プレスリリース
【イベントレポート】立命館大学宇宙地球探査研究センター「ESEC」、ispace袴田武史氏を招き、宇宙開発×宇宙ビジネスの可能性を徹底議論
日本科学未来館「NEO 月で暮らす展」協力で実現。産業界、アカデミア、メディア関係者ら約70名が参加。
立命館大学(京都市中京区、学長:仲谷善雄(なかたに・よしお))びわこ・くさつキャンパスに拠点を置く宇宙地球探査研究センター(Earth & Space Exploration Center(ESEC))は8月8日、日本科学未来館(東京・お台場)で初の主催イベントを開催しました。ESECからは佐伯和人センター長、小林泰三教授、湊宣明教授と、宇宙ベンチャーの株式会社ispace代表取締役CEO&Founder袴田武史氏が登壇し、産業界、アカデミア、メディア関係者らを中心に約70名が参加しました。
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ESECは、月・惑星における人類の生存圏構築に向けて宇宙開発の現場を切り拓く研究に取り組み、人跡未到の地に探査・開発拠点を構築、最先端の観測データをもたらすことを使命とし、イノベーション創出と社会実装を進めている研究組織です。
イベントのテーマは「Beyond Gravity:いまこそ『月面開発』に投資せよ。宇宙研究×宇宙ビジネス最前線」。佐伯センター長が監修を務めた体験型展覧会「NEO 月で暮らす展」(日本科学未来館で9月3日まで開催中)の協力で実現しました。ispace袴田氏とともに、宇宙研究や宇宙ビジネスの可能性、宇宙開発の課題や展望、産学連携の多様なコラボレーションの未来について熱く議論を交わしました。
参加者からの質問やコメントも相次ぎ、大いに盛り上がりをみせた本イベントのエッセンスをご報告いたします。
セッション1:「私が切り拓く最新宇宙フロンティア」フラッシュプレゼン&パネルディスカッション
スピーカー:袴田武史氏・佐伯和人センター長・小林泰三教授・湊宣明教授
本学研究者3名が「私が切り拓く最新宇宙フロンティア」と題し、ショートプレゼンテーション。その後、袴田氏を交え、「宇宙における探査・生存圏構築が人類にもたらす『新たな価値』」をテーマにディスカッションしました。
「ESECは、宇宙開発へ向けた目の前の課題を、幅広い分野から解決する」佐伯和人センター長
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「私たちESECが注力するのは、宇宙開発を3つのフェーズに分けた際の『フェーズ2』です。フェーズ1はこれまで行われてきた『発見型』の宇宙探査、最近盛り上がっている、宇宙での都市構築を目指すのが『フェーズ3』の世界ですが、人類の生存圏構築に向けて探査拠点を開発し、宇宙開発の現場を切り拓く『フェーズ2』にフォーカスを当てた研究組織は日本初となります」
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「フェーズ3が実現するには、これから約30年を要すると言われています。それぞれの研究者や企業が自分たちの研究分野だけに取り組んでいては、宇宙における都市開発の段階には到達することができません」
「ESECは、あらゆる分野の研究者たち26人で構成されています。宇宙をゴールにして、それぞれの専門分野から、目の前にある現実的な課題や問題点を一つひとつ克服していく。それがESECの役割です」
「宇宙を目指すことは、地上でも役立つ技術革新に繋がる」小林泰三教授
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「私はもともと土木工学の専門で、ESECでは月の土の特性を調べる調査ロボットを開発しています。月面探査車が月面を走ったとき、土がどう挙動するのかが分からなければ、建設機械、ロボットなどの設計はできません。月を目指した開発ではありますが、災害地や海底など、地球上で人が入ることのできない場所にも役立てることができます」
「土木工学に限らず、宇宙を目指そうと思えば、ハードルの高い技術開発がたくさん待ち受けています。ただ、そのハードルを超えていければ必ず技術革新が起こる。その技術革新を宇宙から地球上にフィードバックすることができれば、宇宙を攻めつつ、地上にも活かすことのできる、デュアルユース可能な技術を生み出すことが可能になります」
「社会科学の見地から、将来宇宙で起こりうる問題の答えをあらかじめ模索していきたい」湊宣明教授
