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公益財団法人 佐々木研究所

スキルス胃がんの新たな治療標的分子を同定

(PR TIMES) 2021年12月10日(金)19時15分配信 PR TIMES

がん細胞と線維芽細胞との接着阻害マウスモデルで腹膜播種の抑制に成功

公益財団法人佐々木研究所附属佐々木研究所の山口英樹副所長を中心とした研究グループは、スキルス胃がん細胞とがん関連線維芽細胞(CAF: Cancer-associated fibroblast)の接着に重要な分子としてインテグリンα5を同定し、マウスモデルにてその阻害抗体の投与を行うことにより、スキルス胃がんの腹膜播種が抑制されることを明らかにしました。本研究は国立がん研究センター、東京大学、大阪市立大学、東京薬科大学、北里大学の研究グループとの共同研究で、文部科学省科学研究費補助金などの助成のもとに行われました。本研究成果は2021年11月12日に国際科学雑誌Cancer Lettersにオンライン掲載されました。
【背景】
スキルス胃がんは胃壁内を急速に浸潤して広がるため、毎年X線や内視鏡での検査を受けていても早期発見が難しく、しかも腹膜播種(注1)という、治療の障害になるような転移を起こします。そのため5年生存率は約10-15%と低い難治がんの一種です。また20〜40代といった若年層にも発症するという特徴があります。スキルス胃がん組織では、がん関連線維芽細胞(CAF: Cancer-associated fibroblast)(注2)と呼ばれる細胞が異常に増殖し、強い線維化が起こることが知られています。CAFはスキルス胃がん細胞と直接接着して、浸潤や腹膜播種を促進することが判っていましたが、その詳細なメカニズムは不明でした。

【研究成果】
本研究では、まずスキルス胃がん細胞とCAFの接着に着目し、その接着を阻害するモノクローナル抗体を作製しました。阻害抗体のターゲットとなる抗原分子を調べたところ、インテグリン(注3)α5であることが判明しました。このインテグリンα5は、通常の胃がんに比べスキルス胃がんで高発現していることも明らかになりました。インテグリンα5はスキルス胃がん細胞上でインテグリンβ1との間でヘテロダイマーを形成してCAF上に存在するフィブロネクチンに結合、両細胞間の接着を担うことが確認されました(図1)。さらにスキルス胃がん細胞のインテグリンα5のノックアウト、あるいは阻害抗体の投与により、実際にスキルス胃がん細胞の浸潤能やマウス移植モデルにおける腹膜播種が抑制されました(図2)。

【参考図】
[画像1: https://prtimes.jp/i/91743/1/resize/d91743-1-775c08e3bbffbf538dd9-0.png ]



図1:スキルス胃がん細胞とがん関連線維芽細胞(CAF)の接着
スキルス胃がん細胞のインテグリンα5はインテグリンβ1とヘテロダイマーを形成し、CAFが発現するフィブロネクチンに結合する。これにより両細胞が接着してスキルス胃がんの浸潤や腹膜播種が促進される。インテグリンα5の阻害抗体はスキルス胃がんの浸潤や腹膜播種を抑制したことから、抗体医薬として有用である可能性が示された。


[画像2: https://prtimes.jp/i/91743/1/resize/d91743-1-d3d97cdb4d2f42a8664c-2.jpg ]

図2:インテグリンα5阻害抗体の投与によるスキルス胃がん腹膜播種の抑制
免疫不全マウスにヒトスキルス胃がん細胞を腹腔内移植し、コントロールあるいはインテグリンα5阻害抗体を投与した。グラフはマウスあたりの腸間膜腫瘍の数を示す。阻害抗体を投与したマウスでは腸間膜への腹膜播種が有意に抑制された。発表論文より許可を得て改変し転載。


【研究成果の意義】
スキルス胃がんにはこれまで有効な分子標的治療薬がなく、腹膜播種をおこした場合には生存率がさらに低くなります。これに対し本研究の成果は、スキルス胃がんの腹膜播種に対する分子標的治療法の開発に大きく貢献すると考えられます。


【今後の展望】
本研究で作製した阻害モノクローナル抗体は、スキルス胃がんに対する抗体医薬の開発につながる可能性があります。今後はさらに詳細に治療効果や副作用などを検討していく必要があります。


【論文情報】
論文タイトル Integrin α5 mediates cancer cell-fibroblast adhesion and peritoneal dissemination of diffuse-type gastric carcinoma
著者 Shingo Miyamoto, Yoshiko Nagano, Makoto Miyazaki, Yuko Nagamura, Kazuki Sasaki, Takeshi Kawamura, Kazuyoshi Yanagihara, Toshio Imai, Rieko Ohki, Masakazu Yashiro, Masato Tanaka, Ryuichi Sakai, and Hideki Yamaguchi
掲載誌 Cancer Letters (Impact factor=8.679)
DOI 10.1016/j.canlet.2021.11.008
掲載URL https://authors.elsevier.com/a/1e51p15DNFfI2-


【用語解説】
注1:腹膜播種
がん細胞が腹腔内で種を播くように腹膜に接着して広がっていく転移様式
注2:がん関連線維芽細胞(CAF: Cancer-associated fibroblast)
がん細胞周囲の間質を構成する線維芽細胞。がんの悪性化に寄与する。
注3:インテグリン
細胞接着タンパク質の1つ。αとβのサブユニットからなるヘテロダイマーとして働く。細胞外基質の受容体であり、細胞と細胞外基質の接着を担う。αとβは多数存在するため、様々な組み合わせのヘテロダイマーをつくる。



プレスリリース提供:PR TIMES

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