プレスリリース
セルプロジャパン株式会社(本社: 神奈川県藤沢市、代表取締役: 佐俣文平、以下、セルプロジャパン(株))は、細胞培養上清液やエクソソームに含まれる不要成分を効率的に取り除くことができる新技術を開発し、特許を取得致しました。
本特許は、細胞培養工程を含む再生医療等製品(特定細胞加工物を含む)やヒト幹細胞培養上清液、エクソソーム等に対する安全性の向上に寄与し、医療機関や化粧品会社等において品質の高い製品提供を実現します。
ポイント
・細胞培養に用いられる培地成分や添加因子(組み換えタンパク質や抗生物質など)は細胞内に取り込まれて一定期間保持されている
・細胞内に取り込まれた不要成分は時間をかけて細胞から再放出される
・従来の培養操作では1回且つ当日中の洗浄操作のみが実施されており、最終製品には細胞から再放出された不要成分が含まれ得る
・本技術により再放出後の不要成分を効率的に取り除くことができる
・再生医療等製品や上清液、エクソソームの製造における高い安全性向上に関する技術開発
開発背景
細胞の培養には、組み換えタンパク質や抗生物質などが含まれる細胞培養用培地を使用する必要があります。これらの成分は、培養細胞を健康に増殖させるためには重要ですが、ヒトの体内に取り込まれると異種動物由来の因子によるアナフィラキシーショック(注1)1,2)や、痛み・かゆみといった炎症性の応答3,4)、低血糖症状などの副作用を引き起こすリスクがあります。このことから、これまで細胞培養工程を含む再生医療等製品(特定細胞加工物: 注2)やヒト幹細胞培養上清液(注3)、エクソソーム(注4)の製造では、最終製品への培養時の不要成分の持ち込みが課題となっていました。
これら不要成分の除去方法として、培養後の細胞をPBS(リン酸緩衝生理食塩水: 注5)等により洗浄する操作が一般的に行われています。当社では、最終製品の安全性を確保するために、予備試験により培養上清液中に含まれる不要成分の濃度変動を解析しました。ヒト由来臍帯幹細胞を組み換えVEGF(注6)添加培地で培養し、PBSで細胞洗浄後にVEGF不含培地に置換したところ、上清液中のVEGF濃度の低下が観察されました(図1)。しかしながら、その後2日間VEGF不含培地で培養を続けると、再び上清液中のVEGF濃度が上昇することが明らかになりました(図1)。本結果は、細胞内に取り込まれたVEGFが、一定期間を経て培養上清液中に再放出されていることを意味します。
[画像1: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/121726/7/121726-7-fdf4d71e74e6cc6d8833d9799b9e023d-984x584.jpg ]
図1. 組み換えVEGF添加培地で培養したヒト由来臍帯幹細胞培養上清液中のVEGF濃度の変化5)
組み換えVEGF含有または不含培地で細胞培養を行った後、上清液中のVEGF濃度を測定した。培養直後の上清液に含まれていたVEGF(2.)と比較して、PBS洗浄直後では(3.)、VEGF不含培地(1.)と同程度までVEGF濃度が低下していた。しかしながら、その後VEGF不含培地で2日間培養(4.)を継続すると、上清液中のVEGF濃度は再び上昇した。
予備試験から、細胞培養後の洗浄操作は1回且つ同日中の処理だけでは不十分であり、従来の細胞培養工程を含む再生医療等製品(特定細胞加工物を含む)やヒト幹細胞培養上清液、エクソソームには不要成分が持ち込まれる可能性が示唆されました。セルプロジャパン(株)では、この問題を解決するために、本件技術開発に取り組んできました。
開発内容
培地中に含まれる複数の不要成分を最終製品から取り除くことは現実的に難しいことから、培養工程の中で除去する操作が必要となります。セルプロジャパン(株)では、これら不要成分の再放出時間を調査することで、細胞内から不要成分が培地中に再放出される条件を検証しました。その結果、不要成分を含む培地を取り除き1回目の洗浄操作をした後に、数日間の培養期間を設けて(※組み換えタンパク質などの不要成分は含まない培地を使用する)、再度洗浄を実施することで再放出される不要成分を効率的に取り除けることを発見しました。
本技術により、再放出される不要成分を事前に取り除くことで高品質な上清液やエクソソームを製造することに成功しました(図2)。
