プレスリリース
千葉工業大学地球学研究センター及び惑星探査研究センター所長の松井孝典率いる研究チームが、エジプト考古学博物館において、ポータブル蛍光X線分析装置を用いてツタンカーメンの鉄剣の非破壊・非接触での化学分析を行った結果、鉄剣が低温鍛造により製造されたこと、エジプト国外から持ち込まれた可能性があることを明らかにしました。
この研究成果は、2月11日付の米国科学雑誌「Meteoritics and Planetary Science」電子版に掲載されました。
<概要>
古代オリエント世界で栄えたヒッタイト帝国(紀元前1200〜1400年)は、鉄の製造技術を独占することで軍事的優勢を得たとされている。それ以前には、世界にはまだ鉄の製造技術はなかったと考えられている一方で、エジプトのツタンカーメン王(紀元前1361年〜1352年)の墓から、鉄剣が発見されたことは大きな謎であった。この謎を解き明かすため、2020年2月9日及び10日に、千葉工業大学地球学研究センター及び惑星探査研究センター所長の松井孝典率いる研究チームがエジプト考古学博物館を訪れ、ツタンカーメンの棺から発見された鉄製の短剣の現地調査を行った。この鉄剣は紀元前14世紀に製作されたものであるが、棺の中で保管されていたため非常に保存状態が良く、錆などの劣化の影響が小さい(図1a-c)。紀元前14世紀のエジプトには製鉄技術は存在しなかったため、当時の人々は宇宙から飛来した鉄隕石を加工し鉄剣を製造したと考えられていた。2016年にイタリアの研究チームが鉄剣の調査を行い、鉄・ニッケル・コバルト濃度の測定から、鉄剣の材料が鉄隕石であることを確認したが、鉄隕石からの鉄剣の製造方法については明らかにされていなかった。千葉工業大学の研究チームは、ポータブル蛍光X線分析装置※1を用いて、非破壊・非接触で鉄剣の元素分布の分析を行った。本調査で得られた鉄剣の元素の存在度及び二次元分布の解析、鉄隕石のそれらを比較することにより、鉄剣の製造方法及び起源の特定に成功した。
※1 蛍光X線分析では、X線を分析対象試料に照射し、発生する蛍光X線の測定により試料中の元素濃度を決定する。本調査で用いたELIOは、装置を精密XYステージ上で移動させることで、二次元の元素分布分析が可能である。
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