の筋肉を含めて全身の筋肉がやせて力が入らなくなり、身体を動かすことが難しくなる神経難病。
【公開講座 開催背景】
超高齢化社会の到来や医療技術の進歩、政府の医療費適正化計画による病院での入院期間の短縮化など、近年、医療現場は大きく変化しています。これまで、神経難病患者は入院して病院で治療することが一般的でしたが、現在では多くの人が在宅療養という形で治療を受けており、その割合は年々高くなりつつあります。
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本学大学院看護学研究科では、研究科が開設される前年の2015年より、看護の質向上に向けた研究をテーマに公開講座を開催しています。また、看護学分野の更なる発展のためには、他分野の教員ともコミュニケーションを取りながら、学際的な研究を続けることが重要だと考えており、総合大学の強みを生かした共同研究を推進しています。
この度は、「ビデオ・エスノグラフィー」という手法で「在宅医療現場におけるALS患者と看護師のコミュニケーション」を研究している現代社会学部の教員と、患者に寄り添い、その人らしく過ごせる看護の在り方の一助となるよう、公開講座を開催する運びとなりました。
教員コメント
―現代社会学部 教授 樫田美雄
20世紀までの医療では医療者と患者に知識差が大きく、医療者が“患者を管理する”医療モデル(病院的医療)だけでも医療現場は機能していました。つまり、医療者が患者に選択肢を与え、「与えられた選択肢」の中から患者が応答するというモデルが当たり前でした。しかし、21世紀に入りインターネットが浸透したことで情報へのアクセスが容易となり、医療知識についても医療者のみが所有するものではなくなりました。患者自身(あるいは患者家族)が持つ(「与えられた選択肢」とは対応しない)「生活世界にもとづいた選択肢」の存在に注目が集まっています。
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特に、ALS患者や神経難病患者の多くは在宅医療を受けており、患者およびそれらの患者家族は、長期療養において「患者のプロフェッショナル」または「患者家族のプロフェッショナル」になっています。つまり、(医療者が“患者を管理する”医療モデルではなく、)患者本人や家族の工夫や提案を“医療者が受け入れていく”のが当たり前、という流れになってきていると言えます。現在の在宅医療の現場がこのような状況であることを踏まえた医療者育成のシステム作りが喫緊の課題です。
今回の講演では、「患者の主体性」をテーマに「21世紀の医療文化は患者・家族・医療者が共同でつくっていくようになっている」ということをお伝えしました。この背景には、「ユーザーイノベーション」と呼ばれる消費文化が浸透していることが挙げられます。例えば、現代は生産者がつくったものを受け入れ使用するだけではなく、試行錯誤しながらオリジナルでカスタマイズすることが主流となっています。医療にもこの「ユーザーイノベーション」が浸透してきており、在宅医療をしている患者が胃瘻(いろう)チューブを2本つないだり、哺乳瓶用の市販消毒薬を使用して胃瘻チューブを消毒するシステムを自ら考案したりしています。
医療者はこの流れを受けて、最低限の安全性を確保しながらも、患者や患者家族に活用してもらいやすい医療器具を開発したり、新たな使い方を提案したりと、新しい「療養文化」を創り出す協働遂行者としての役割を担うべきだと感じています。
―大学院看護学研究科 教授 森谷利香
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学問、特に医療分野においては「研究(理論)」と「臨床(実践)」は行き来するものであり、それらをつないでいくことが重要だと考えています。そのため、臨床で活躍する看護職者が大学院にて研究の基礎を学ぶことは非常に有益であり、今後益々重要になります。
現在、本学の大学院看護学研究科には25名の教員がおり、看護の臨床経験のある教員と、総合大学ならではの強みを生かし、理工学研究科など多分野の教員によるカリキュラムで教えています。本研究科には「長期履修制度」があり、看護師として臨床の場での経験を積みながら研究をすることができ、臨床では気づかなかったことに気づくことができます。また、キャンパス内には薬学研究科や農学研究科(2024年4月開設)が併設しており、相互に協働しながら新たな知見を深めるための共同研究やプロジェクトチーム等が存在します。今後においても、他の研究科や学部教員とも密にコミュニケーションを取りながら、学際的な研究を重ねていくことで、学問の発展につなげていきたいと考えています。
参加者の声
当日参加いただいた方からは、「現代における在宅医療のあるべき姿」について考え、学びにつながったという声が挙がりました。
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・これまでは患者さんに「与えた選択肢」の中からこたえていただくことが良いことのように思っていたが、選択肢にはない、それ以外の患者さんが求める「別の世界(主体的なこたえ)」があることに気がついた。
・患者さんの主体性や世界観、文化、自主性に寄り添った看護が必要とされていると思った。
・単に理論を学ぶだけでも、実践をするだけでも不十分。研究(理論)と臨床(実践)をつないで行き来しながら、患者さんと向き合い尊重しあう中で、看護師と患者さんが“協働で”医療をすすめていくという視点を学ぶことができた。
■摂南大学大学院 看護学研究科
本学は総合大学として現在9学部17学科、大学院6研究科10専攻※2あり、他分野との共同研究を推進しやすいという特徴があります。単独の学問分野だけでは解決が困難な課題や状況に対し、学問横断的に研究を進め、異なる学問分野の視点や手法を組み合わせることで、より深い理解や新たな気づきにつながります。
本研究科では、医療・看護における最新の見識をもとに、多職種の医療スタッフと協働しながら質の高い看護を提供する「実践能力」を養います。特に、次世代の看護職者の育成や現役看護職者の実践力向上に携わることができる教育研究能力を高め、看護学の発展に寄与できる教育者、研究者を養成しています。専門学校卒の方でも、社会人経験などで入学資格認定の道があります。
※2:2024年4月、農学研究科開設後は7研究科11専攻。
<大学院看護学研究科 2024年度入学 入試日程>
試験日:2024年2月17日(土) / 出願期間:1月31日(水)〜2月7日(水) 合否発表:3月5日(火)
大学院看護学研究科 Webサイト:https://www.setsunan.ac.jp/kangogaku/
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