プレスリリース

  • 記事画像1
  • 記事画像2

学校法人明治大学

日が長くなると排卵の周期が安定することが明らかに

(PR TIMES) 2023年06月19日(月)17時15分配信 PR TIMES

〜日光浴が女性の妊活の鍵!〜 明治大学農学部・中村孝博教授らの研究グループ

<研究成果のポイント>
● 明治大学農学部生命科学科動物生理学研究室の中村孝博専任教授らの研究グループは、雌性マウスを用いた実験により、季節繁殖動物ではない動物においても、日の長さを2時間延長させた長日環境下で性周期が安定することを発見した。

● サーカディアンリズム※1を構成する主要な時計遺伝子である3つのPeriod遺伝子をすべて欠損させたPer1/2/3 欠損マウスは通常の照明条件(12時間明期:12時間暗期)下では性周期※2が不規則であるが、長日環境下では、性周期が安定し規則的になることがわかった。

● 遺伝子を操作していないマウスにおいても、長日環境は、性周期の期間を短縮および安定させた。

● これらの結果より、女性においても、光環境周期を調整しサーカディアンリズムの適応をはかることにより月経周期が安定し、より妊娠しやすい体になる可能性が考えられる。
1.概要
 明治大学農学部生命科学科動物生理学研究室の中村孝博専任教授らの研究グループが、季節繁殖動物に分類されない実験動物であるマウスにおいて、日の長さ(以下、日長)を変化させることにより、性周期が安定・短縮することを発見しました。
 女性では平均28日周期で一回り(回帰)する排卵から次の排卵までの間隔である月経周期は、動物では発情周期または性周期と呼ばれ、種によって回帰する日数が異なります。実験動物として用いられるマウスは通常4日間(または5日間)周期で性周期を回帰させ、性周期の正常な回帰は、雌性生殖機能が正常であることを意味します。同じげっ歯類であるハムスターは、季節繁殖動物に分類され、日長を感じ取り繁殖活動を開始させたり、休止させたりします。ハムスターや馬などの長日繁殖動物では、日が長くなると繁殖活動を開始させ、日が短くなると休止させます。一方、ヒトやマウスは季節繁殖動物ではなく、1年中繁殖が可能である周年繁殖動物に分類されています。これまでに、周年繁殖動物において、日長の違いが繁殖活動や生殖機能に変化を与えることは報告されていませんでした。今回、本研究グループは、日長を通常より2時間長くした長日環境で、性周期が何日間で回帰するかを調べました。
 まず、サーカディアンリズムの主要な時計遺伝子であるPer1, 2, 3が壊れている遺伝子欠損マウス(Per1/2/3 KOマウス)を用いました。この動物は、Per1, 2, 3が機能しないためサーカディアン活動リズムを示さない特徴を示し、さらに、繁殖効率が悪いことが知られています。通常マウスは飼育室内において、照明条件を12時間明期:12時間暗期として飼育しますが、この条件での雌性Per1/2/3 KOマウスの性周期は不規則であり、5%のマウスしか正常である4日間(または5日間)の性周期を示しませんでした。しかし、14時間明期:10時間暗期という1日のうち2時間明るい時間を長くする長日環境条件で飼育すると、38%のマウスが正常である4日間(または5日間)の性周期を示すようになりました。
 次に、遺伝子が欠損していない野生型マウス(C57BL/6Jマウス)を用いて同様の実験を行ったところ、12時間明期:12時間暗期の照明条件では47%のマウスが4日間の性周期を示しましたが、残りの動物は、4日間に5日間もしくはそれ以外の周期(日数)が混在する不規則な性周期で回帰していました。このマウスを長日環境下で飼育すると、4日間の性周期を示すマウスが68%まで増加しました。すなわち、2時間の明期の延長が性周期の日数を短縮させることが分かりました。性周期(日数)が5日間から4日間に短縮するということは、排卵の頻度が上昇し交配確率が1/5から1/4に上がることになります。これは、周年繁殖動物であるマウスにおいても、長日環境下で飼育することにより、繁殖効率が上がることを示しています(図1)。
本研究成果は、日本学術振興会科学研究費補助金(課題番号:17H04022、19K06360、19K06360、17K07592、21K06363、19K10046)および明治大学科学技術研究所重点研究の助成によって得られたもので、Cell Pressジャーナルである『Heliyon』(ELSEVIER社;オンライン版6月2日付)に掲載されました。

2.研究の背景
 睡眠-覚醒リズム、循環機能のリズム、ホルモン分泌リズムなどに表出する約24時間のリズムはサーカディアンリズムと呼ばれ、女性(雌性)生殖機能と、密接に連携していることが知られています。特に月経周期(性周期)の正常な回帰は、正常な生殖機能の指標となり、サーカディアンリズムと密接に関わっています。哺乳類のサーカディアン時計中枢は脳・視床下部・視交叉上核に存在し、雌性動物の排卵に必要な時刻情報を生成し出力します。このことは視交叉上核に損傷を与えたり、サーカディアン時計を担う時計遺伝子の機能を無効にすることによってサーカディアンシステムを混乱させたりすると、性周期が乱れたり、交配成功率が低下することからもわかります。
 哺乳類では、サーカディアンリズムは時計遺伝子群の転写・翻訳フィードバックループによって細胞内で生成されます。その中でも、Period (Per) 遺伝子は主要な時計遺伝子であり、Per1, 2, 3の欠損(Per1/2/3 KO)マウスは一定の条件(例: 一定の暗闇など)で飼育するとサーカディアンリズムが欠如します。また、このマウスでは性周期も損なわれ、その結果、繁殖率が低下するため、サーカディアンリズムと性周期の間には双方向の関係があるといえます。上記のことから、本研究では、照明条件の変更がサーカディアンリズムの乱れたPer1/2/3 KOマウスの性周期に与える影響を調べました。