[画像2: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/121726/7/121726-7-6a2bade252f9e486f708d02d80ca665a-905x661.jpg ]
図2. 不要成分の細胞内取り込みと再放出
今後の予定
本技術は、細胞培養工程を含む再生医療等製品(特定細胞加工物)やヒト幹細胞培養上清液、エクソソーム等に対する安全性向上につながります。今後は本技術を利用した高品質な上清液やエクソソームの製造、及び再生医療等製品等の開発に取り組んでいきます。
また本技術の特許協力条約(PCT: Patent Cooperation Treaty)に基づく国際出願(PCT国際出願)は既に完了しています。
本特許の概要
【出願番号】特願2023-207564
【特許番号】特許第7468955号
【登録日】令和6年4月8日
【発明者・特許権者】佐俣文平・セルプロジャパン株式会社
セルプロジャパン株式会社
再生医療及びその周辺産業の活性化を目指して、研究開発から製造、販売までをワンストップで取り組んでいます。新しい選択肢を提供するために日々チャレンジングな課題に挑戦しています。
[画像3: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/121726/7/121726-7-383c5c6b42800ca92bed40002fa1ea24-3900x2602.jpg ]
※写真:研究拠点を置く湘南ヘルスイノベーションパーク
企業名:セルプロジャパン株式会社
代表者:代表取締役 佐俣 文平(さまた ぶんぺい)
所在地:神奈川県藤沢市村岡東2-26-1 湘南アイパーク内
電 話:0466-27-4134
メール:info@cellprojapan.com
HP :https://cellprojapan.com
その他:本技術の使用や共同開発等に関するお問い合わせは弊社までご連絡ください。
引用文献
1) Annamari Heiskanen et al., N-Glycolylneuraminic Acid Xenoantigen Contamination of Human Embryonic and Mesenchymal Stem Cells Is Substantially Reversible, Stem Cell, 2007.
2) 研究者COLUMUN, 細胞培養工程を含む最終製品の安全性について, セルプロジャパン株式会社,https://cellprojapan.com/column/. 2023.
3) Germn Andres et al., A pro-inflammatory signature mediates FGF2-induced angiogenesis, J Cell Mol Med, 2009.
4) 研究者COLUMUN, 細胞培養工程を含む最終製品の安全性について: 組み換えタンパク質FGF, セルプロジャパン株式会社, https://cellprojapan.com/column/. 2023.
5) 本特許, 幹細胞培養上清液およびその製造方法, セルプロジャパン株式会社, 特願2022-130872.
用語解説
(注1)アナフィラキシーショック: 原因物質が体内に触れたことにより引き起こされる、全身性の急性免疫反応。血圧の低下や意識障害がみられる。
(注2)特定細胞加工物: 再生医療等に用いられるヒトまたは動物の細胞に加工を施したもののうち、再生医療等製品に指定されていないもの。自由診療下における施術で用いられる。
(注3)ヒト幹細胞培養上清液: ヒト由来幹細胞の培養時に使用した培養液を回収したもの。細胞由来の生理活性物質などが含まれる。
(注4)エクソソーム: 細胞が分泌する細胞外小胞。特定の細胞の再生や成長を促す因子や、細胞間の情報伝達物質を含んでいる。
(注5)PBS (リン酸緩衝生理食塩水): ヒトや動物由来の実験を行う際に利用される、塩を含む細胞に無毒な液体。体液と浸透圧が等しく、pH変動を起こしにくい。
(注6)VEGF(血管内皮細胞増殖因子): 細胞の分化や増殖を亢進し、血管新生を促す生理活性物質。
プレスリリース提供:PR TIMES