プレスリリース
地球観測衛星による自然資本モニタリングで脱炭素とネイチャーポジティブを並行推進
株式会社シンク・ネイチャー(以下シンク・ネイチャー )は、MS&ADインシュアランス グループ ホールディングス株式会社ならびにMS&ADインターリスク総研株式会社と連携したチームとして、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(以下JAXA)が行う、陸域観測技術衛星2号「だいち2号」(ALOS-2)の観測データ事業化実証プロジェクトのテーマの1つに選定され、「生物多様性へのインパクト評価のための鉱山露天掘り状況の空間可視化」を実施することを、お知らせします。
[画像1: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/100724/15/100724-15-baf592d7ac25fdd4e922d5747b58bd26-904x488.png ]
プロジェクトの背景
2030年までに、生物多様性消失に歯止めをかけ、生物多様性を回復の軌道に乗せるネイチャーポジティブ(自然再興)と呼ばれる国際目標があります。下図の縦軸は、人類の存続基盤としての生物多様性・生態系の状態を示し、図中のカーブは、2020年代には、生物多様性の損失を食い止め、2030年には、回復軌道に乗せることを示しています。
[画像2: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/100724/15/100724-15-803f2b6757ab82b1a574a2e7d2d9cc94-904x400.png ]
これは、2050年までに生物多様性を十分に回復させ「自然と共生する社会」を実現するための前段階の目標で、2050年カーボンニュートラル宣言にも呼応したものです。
一方で、生物多様性は多面的な要素を包含するので、その消失や回復を数値的に定量するのが困難でした。この難題を、シンク・ネイチャーは、生物多様性ビッグデータと生態学の理論を基に、様々なデータ分析手法を駆使することで解決し、自然保全・再生の定量的な効果量測定を可能にし、30by30やOECMの実効性強化を提唱してきました(*1)。
本プロジェクトでは、このようなネイチャー関連のデータテクノロジーを基に、露天掘り鉱山を人工衛星でモニタリングし、生物多様性ロスを高精度で可視化するシステムを開発し、鉱山開発をネイチャーポジティブに向かうアクションプランを探索します。
本プロジェクトの意義
非鉄金属は採掘圧が高まる一方で、自然環境に与える影響の把握が遅れています。特にニッケルやリチウムなどのレアメタルは、脱炭素取り組みに伴う急進的なEV化などによって、採掘量が増加しています。ニッケルの採掘は、生産量の9割弱が露天掘りで、熱帯林などの森林生態系の地上部(植生)と地下部(土壌、根などのバイオマス)の全てを剥奪してしまい、自然へのインパクトが甚大です。
そこで、本プロジェクトでは、JAXAの陸域観測技術衛星2号「だいち2号」 (ALOS-2)が観測しているPALSAR-2という、Lバンドの周波数をもつ合成開口レーダ(SAR)で観測されたデータなどを用いて、東南アジアの熱帯林におけるニッケル露天掘りの検出を行い、ニッケルの採掘圧が、生物多様性や生態系サービスに与えるインパクトを可視化し、脱炭素取り組みとネイチャーポジティブを両立しうる、気候ー自然ネクサスな鉱山開発のあり方を検討する基盤ツールを開発します。
事業化実証の概要
世界的な生物多様性のホットスポットであるインドネシアのニッケル鉱山に焦点をあて、陸域観測技術衛星2号「だいち2号」 (ALOS-2)のPALSAR-Lバンドデータ等を用いて、ニッケル露天掘りの時空間的な開発実態を検出するAIを開発します。PALSAR-Lバンドデータは、可視光データのように色味を対象とするのではなく森林などの多い地域も含む地表面の変化の観測を対象とするため、露天掘りおよびその周辺の森林等地域の変化に対する検出力が高いと期待されます。そして、シンク・ネイチャーが有する全球スケールの自然資本ビッグデータを元に、空間ごとの採掘圧とその推移を生物多様性指標と重ねて、ニッケル採掘に伴う生物多様性の消失量、野生生物の絶滅リスク、生態系の炭素貯留機能の劣化量を評価します。