3.本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
 女性の社会進出が促される日本の現状において、女性の健康増進は急務であり、これまで軽視されがちであった女性特有の生理現象のメカニズムの解明は、「少子化」などの喫緊の社会的問題を解決する糸口になる研究です。このような背景により、本研究の主旨である「周年繁殖動物においても光環境が繁殖・生殖機能に影響を与える」は、女性の健康増進に対して新しい治療方法確立、治療薬の開発などを促し社会に貢献する重要な課題であると考えられます。
 過去の統計を紐解くと、日本においても世界においても、月別の出生数に1年間の変動が認められます。日本では、明治から昭和初期にかけて、1、2、3月生まれが多く、6、7、8月が少ないというデータがあります(図2)。この傾向は、日本での工業化が進んだ第2次ベビーブーム以降認められなくなりましたが、工業化の前は出生数に季節性があったと言えます。ヒトの妊娠期間(受精日から平均38週間)を考慮すると1、2、3月生まれは、日が長くなる4、5、6月に妊娠したと考えられます。
 周年繁殖動物に分類されるマウスにおいて、長日条件が性周期の安定化・短縮を引き起こすことが分かったことから、ヒトにおいても長日条件により繁殖効率が上がる可能性を示しています。これらの結果は、今後のサーカディアンリズム(体内時計)研究の発展に貢献するとともに、女性特有の疾患の発症機構の解明やその治療や対策方法の考案に寄与するものと考えられます。本研究グループでは「サーカディアン(概日)タイミング戦略」を提示し、ライフコースを通した心身の健康増進に貢献していきます。

4.用語説明
※1「サーカディアンリズム(概日リズム)」:地球上のあらゆる生物は約1日(概日)周期の体内時計機能を有し、「昼間は活動し、夜間は休む」などの基本的スケジュールに備えて生理機能が変動する。通常、サーカディアンリズムは24時間周期に調節され、時刻情報がない(実験的)環境下では“およそ1日”周期で変動する。「サーカディアンリズムの分子機構の発見」に対して、2017年ノーベル生理学・医学賞が授与された。
※2「性周期」:ほ乳類の発情周期のこと。排卵から次の排卵までの期間を言う。卵巣周期とも言い、卵巣の周期的な変化に伴って誘発される周期でもある。性周期の期間は動物種によって様々で、マウスなどのげっ歯類は4‐5日周期で回帰する。発情前期、発情期、発情後期、発情休止期の4つのステージに分けられることが多い。このステージの判定は通常、毎日膣の垢を採取し組織学的に判定する。ヒトでは、子宮内膜の変化を示す“月経周期”と表されることが多く、月経期、増殖期、(排卵)、分泌期に分けられる。

5.特記事項
※掲載誌:『Heliyon』(ELSEVIER社), VOLUME 9, ISSUE 6, E16970, JUNE 2023
※論文タイトル:Long days restore regular estrous cyclicity in mice lacking circadian rhythms
※著者:Takahiro J. Nakamura, Nana N. Takasu, Sayuri Sakazume, Yu Matsumoto, Natsuko Kawano,
Julie S. Pendergast, Shin Yamazaki, and Wataru Nakamura
※DOI: 10.1016/j.heliyon.2023.e16970
※論文ダウンロード:
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2405844023041774?via%3Dihub
※助成:本研究は、日本学術振興会科学研究費補助金(課題番号:17H04022、19K06360、19K06360、17K07592、21K06363、19K10046)および明治大学科学技術研究所重点研究の一環として行われました。
※共同研究:本研究は、長崎大学、米国テキサス大学サウスウェスタンメディカルセンター、米国ケンタッキー大学との共同研究です。

6.参考図と説明
[画像1: https://prtimes.jp/i/119558/21/resize/d119558-21-e54619ed3fa51186b5ab-0.jpg ]

図1 本研究の概要
上段:サーカディアンリズムを構成する主要時計遺伝子を欠損したPer1/2/3 KOマウスは、12時間明期:12時間暗期の照明条件では、リズムが整いにくく、性周期が正常に回帰しない。明期を2時間長くした14時間明期:10時間暗期の照明条件では、リズムが整い、性周期が正常に近くなる。
下段:野生型マウスでも同様に2時間の明期の延長がリズムをより強固にし、性周期の短縮・安定化に寄与する。
[画像2: https://prtimes.jp/i/119558/21/resize/d119558-21-d31cdc9065108280e844-1.jpg ]

図2 本邦における月別出生率の変化
 明治から昭和初期にかけては、1、2、3月生まれが多く、6、7、8月生まれが少ないことが見て取れる。この傾向は、工業化が進んできた第2次ベビーブーム頃にはなくなっている。すなわち、日本においても、季節的な出生率の変動は、認められていた。1,2,3月生まれは、日が長くなる4月から6月頃に妊娠したと考えられ、6、7、8月生まれは、日が短くなくなる9月から11月頃に妊娠したと考えられる。



プレスリリース提供:PR TIMES

このページの先頭へ戻る