プレスリリース
日本唯一のプラチナ系砂白金鉱床から
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熊本県美里町で採集されたプラチナ系砂白金(少量の砂金が伴われる)
発表のポイント
◆熊本県美里町で新鉱物「不知火鉱(しらぬいこう、学名:Shiranuiite)」を発見し、命名。
◆採集地は本研究グループが発見した日本唯一のプラチナ系砂白金鉱床。
◆同鉱床は、3 種類の新鉱物が発見された、世界的にも特異な例。
概要
東京大学物性研究所の浜根大輔技術専門職員は、鉱物研究家の田中崇裕氏および新町正氏と共同で、熊本県美里町の山中から新種の鉱物(=新鉱物)「不知火鉱(しらぬいこう、学名:Shiranuiite)」を発見しました。採集地は同グループが2019 年に発見した日本で唯一のプラチナ系砂白金の鉱床で、不知火鉱は同地の砂白金から見出されました。不知火鉱は熊本県の古称「火の国」の伝承にちなんで命名され、国際鉱物学連合の新鉱物・鉱物・命名委員会から正式に承認されました(注1)。
研究成果は日本鉱物科学会が発行する学術雑誌「Journal of Mineralogical and Petrological Sciences」のオンライン版に2024 年7 月1 日早期公開されました。
発表内容
〈研究の背景〉
研究グループは2019 年、熊本県美里町山中の河川から砂白金を見出しました。その砂白金を電子顕微鏡で詳細に調べたところ、ほとんどの粒子がプラチナ(Pt)を主成分とするイソフェロプラチナ鉱(Isoferroplatinum: Pt3Fe)(図1)であることがわかりました。採集された砂白金のほとんどがプラチナを主成分とすることは、当地がプラチナ系砂白金の鉱床であることを意味しています。
砂白金鉱床は北海道に多く分布することが知られていますが、北海道の砂白金はイリジウム(Ir)-オスミウム(Os)-ルテニウム(Ru)成分が主なイリジウム系砂白金鉱床です(注2、関連情報)。北海道をはじめ、日本ではプラチナ(Pt)-ロジウム(Rh)-パラジウム(Pd)成分が主なプラチナ系砂白金鉱床(注2)はこれまで発見されたことはありませんでした。そのため、美里町の砂白金鉱床は、日本で初めて、かつ、唯一のプラチナ系砂白金鉱床として認識されています。
プラチナ系白金族元素は触媒等で利用用途が多く、資源として渇望されています。第二次世界大戦時には需要が急拡大し、当時、国内唯一の砂白金産地である北海道では数十万人が動員されて鉱床探査や採掘が行われましたが、ついにプラチナ系砂白金鉱床は見つかりませんでした。
研究グループが発見した鉱床がある美里町の山中には、マントルのマグマ溜まりで生成される輝石岩体が広がっています。プラチナ系白金族元素はマグマに凝集しやすいという特性があり、世界的にもプラチナ系砂白金の産地には輝石岩体が見られます。美里町ほどに輝石岩体が分布する地は国内にはなく、かつて広く探索された北海道でなく、熊本県でプラチナ系砂白金鉱床の発見に至ったのには、地質の裏付けがありました。
研究グループは同鉱床から「皆川鉱(みなかわこう、学名:Minakawaite)」(注3)と「三千年鉱(みちとしこう、学名:Michitoshiite-(Cu))」(注4)という2 つの新鉱物を発見しており、さらなる新鉱物の発見が期待されていました。
[画像2: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/88291/7/88291-7-c1125a79bf2085009eb1db37f1f6bef8-1494x1004.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
図1:イソフェロプラチナ鉱(Isoferroplatinum: Pt3Fe)(背景1 マス1 mm)