[画像3: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/100724/15/100724-15-39730b9f400245d43f46d6dd0b216951-904x376.jpg ]
陸域観測技術衛星2号「だいち2号」(ALOS-2)
(C)JAXA(引用元 https://www.satnavi.jaxa.jp/ja/project/alos-2/index.html)
将来展望
2023年9月に自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)による情報開示の枠組みが公表され、ビジネスにおける「生物多様性への対応」の機運が急速に高まっています。鉱山事業は、現代社会を支える基盤産業であり、鉱山開発による生物多様性ロスを最小化し、ネイチャーポジティブへ向かうアクションプランの実装が喫緊の課題です。本プロジェクトは、人工衛星観測データと自然環境に関するグランド・トゥルースデータ(地表で観測された気候環境や生物多様性データなど)を統合して、鉱山開発と自然へのインパクトの実態を高解像度で可視化します。そして、鉱山開発の事業地域における生物多様性の把握(Locate)、事業地域における生産活動に応じたインパクトの把握(Evaluate)、リスクの把握(Assess)、および事業改善(露天掘りから坑内掘りへの変更や、開発エリアの自然回復に関するアクション考案など)、自然関連の情報開示に向けた準備(Prepare)まで、TNFDが推奨するLEAPプロセスを、鉱山事業セクターで駆動させるための科学的基盤ツール開発に貢献します。
会社概要
【株式会社シンク・ネイチャー】
生物多様性科学において卓越した研究業績を有する研究者で構成されている琉球大学発スタートアップです(https://think-nature.jp)。世界の陸・海を網羅した野生生物や生態系の時空間分布を、自然史の研究論文や標本情報、リモートセンシング(人工衛星・ドローンによる観測)、環境DNA調査、野生生物の行動記録(バイオロギング)、植物・動物愛好者の研究などで収集された生物関連データ(地理分布、遺伝子、機能特性、生態特性など)を元にビッグデータ化し、AI等の最先端技術を用いたネイチャーの可視化や予測やシナリオ分析技術を有しています(*2)。TNFDのデータカタリストイニシアティブに参画し、自然資本ビッグデータを活用した自然の持続的利用に関する分析、評価、 ソリューション TN LEAD(*3)やTN GAIN(*4)で 、金融機関・機関投資家・企業の生物多様性対応を支援しています。また、生物多様性の記載に尽力している研究者を表彰する「日本生態学会自然史研究振興賞」を提唱し、賞金を提供して基礎科学の裾野を支える活動を行い(*5)、さらには一般向けに、生き物の豊かさを、地図で見える化したスマートフォンアプリ「ジュゴンズアイβ版」(無料)をリリースし(*6)、生物多様性の主流化(教育普及)を推進しています。
*1:30by30の実効性評価:地球の陸と海の30%以上を保護地域にする意義
https://note.com/thinknature/n/n2f8ff1ee6169 官民の自然環境エリア(自然公園やOECM等)の拡大を、生物絶滅リスク抑止の観点から算定し、多セクターのネイチャーポジティブ事業の実効性を統合的に見える化し、集団的(コレクティブ)アクションを推進する科学的アプローチを、シンク・ネイチャーは提案しています。
*2:日本の生物多様性地図化プロジェクト:J-BMP https://biodiversity-map.thinknature-japan.com
*3:全産業セクター&グローバルな事業拠点に対応した TNFD対応支援サービス:TN LEAD https://think-nature.jp/service03
*4:「生物多様性ネットゲイン」を可視化しネイチャーポジティブ事業を推進するサービス:TN GAIN https://services.think-nature.jp/gain/
*5:日本生態学会の新賞:生物多様性に関する記載研究を推進している会員を表彰する新たな賞 https://note.com/thinknature/n/n885ba7f11009
*6:ジュゴンズアイ(DugongsAI)β版:豊かさを知る冒険が、待っている!
https://services.think-nature.jp/dugongsai/
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