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【甲南大学/中部大学】ヒトの頭をつくる組織の「元」をホヤで発見!脊椎動物における頭部の進化の謎解明に期待 ― 研究成果が英国科学雑誌Natureに掲載

(Digital PR Platform) 2024年10月24日(木)14時05分配信 Digital PR Platform



甲南大学理工学部の日下部岳広教授と中部大学先端研究センターの大沼耕平博士研究員は、米国の大学との国際共同研究によって、脊椎動物の発達した頭部の進化のカギを握る組織である「神経堤」が、脊椎動物に近い生物であるホヤに存在することを明らかにしました。脊椎動物以外の生物では、脊椎動物にみられる神経堤が発見されていなかったため、私たちの頭部がどのように進化してきたのか、大きな謎でした。今後、体のつくりが単純なホヤを神経堤研究のモデル生物として用いることで、神経堤に特有の性質と進化の謎の解明が期待されます。なお、本研究成果は、Natureオンライン版に2024年10月24日(木)に掲載されました。




【研究成果のポイント】
・ヒトを含む脊椎動物の「頭部」の進化解明の手がかりとなる発見
・進化のカギを握る神経堤*の起源がホヤとヒトの共通祖先までさかのぼれることを証明
・さまざまな組織に分化する神経堤細胞の性質の解明から、再生医療やがん研究の進展に期待


1.背景
 私たち人間を含む脊椎動物(背骨をもつ動物)は、高度に発達した脳と鼻、目、耳などの感覚器と発達した顎(あご)を備えた頭部をもっています。人間のさまざまな活動は、脳とこれらの感覚器と顎に大きく依存しています。このような頭部は脊椎動物に特有なもので、頭の骨や顎、感覚器、下垂体、脳神経節など頭部の重要な部品の多くは、神経堤とプラコード*とよばれる胚の組織からつくられます。神経堤とプラコードはどちらも、脳を含む神経と表皮の境界領域に生じます(図1)。神経堤とプラコードを獲得することで、脊椎動物が進化したといわれています。
 海産動物ホヤは脊椎動物にもっとも近縁な生物です。ホヤの幼生はオタマジャクシのような姿で、体のつくりが脊椎動物とよく似ています(図2)。脊椎動物以外には神経堤やプラコードが存在しないと言われていましたが、2015年に日下部教授とMichael Levine教授(プリンストン大学)の国際共同研究グループは、ホヤに原始的なプラコードが存在することを明らかにし、Natureに発表しました(参考文献1)。一方、神経堤に関しては、2012年にLevine教授のグループがホヤの特定の細胞(a9.49細胞)が原始神経堤であるとする説を発表(参考文献2)しましたが、その後、多くの異論がNatureなどで発表され、学術的に注目を集めていました。


2.研究成果
 今回、日下部教授とLevine教授、大沼研究員、セントルイス大学のLaurence Lemaire博士らは国際共同研究によって、体ができる過程で、胚の個々の細胞でどのような遺伝子がはたらき、どのような細胞に分化するかを詳しく解析し、ホヤ胚のa9.49細胞が、神経堤の性質をもつ、つまり原始神経堤であることを明らかにしました(図3)。この知見は、2012年に発表された説の新たなエビデンスであり、a9.49細胞こそが原始神経堤であることが改めて示されました。
 ホヤはヒトを含む脊椎動物と同じ脊索動物*であることから、脊椎動物とホヤの共通の祖先には原始的な神経堤が存在したと考えられます(図4)。ホヤの神経堤は、脊椎動物の神経堤と同じように、脳と表皮の境界部につくられます。このときにはたらく遺伝子のしくみも、生じる細胞の種類も脊椎動物とホヤで共通であることが分かりました。ホヤの神経堤からはメラニン色素細胞*とグリア細胞*が生じ、さらにこのグリア細胞は、変態後に脳をつくる神経前駆細胞*になることが分かりました(図3)。また、ホヤの原始的な神経堤細胞は、神経堤細胞の特徴である移動する性質も持ち合わせていました。


3.今後の期待
 近年、ホヤは体をつくる遺伝子のはたらきや神経のしくみを調べるモデル生物として注目されています。本研究により、これまで以上にホヤが脊椎動物に近い生物であることが分かりました。神経堤細胞は、さまざまな組織に分化する多能性幹細胞*の性質をもつため、再生医療やがん研究の分野でも注目されています。体のつくりが単純なホヤは、発生のしくみや遺伝子のはたらきを調べることが容易であり、神経堤に固有の性質を研究するモデル生物としてホヤを用い、研究が進展することが期待されます。