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「佐伯先生は理学、小林先生は工学。私は社会科学で宇宙に挑みたいと思っています。ESECはアカデミアとして、今ある問題だけでなく、将来起こりうる問題についてもあらかじめ研究し、答えを用意できる存在でありたいと思っています」
「人間が経済活動を始めると、経済的ではない要素も同時に創出される『外部不経済』という概念があります。今後さらに宇宙開発が進むと、宇宙ゴミも増え、開発コストも上がり、宇宙開発活動も制約を受けるでしょう。そのような状況に対する解決策の研究も進めています」
「また、遠い将来の目標にはなりますが、私たちは月面投資をすることも目指しています。月面経済圏が成立するのであれば、それをどう持続するのかという研究にも着手をしたいと思っています」
「学術界との連携が、宇宙ビジネスを前進させる」ispace袴田武史氏
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「私は、宇宙が持続的に使われる環境になってほしいと思っています。もともとはスター・ウォーズが好きで、かっこいい宇宙船が飛び交う未来を見てみたいという憧れがあったのですが、そんなSF映画で観るような世界は、経済的に合理的な活動ができる場である必要があります」
「『宇宙』というと多くの人が夢物語であると思い、思考が停止してしまっています。ただ、世界中の企業は今、どんどん宇宙を目指しているんです。そんな中で『フェーズ2』という現実的な目標にチャレンジするESECがこの7月に誕生したことは、多くの民間企業にとっても意義深いものになるのではないでしょうか」
「私たちispaceは、将来的に月の水資源を活用したいと考えています。それまでに解明しなければならない多くの課題について、学術界と手を組みながら、前進させていきたいと思っています」
フラッシュプレゼンを終えパネルディスカッションへ
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左から、モデレーター・袴田武史氏・佐伯和人センター長・小林泰三教授・湊宣明教授
パネルディスカッションでは、ESECの設立意義を中心に話題が展開されました。
これまでの宇宙探査のフェーズでは、「宇宙」は理系の一部の限られた研究者だけが取り組む分野でしたが、現在「宇宙を人類が利用する」という視点が世界で広まってきています。人が現実的に月を目指すことができるようになった今、必要とされるのは、各分野の専門家がチームとなってその先の現実味のあるビジョンを目指すこと。
「2040年代、月に1000人が住み、年間1万人が月を訪れる」という「ムーンバレー構想」を掲げ、民間企業として初の月面着陸に挑戦したispaceは、ESECにとっても勇気づけられる存在として、将来的なコラボレーションの可能性についても話が及びました。
セッション2:「日本の先端研究×宇宙ビジネスの可能性―月資源は覇権争いから共創へ」
産学連携・徹底対談
スピーカー:袴田武史氏・佐伯和人センター長
ESEC佐伯和人センター長と、袴田氏による対談。アカデミアとビジネスの立場から、月と惑星を取り巻く未来と、多様なコラボレーションの可能性について対話しました。
「オールジャパンで目指す、宇宙資源版のシュルンベルジェ」佐伯和人センター長
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「日本が目指すポジションとして参考になるのが、『シュルンベルジェ』という資源開発において非常に影響力のある多国籍企業です」
「ヨーロッパの人が新大陸に移住した際、畑を掘ったら石油が出て、畑がだめになってしまったという時代がありました。それから時を経て、石油が資源化されると『セブン・シスターズ』という石油を採掘して売る会社が世界経済を動かし始めます。このような時代の流れが、今、宇宙開発を取り巻く環境で起きていると感じています。当時、セブン・シスターズの探査をほぼ一手に引き受けていたのが、シュルンベルジェだったのです。石油や天然ガス資源の開発・探査というシュルンベルジェのポジショニングこそ、日本が宇宙・地球探査の領域で目指していきたいとESECは考えています」
「私たちは、宇宙資源学の創生も大きなテーマに掲げています。これから人類が太陽系に進出していき、宇宙における世界地図ができていきます。軍事利用でなく、平和な宇宙マップをつくるために、日本の発言権を高めていくことにも貢献したいと思っています」
「より多くの観測機を月に輸送することで、ispaceが貢献できること」ispace袴田武史氏
