プレスリリース
-必要なのは食品添加物の塩カルと重曹-
スズキeco株式会社(所在:東京都文京区、代表取締役社長 鈴木泰弘)は、商品開発アドバイザーを務める東京大学大学院理学系研究科の鈴木庸平准教授の研究グループが火星生命体の不活化を目指し開発された技術(関連文献参照)を利用し、ISO/IEC17025(注1)認定試験所の一般財団法人 日本繊維製品品質技術センター神戸試験センター(神戸市中央区)において、新型コロナウィルスへの不活化試験(注2)を行いました。その結果、塩カル(注3)を25%溶かした水に新型コロナを30分漬けることにより、99.6%の新型コロナウィルスを不活化する効果を明らかにしました。また、塩化カルを1%溶かした水に重曹(注4)を1%で添加すると、生成する炭酸カルシウム(注5)の結晶粒が新型コロナウィルスを取り込み、90%の新型コロナウィルスを溶液から除去する効果も明らかにしました。炭酸カルシウムの結晶粒に取り込まれた新型コロナウィルスは、飛散しやすいエアロゾル(注6)の大きさから、炭酸カルシウムの結晶粒に取り込まれることで、飛散しづらい状態になるため、感染防止の効果が期待されます。
■試験法の概要
試験では、新型コロナウィルス(severe acute respiratory syndrome coronavirus 2: SARS-CoV-2)のNIID分離株JPN/TY/WK-521(国立感染症研究所より分与)を、宿主細胞(注7)VeroE6/TMPRSS2JCRB1819で増殖させました。新型コロナウィルスの増殖後に、宿主細胞から分離回収し、純度99%以上の塩カルと重曹の試薬を用いて不活化試験を行いました(図1)。新型コロナを30分間反応させた後、宿主細胞の増殖に影響がない濃度まで希釈し、ウイルスに感染した細胞が変性することを利用したウイルス量の測定方法であるプラーク法で、試験水1ml当たりのプラーク形成単位(PFU:Plaque Formation Unit)を測定しました。
[画像1: https://prtimes.jp/i/95843/2/resize/d95843-2-4e4f0d603400fd52221f-1.png ]
■試験結果
25%塩カルを添加した溶液と添加しない溶液で新型コロナウィルスを30分反応させた結果、25%塩カルを添加しない溶液で、新型コロナウィルスは溶液1ml当たり500万PFUであったのに対し、25%塩カルを添加しない溶液で、新型コロナウィルスは溶液1ml当たり2万PFUに減少しました(図2上)。この結果により、25%塩カルを含む溶液の不活化効率は、99.6%であると判明しました。1%の塩化カルと重曹を添加した溶液と、1%の塩化カルと重曹を添加しない溶液で新型コロナウィルスを30分間反応させた結果、それぞれ溶液1ml 当たり5万8千PFUと58万PFUとなりました(図2下)。1%の塩化カルと重曹を添加した溶液では、炭酸カルシウムの結晶粒子が生成することで、生成した炭酸カルシウムの結晶粒子に新型ウィルスが取り込まれることで、90%の新型コロナウィルスが溶液から除去されました。
[画像2: https://prtimes.jp/i/95843/2/resize/d95843-2-b1b68fe9e039c424a168-2.png ]
■幅広い病原体への適用性
新型コロナへの試験に先立ち、感染症研究のモデル生物として重点的に研究されている大腸菌(学名:Escherichia coli)と、細菌にのみ感染するウィルスであるバクテリオファージT4に対して、50%塩カル溶液で不活化効果について試験が行われました(関連文献参照)。その試験で、50%塩カル溶液の不活化効果が実証されています。また、塩カルを含む水溶液に重曹を添加することで、炭酸カルシウムの結晶粒に大腸菌が取り込まれる効果も確認されています。大腸菌はグラム陰性(注8)の細菌で細胞が二重の膜に包まれます。バクテリオファージT4は、エンベロープタイプ(注9)の新型コロナウィルスと異なるノンエンベロープタイプで、食中毒を起こすことで知られるノロウィルスと同じタイプです。ノロウィルスで知られるノンエンベロープタイプは、新型コロナウィルスで知られるエンベロープタイプより、エタノールによる不活化に対する耐性が強いとされ、本研究で試験された方法は、新型コロナウィルスのみならず、さまざまな細菌やウィルスの不活化効果が期待されます。
