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プレスリリース
世界初、耳を塞がないのに周囲の騒音を低減できるオープンイヤー型ヘッドホン用広帯域ノイズキャンセリング技術 〜街中の雑踏やモビリティ内でも、耳を塞がずクリアな音が聞こえる快適なリスニング体験を実現〜
発表のポイント:
騒音下でもオープンイヤー型ヘッドホンの音がクリアに聞こえるよう、100〜3,000 Hzまでの広帯域の騒音を低減できる能動騒音制御 ANC(Active Noise Control)技術を確立
広帯域の騒音抑圧の実現に必要なANCシステムの遅延削減手法として、音響的遅延を減らすヘッドホン本体のマイクとスピーカーに関する設計、および周波数帯域ごとの機械的遅延を削減するためのスピーカー設計およびソフトウェア処理を新たに開発
耳の負担が少ないオープンイヤー型ヘッドホンにおいて、騒音の大きな環境下でも快適なリスニング体験を実現
日本電信電話株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:島田 明、以下「NTT」)は、
耳を塞がないオープンイヤー型ヘッドホンにおいて、周囲の騒音を耳元で低減するANC技術を確立しました。本技術では、オープンイヤー型ヘッドホン向けの実用的なノイズキャンセリング技術として、広帯域の騒音抑圧を実現するためにヘッドホン本体のマイクとスピーカーの設計、およびソフトウェア処理を新たに開発しました。本技術により、周囲の音を自然に感じながらも、騒音を低減することでオープンイヤー型ヘッドホンからの再生音がクリアに聞こえるようになります。また、ヘッドホンから聴こえるバーチャルの音と直接耳で聴くリアルの音を融合させて聴く音響XR技術(※1)の利用範囲が拡大することが期待されます。本技術を利用したオープンイヤー型ヘッドホンは2024年11月25日〜29日に開催されるNTT R&D FORUM 2024 ―IOWN INTEGRAL(※2)に展示予定です。
1.背景
NTTは、「聴きたい音」が周りに漏れずに自分だけに聴こえ、「聴きたくない音」はカットする究極のプライベート音空間、PSZ(Personalized Sound Zone)技術の確立を目指し、耳を塞がず利用者にしか聴こえない再生を実現するオープンイヤー型ヘッドホンの設計技術の開発に取り組んで参りました(※3)。このオープンイヤー型ヘッドホンは、周囲の音を自然に聴くことが可能であるとともに、音漏れを防ぐ設計であるため、公共の場やオフィスなどの共用空間でも使用することができます。さらに、耳が疲れにくく長時間の着用が可能です。また、これらの特徴に着目し、オープンイヤー型ヘッドホンから聴こえるバーチャルの音と直接耳で聴くリアルの音を融合させて聴く音響XR技術を提唱し、研究開発や実証実験を行っています(※1)。
これまでのオープンイヤー型ヘッドホンでは、ノイズキャンセリング機能は存在しても1,000Hz以下の音しか低減することができませんでした。そのため人間の耳が最も敏感に感じる3,000 Hz 付近の音は低減することができず、周囲の騒音が大きいと音量を上げて使用する機会も増えるため、難聴になるリスクがありました。そこで、今回、オープンイヤー型ヘッドホンにおいて1,000Hz以上の音も低減できる能動騒音制御(ANC: Active Noise Control)技術を確立しました。
2.技術的な課題
ヘッドホンで使われている騒音を低減する技術としては、能動騒音制御(ANC)と受動騒音制御(PNC: Passive Noise Control)の2つの方法があります。ANCはヘッドホンに内蔵された参照マイクで騒音を集音し、耳元で騒音が消えているかを判断する誤差マイクを用いて、騒音の逆位相信号を生成し、ヘッドホンから再生することで騒音を相殺します。特に、1,000 Hz以下の低周波を中心に減少させることができます。一方、PNCは、ヘッドホン自体の物理的な構造で耳を塞いで騒音を遮断します。特に、1,000 Hz以上の高周波を中心に減少させることができます。すでに広く一般に普及しているANCを搭載した密閉型ヘッドホンでは、ANCとPNCを組み合わせることで効果的な騒音の低減を実現しています。