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「月を目標とした研究は金銭的、技術的にもハードルが高く、競争力が高すぎると感じています。こうした状況でも、機会があればどんどん挑戦したいという企業は多く存在しますが、努力しても採用されずに月に持ち込めない事例ばかりでは、研究は進みません」
「ispaceは1kgあたり2億円弱で、月まで観測機を輸送することが可能です。一度に大きなものを運ぶことはできませんが、小さい観測機を少しでも多く月へ運ぶことで、日本での研究が進む機会を提供できると思っています」
セッション2では、2012年に遡る二人の縁が話題になりました。佐伯センター長は当時、伊豆大島での火山観測ロボットの実験や、宇宙探査ロボットの実験に挑戦する人たちの情報交流の場として「伊豆大島無人観測ロボットシンポジウム」を開催していました。そのシンポジウムに参加していたのが、ispaceの前身「ホワイトレーベルスペース・ジャパン」の袴田氏でした。
当時は10年に1回、月探査のための打ち上げができるかどうかと言われていた時代。あれから10年──。2023年度以降、インド・アメリカ・中国・ロシアのプロジェクト、そして、日本からもESECが開発に携わる小型月着陸実証機プロジェクト「SLIM」(8月26日に打ち上げ予定)や月極域探査ミッション「LUPEX」(2024年度以降打ち上げ予定)、ispaceの民間月面探査プログラム「HAKUTO-R」のミッション2(2024年度打ち上げ予定)などが、続々と月への旅立ちを目指しています。
袴田氏からはこのようなコメントがありました。
「2012年に佐伯先生とお会いして、こういった場でお話できる時が来て、非常に嬉しく思っています。諦めずに挑戦し続けてきてよかったです。ESECの設立で、これから計画的に多くのミッションが可能になると思います。ぜひispaceとしても多くの研究者や民間企業の方々と協業ができるように事業を進めていきたいと思っています。一緒に頑張っていきましょう」
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セミナー後半では、小林泰三教授、湊宣明教授も改めて登壇。参加者との活発な意見交換も
参加者たちからは熱量のある質問が相次ぎました。活発化する宇宙開発において、どういった点が日本の強みになるかという質問に対しては、さまざまな可能性が示されました。
「日本は島国として発展し、あらゆる産業・サービス・インフラ・プレーヤーが揃っている。月面での活動や生活に必要なパッケージを、日本は自前で揃えられる」(袴田氏)、「日本がかつてトップクラスだった鉱山開発の技術を宇宙に転用でき、宇宙資源学につなげられる」(佐伯センター長)、「大手ゼネコンが持つ建設のプロジェクトマネージングの技術や、無人化の技術は宇宙でも通用する」(小林教授)、「日本の小型化の技術は、月への輸送を低コストで実現可能にする」(湊教授)。
そのほかにも「宇宙開発に参入するためには何が必要か」、「日本人は宇宙開発の分野でリーダーシップを発揮することができるのか」、「宇宙を目指す次世代の人材をどう育成するか」など、参加者からの様々な問いかけに対して、登壇者がそれぞれの視点からの回答やアドバイスを行い、参加者との交流が深まりました。
「次世代にも宇宙の面白さを伝えていく」野口義文・本学副学長コメント
イベントの最後には野口義文・本学副学長も登壇、以下のようにコメントしました。
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「大学業界も、宇宙学が大変盛り上がりを見せています。ここでいう『学』は、産学連携の『学』だけではなく、学生の『学』も指します。大学だけではなく、小学校から高校の学生にも、その柔軟な発想をもって、ぜひ宇宙に関連する学びを身につけて欲しいと思っているのです」
「昨年11月、立命館小学校の15名がispaceで1日レクチャーをしていただく機会がありました。子どもたちにとって、宇宙を身近に、さらにワクワクするものとして感じられる機会になったようです。現在日本には、小中学生を合わせて、約1000万人の子供たちがいます。ESECと、そして宇宙を目指す様々な企業の皆様と一緒に、次世代にも宇宙の面白さを伝えられたらと思っています」
【本件に関するお問い合わせ先】
■立命館大学 広報課:岡本 (TEL:075-813-8300 / E-mail:r-koho@st.ritsumei.ac.jp)
プレスリリース提供:PR TIMES