プレスリリース
〜ベンチャー企業との共同研究と実用化にむけて国際特許出願〜
自治医科大学総合医学第1講座(腎臓内科)(所在:埼玉県さいたま市、自治医科大学附属さいたま医療センター腎臓内科教授:森下義幸ら)は、マイクロRNA(以下、miR)を用いた急性腎障害(AKI)の新規検査方法と治療・予防方法を発見しました。研究結果はTranslational Research誌に掲載予定で、既に、国際特許出願済でベンチャー企業との共同研究も開始され実用化にむけた取り組みも開始しています。
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論文:<MicroRNA expression profiling in acute kidney injury. Aomatsu A, Kaneko S, Yanai K, Ishii H, Ito K, Hirai K, Ookawara S, Kobayashi Y, Sanui M, Morishita Y. Transl Res. 2021 Dec 4:S1931-5244(21)00283-8. doi: 10.1016/j.trsl.2021.11.010. PMID: 34871811 Free article.>
■国際的に早期発見方法確立が急務とされる、急性腎障害(AKI)とは?
急性腎障害(AKI)とは、感染症、薬剤、外科手術後などに生じる、急激に腎機能が低下する病気です。世界中で毎年1,300万人がAKIを発症し、そのうち170万人がなくなっています。また成人入院患者の5人に1人がAKIを合併するとも報告されており、様々な病気の合併症としても発症率の高い病気のひとつです。AKIでは数時間から数日という短い期間で腎不全が進行し、老廃物を尿から排泄できなくなり、むくみ、吐き気などの症状が現れます。身体に老廃物や毒素が溜まってしまうため、最悪の場合、命に関わる病気とされています。そのため、AKIが悪化する前の早期診断と治療・予防が必要とされています。現在、AKIの早期診断法と特異的治療法・予防法は確立されておらずその開発は喫緊の課題とされています。こういった課題をクリアするため、森下らは、miRによるAKIの診断および治療・予防法を研究、開発しました。
■miRを用いた検査方法
miRとは、タンパク質に翻訳されない短いRNAのことで、その情報は遺伝子(DNA)の中にコードされています。現在、miRは2,000種類以上同定されており、血中にも存在しています。このmiRの中から、AKI早期から発現変化する特定のmiRの発現量を検査することで、AKIの診断が可能となりました。miRは、採血による検査が可能なため、尿量の減ってしまった腎障害患者にも効果的な検査方法と言えます。
森下らは、2,000種類以上あるmiRの中から、AKI患者の血液中で特異的に発現が低下するmiR(miR-5100)の発見に成功しました。これにより、患者の血液でmiR-5100の発現量を検査することでAKIの早期診断が可能になる可能性があります。
■miRのAKI治療・予防薬としての可能性
一つのmiRNAには、多くのメッセンジャーRNA(平均200種類)に結合し、標的とするメッセンジャーRNAのタンパク質への翻訳を抑制する作用があります。つまり、miRが結合して発現を調節しているメッセンジャーRNAを解析し、疾患への関与を研究、コントロールすることができれば、多様な疾患の治療につながることが期待されています。
森下らは、人工合成したmiR-5100と非ウイルスベクターの複合体を、AKIモデルマウスに投与することで、腎臓で複数のアポトーシス経路を抑制することで、AKIの治療・予防効果があることを明らかにしました。
■今後の展開
miR-5100 の有用性は、AKIの検査や治療・予防薬としての活用が見込まれる世界初の報告となります。既に、国内、国外ともに特許出願済みです。miRは、人工合成可能で、工場での量産が見込まれています。森下らは、ベンチャー企業と提携し、実用化に向けて研究開発を進めています。今後の展開として、検査薬や治療・予防薬としての実用化、量産化に向けて開発を進めていくとのことです。
■掲載論文
タイトル:MicroRNA expression profiling in acute kidney injury
掲載誌:Translational Research
掲載日:2021 Dec 4
著者:Akinori Aomatsu, Shohei Kaneko, Katsunori Yanai, Hiroki Ishii, Kiyonori Ito, Keiji Hirai, Susumu Ookawara, Yasuma Kobayashi, Masamitsu Sanui, Yoshiyuki Morishita.
DOI:10.1016/j.trsl.2021.11.010
■自治医科大学附属さいたま医療センター腎臓内科について
当科では腎臓病を調節するmiRの役割解明と実用化についても精力的に研究を進めています。また臨床では腎臓病分野の疾患を幅広く診療しています。特に診療連携に力を注ぎ、周辺の医療機関と緊密な連携を取りながら、腎臓病診療の基幹病院としての役割を果たしています。
■本件および腎臓障害に関する研究のお問い合わせ
教授:森下義幸
自治医科大学総合医学第1講座(腎臓内科)
自治医科大学附属さいたま医療センター腎臓内科
住所:〒330-8503 埼玉県さいたま市大宮区天沼町1-847
TEL: 048 (647) 2111
e-mail: ymori@jichi.ac.jp
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