しかし、オープンイヤー型ヘッドホンは耳を塞ぐ構造がないため、高周波の騒音が耳にそのまま到達します。また、人間の聴覚特性としては 3,000 Hz 付近が敏感に聞こえるため、オープンイヤー型ヘッドホンにおいて聴感上で効果的な騒音の低減を実現するには、ANC技術で 1,000 Hz 以上の高周波の消音が必要となります。
[画像1]https://digitalpr.jp/simg/2341/98955/650_372_2024111316510867345a6c69165.png
3.技術ポイント
ANC技術を用いて1,000 Hz以上の騒音を低減するには、ANCシステムは参照マイクで集音した騒音から、騒音の逆位相信号が誤差マイク位置に到達するまでの処理を極低遅延(サブミリ秒単位)で実行する必要があります。特にヘッドホンの場合は、参照マイクや誤差マイク、打ち消し音を再生するスピーカーがヘッドホン本体に内蔵されているため、それらの距離は数cm程度となります。従って、ANCシステムは非常に高速な処理が求められるため、ANCシステムの遅延をできる限り小さくする必要があります。そこで、ANCシステムにおいて、
@音響的遅延
A機械的遅延
の2つの遅延要素を減らす技術を開発しました。@音響的遅延とは、音が発生源から目標位置に到達するまでの時間差です。音は空気中を約340メートル毎秒の速度で伝わりますが、この速度は光や電気信号と比べると非常に遅いです。従って、騒音の発生元と参照マイク、また、ヘッドホンに内蔵されたスピーカーユニットと誤差マイクが近くなるようにマイクを配置する新たな設計を確立し、音響的遅延を小さくしました。また、A機械的遅延とは、機器やヘッドホン内部の機械的な部品が動作する際に生じる遅れです。例えば、ヘッドホンに内蔵されているスピーカーユニットの振動板は、電気信号を受け取ってから実際に音を発生するまでの間には物理的な時間がかかります。そして、この遅延はスピーカーユニットの設計によって周波数帯域ごとに変わります。そこで本技術では、新たなハードウェア設計とソフトウェア処理により、周波数帯域ごとの機械的遅延を削減しました。ハードウェア設計では、スピーカーの位置と特性を新たに設計し、ソフトウェア処理では低遅延低演算量のフィルタ設計を行いました。さらに本技術は、音漏れを防ぐオープンイヤー型ヘッドホンの設計技術(※3)と組み合わせることで、消音信号を周囲に漏らさず、利用者の周囲で騒音が増えることを防いでいます。
@音響的遅延とA機械的遅延を削減した本技術によって、オープンイヤー型ヘッドホンにおけるANCの広帯域化を世界で初めて実現しました。飛行機内の騒音を用いて本技術を評価したところ、3,000 Hz付近まで低減することを確認しました。具体的には 1,000〜3,000 Hz で最大 13.7 dB,平均 7.8dB の騒音抑圧を実現しています。
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4.今後の展開
今後、本技術を搭載したオープンイヤー型ヘッドホンの実用化を目指し、さらなる騒音低減の広帯域化および様々な実環境での検証を進めていきます。また、ヘッドホンから聴こえるバーチャルの音と、直接耳で聴くリアルの音を融合させて聴く音響XR技術と本技術を統合した没入型エンターテインメントや音声ガイドのような新しい音響体験を、NTTグループ各社を通じてサービス展開していきます。
【用語解説】
※1.「超歌舞伎 Powered by NTT」にて超歌舞伎の新しい空間音響演出にチャレンジ 〜舞台のリアルな音と耳元の効果音がクロスオーバーする空間音響演出を実現〜
URL:https://group.ntt/jp/newsrelease/2023/04/29/230429b.html
※2.「NTT R&D FORUM 2024 ―IOWN INTEGRAL」 公式サイト https://www.rd.ntt/forum/2024/
[画像5]https://digitalpr.jp/simg/2341/98955/400_277_2024111316513967345a8bae1a0.png
※3.耳を塞ぐことなく利用者にしか聞こえないイヤホンの設計技術を開発
〜利用者に音を届けながら周囲への音漏れを打ち消す音波制御を単一スピーカーで実現〜
https://group.ntt/jp/newsrelease/2022/11/09/221109a.html