4.論文情報
・論文タイトル:Neural crest lineage in the proto-vertebrate model Ciona
・著者:Lauren G. Todorov(共同筆頭著者), Kouhei Oonuma(共同筆頭著者), Takehiro G. Kusakabe(共同責任著者), Michael S. Levine(共同責任著者), and Laurence A. Lemaire(共同責任著者)
 https://doi.org/10.1038/s41586-024-08111-7


5.参考文献
 1)Abitua et al. (2015) Nature 524(7566), 462-465. DOI: 10.1038/nature14657
 2)Abitua et al. (2012) Nature 492(7427), 104-107. DOI: 10.1038/nature11589

6.用語説明
*1 神経堤(しんけいてい)
 脊椎動物の初期発生の過程で、中枢神経系の原基(神経板)と将来の表皮の境界につくられる盛り上がった構造。神経堤から生じる神経堤細胞は、ばらばらになって体内を遊走し、神経細胞(ニューロン)、グリア細胞、内分泌細胞、間充織、頭部骨格系、色素細胞などに分化する。



*2 プラコード
 脊椎動物の胚の脳原基(前部神経板)を取り囲む領域に形成される肥厚した構造。プラコードから、頭部の感覚器官、脳神経節、脳下垂体が形成される。進化の過程で、神経堤とプラコードが現れたことが脊椎動物の出現につながったと考えられている。

*3 脊索(せきさく)動物
 脊椎動物とホヤ類、ナメクジウオ類は、一生の少なくとも一時期に、脊索とよばれる中軸構造をもち、互いに近縁であり、脊索動物という同じグループに分類される。脊椎動物の脊索はその後、背骨に置き換わる。ナメクジウオ類は脊索を一生保持するのに対し、ホヤ類は幼生のみが脊索をもち、変態して成体になると消失する。

*4 メラニン色素細胞
 メラニン色素を産生する細胞。メラニン細胞、メラノサイトともいう。皮膚のメラニン色素は紫外線から肌を守る役割をもつ。皮膚以外にも、網膜、内耳、髄膜、骨、心臓などにも存在する。脊椎動物のメラニン色素細胞は、神経堤細胞が胚発生の過程で全身に移動して分化したものである。

*5 グリア細胞
 脳・神経系のなかでニューロンの隙間を埋めるニューロン以外の細胞をグリア細胞とよぶ。グリア細胞には、上衣細胞、アストロサイト、放射状グリア細胞、オリゴデンドロサイト、ミクログリアなど、多くの種類があり、さまざまな形で脳・神経系の活動に関わっている。

*6 神経前駆細胞
 ニューロンやグリア細胞に分化できる多能性幹細胞を神経前駆細胞とよぶ。神経前駆細胞は胚の中枢神経系と末梢神経系に存在し、一部は神経堤から生じる。一部のグリア細胞(上衣細胞や放射状グリア細胞)は、神経前駆細胞としてさらにニューロンやグリア細胞を生み出すはたらきをもつ。

*7 多能性幹細胞
 多種の細胞に分化する能力を多能性といい、多能性を維持したまま、自己複製することができる細胞を多能性幹細胞という。万能細胞として知られるES細胞やiPS細胞も多能性幹細胞である。

7.研究助成
 本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業・基盤研究(B)(19H03213, 23H02492, 23K27185;研究代表者 日下部岳広)、同・若手研究(19K16150;研究代表者 大沼耕平)、同・基盤研究(C)(23K05786;研究代表者 大沼耕平)、および甲南学園平生太郎基金科学研究奨励助成金(研究代表者 日下部岳広)の補助を受けて実施されました。


【図について】
図1.脊椎動物胚の神経堤とプラコードが生じる場所
 神経堤とプラコードは、目や脳、手足ができる前の初期胚の、将来、中枢神経(脳+脊髄)になる組織(神経板)と表皮になる部分の境界領域から生じる。


図2.ホヤのオタマジャクシ型幼生


図3.ホヤ胚のa9.49細胞の発生運命の追跡実験
(a)ホヤ胚の神経板をKaedeという蛍光タンパク質で標識し、左右のa9.49細胞(*)に405nmレーザー光を照射してKaedeの蛍光を緑から赤に変換した(光変換)。(b)光変換後幼生まで発生させたところ、光変換されたa9.49細胞の子孫はメラニン色素細胞とグリア細胞に分化した。(c)同様の方法でa9.49細胞由来グリア細胞を変態後の幼若体まで追跡した(幼若体の脳の拡大図)。a9.49細胞の子孫の一部は成体脳の神経前駆細胞になる。


図4.本研究成果に基づく神経堤の起源と脊椎動物の頭部の進化の新しい考え

▼本件に関する問い合わせ先
甲南学園広報部
住所:兵庫県神戸市東灘区岡本8-9-1
TEL:078-435-2314
FAX:078-435-2546
メール:kouhou@adm.konan-u.ac.jp


【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/

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