研究グループは熊本県美里町の山中を流れる釈迦院川の支流から砂白金を採集し、電子顕微鏡を用いて粒子を一粒単位で詳細に分析しました。その結果、硫銅ロジウム鉱という既知の鉱物と同じ見た目をしていながら、組成が異なる新鉱物「不知火鉱」を発見しました。不知火鉱は、銅(Cu)、ロジウム(Rh)、硫黄(S)を主成分とし、理想化学組成がCu+(Rh3+Rh4+)S4となるスピネル族(注5)の新鉱物です。不知火鉱は砂白金粒子になかば抱きかかえられるような形で産出します(図2)。
不知火鉱の命名は、熊本県の古称である「火の国」にまつわる、日本書紀に記された第12 代景行天皇の九州巡幸の伝承(注6)に由来しています。
[画像3: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/88291/7/88291-7-7af1cd547d23f0338815c16b3714180a-1272x850.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
図2:不知火鉱(写真中央黒色部)を含む砂白金(FOV = 4 mm)
〈今後の展望〉
美里町のプラチナ系砂白金鉱床を見出して以降、発見した新鉱物は不知火鉱で3 種類めとなります。当地は日本で唯一のプラチナ系砂白金の鉱床であるだけでなく、3 種類もの新鉱物が見つかっているように、世界的にも特異な鉱床と見なせます。一方で、鉱床規模は小さく、現時点では資源利用は難しいと考えています。しかしながらプラチナ系白金族元素の希少な国内資源という重要性から、埋蔵量や成因についてさらに詳しく調査する予定です。
〇関連情報:
- 「東京大学物性研究所 電子顕微鏡室 不知火鉱/Shiranuiite(2023-072a)」- 2022 年に浜根氏らは、北海道からプラチナを主成分とする「苫前鉱(とままえこう)」を発見、報告していますが、鉱床としてはイリジウム系砂白金鉱床です。(2022年発表プレスリリース「北海道より「苫前鉱(とままえこう)」を発見 ―プラチナを主成分とする新鉱物―」)
論文情報
雑誌名:Journal of Mineralogical and Petrological Scineces
題 名:Shiranuiite, Cu+(Rh3+Rh4+)S4, a new mineral in the thiospinel group from Kumamoto,
Japan
著者名:Daisuke Nishio-Hamane*, Takahiro Tanaka, Tadashi Shinmachi
用語解説
(注1)新鉱物の審査:
鉱物の新種(新鉱物)は論文での発表に先立って、国際鉱物学連合の新鉱物・鉱物・命名分類委員会において審査され、その承認を得る必要があります。
(注2)イリジウム系砂白金鉱床・プラチナ系砂白金鉱床:
類似な化学的性質をもつ6 種類の元素(ルテニウム・ロジウム・パラジウム・オスミウム・イリジウム・プラチナ)を総じて白金族元素と呼び、砂白金はこれらの元素を含んでいます。白金族元素は融点が2000℃を超えるオスミウム・イリジウム・ルテニウムと2000℃を超えないロジウム・プラチナ・パラジウムが地球科学的な生成過程から分けられます。これにより、それぞれの産出箇所も異なるため、前者が多い鉱床がイリジウム系砂白金鉱床、後者が多い鉱床がプラチナ系砂白金鉱床と区別されます。イリジウム系砂白金鉱床からもプラチナを含む鉱物はわずかながら産出します。
(注3)皆川鉱(みなかわこう、学名:Minakawaite):
2019 年に研究グループが熊本県美里町で発見した鉱物。組成はRhSb。名称の由来は愛媛大学元教授の皆川鉄雄氏。
(注4)三千年鉱(みちとしこう、学名:Michitoshiite-(Cu)):
2020 年に研究グループが熊本県美里町で発見した鉱物。組成はRh(Cu1-xGex)。名称の由来は愛媛大学元教授の故宮久三千年氏。
(注5)スピネル族:
AB2X4という組成と、スピネル型の結晶構造をもつ鉱物グループの呼称。不知火鉱ではA = Cu(銅)、B = Rh(ロジウム)、X = S(硫黄)が当てはまります。
プレスリリース提供:PR TIMES