■安全で安価な代替技術
塩カルは食品添加物として溶液濃度が1%までならば、摂取しても人体に影響がないことが知られています。本試験では使用濃度が25%と高いですが、消毒液として利用した後、水で薄めれば安全に処分できます。重曹の主成分は炭酸で安全な物質です。塩カルは融雪剤として用いられるため、屋外で大量に散布をしても、環境負荷が小さいことが知られています。塩化カルはアルコールや次亜塩素酸水等の消毒液と比べると価格が安く、ほぼ同等の不活化効果を有します。新型コロナウィルスの除去についても、安全な濃度の塩カル溶液と重曹にウィルスを反応させれば、飛散しやすいエアロゾルの大きさの新型コロナウィルスを、飛散しづらい炭酸カルシウムの結晶に取り込ませ、感染防止の効果が期待されます。
■今後の展開
新たな科学的な原理に基づく本技術は、国内特許出願済みです。国内の感染防止対策のみならず、発展途上国の経済的な理由で消毒液を購入できない人々の感染症防止と共に、畜産や養殖の感染対策へ応用することも可能です。今後、他の企業とも連携して実用化を進めていきます。
関連文献
- Mariko Kouduka, Yuri Sueoka, Yohey Suzuki (2020) Planetary Protection, Mars Soil Sample Return, and the Inactivation of Martian Microorganisms. Journal of Astrobiology and Space Science Research. DOI: 10.37720/jassr.07202020
プレスリリース : https://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/press/2020/6955/
用語解説
注1 ISO/IEC17025
国際標準化機構 (ISO) によって策定された、試験所及び校正機関が正確な測定/校正結果を生み出す能力があるかどうかを認定する国際標準規格。ISO/IEC 17025を取得した試験所及び校正機関で得られた結果は、信頼性があり、組織が作成・発行する「試験成績書」や「校正証明書」が世界に通用することを意味する。
注2 不活化試験
不活化とは、微生物やウィルス等の病原体の感染性を失わせることで、不活化試験とは、不活化効果を測定する試験。
注3 塩カル
塩化カルシウムの略称として塩カルと呼ばれ、除湿剤、融雪剤、豆腐用凝固剤、食品添加物などに使用される。水に溶けると発熱し、弱アルカリ性になる。
注4 重曹
炭酸水素ナトリウムの一般名称。無臭の白色粉末で、弱アルカリ性。重曹は農作物や人畜及び水産動植物に害を及ぼす恐れがないものとして安全性が認められており、食品添加物(ベーキングパウダー)、洗剤や入浴剤の原料として、医薬品から日用品まで広く使われている。
注5 炭酸カルシウム
真珠や珊瑚の骨格の材料で、石灰岩の主成分。
注6エアロゾル
空気中に漂う微細な粒子を指す。エアロゾル感染において、くしゃみや咳、つばなどによって出された飛沫の水分が蒸発してウィルスだけが残る飛沫核をエアロゾルとし、このエアロゾルは、3時間程度は感染性を有して空気中を浮遊し続けることが報告されている。
注7 宿主細胞
ウィルスは、細菌と異なり、自分でタンパク質を合成することができないことから、増殖するために感染する細胞のこと。
注8 グラム陰性
細胞周りが二重の膜で覆われている細菌の総称で、グラム陽性は一重の膜と細胞壁で覆われている細菌の総称。
注9 エンベロープタイプ
スパイクというトゲ状の突起をもつエンベロープによりヒトに感染するが、このエンベロープが壊されると感染力を失う。エンベロープは胃酸に弱いので腸までは届きづらい。一方、エンベロープを持たないタイプのノロウィルスは、酸にも強く腸内に到達して食中毒などを起こす。
■本件に関するお問い合わせ
スズキeco株式会社
住所:〒112-0011 東京都文京区千石1-24-16
e-mail: toudaiyoheylab@gmail.com
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