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"種とは何か"の分子基盤の解明へ--利己的DNAによる「異種ゲノム間闘争」 --北里大学

(Digital PR Platform) 2024年09月24日(火)14時05分配信 Digital PR Platform



北里大学大学院理学研究科の須田皓介 大学院生(博士後期課程/研究当時)、伊藤道彦 准教授らの研究グループは、異種交配によって生じたツメガエルのゲノム解析を行い、“片親種サブゲノムのDNA欠失”と“DNAトランスポゾン活性化”に正の相関を発見した。異種ゲノム同居細胞内における「異種ゲノム間闘争」が、生殖的隔離により多様化した利己的DNA(トランスポゾン)を介して起きたことが推測され、有性生殖における「種の違い」とは、利己的DNAとその防御システムの差異であるという仮説が考えられる。この研究成果は、2024年9月21日付でGenome Biology and Evolutionに掲載された。




■研究成果のポイント
・ツメガエル近縁2種(L種、S種)の約1800万年前の異種交配において、DNA欠失が2種サブゲノム共に交配後まもなく大規模に起きた。その際、L種に比べS種のサブゲノムでより多い遺伝子欠失が起きた。
・染色体逆位が、交配後まもなく、L種に比べS種のサブゲノムでより多く起きた。
・Sサブゲノムに偏ったDNA欠失とDNAトランスポゾンの活性化の正の相関が、交配後の短期間において認められた。


■研究の背景
 約1800万年前、アフリカの地で、二倍体のツメガエル近縁2種(L種、S種)は異種交配し、2種の異なるゲノムを併せもつ異質四倍体種が誕生した。現存する異質四倍体のアフリカツメガエルのゲノム解析から、S種サブゲノムの偏ったDNA欠失や遺伝子欠失が認められた (Session et al. Nature 2016)。しかし、なぜ、どのように、偏ったサブゲノム進化が起こったのか、全く謎のままであった。
 研究グループは、その謎の解明を大きな目的として研究を行っている。最近、利己的DNAの中のDNAトランスポゾンが、異種交配を介して活性化したことを発見した(Suda et al. Front Genet 2022)。そこで、本研究では、トランスポゾンを介した「異種ゲノム間闘争」の存在を想定し、ゲノム比較解析からこの謎の解明を試みた。


■研究内容と成果
 二倍体ネッタイツメガエル、L/Sサブゲノムをもつ異質四倍体のアフリカツメガエルとキタアフリカツメガエルの3種のゲノムを用いて、主に、オーソログ、ホメオログ、遺伝子間領域、トランスポゾンという観点から、ゲノム間およびサブゲノム間の比較解析を行い、以下のことが明らかになった。
(1) ツメガエル属のカエルでは、タンパク質コード型オーソログ遺伝子が約1万5千個必要と想定された。アフリカツメガエルのゲノムでは、これら約1万5千個のオーソログ遺伝子を保持する淘汰圧の中、LおよびSサブゲノムでランダム性の遺伝子欠失が起き、現在に至った。
(2) アフリカツメガエルとキタアフリカツメガエルの祖先は、1800-1700万年前に種分岐したと想定されている(Session et al. Nature 2016)。これを踏まえると、2種の異質四倍体ツメガエルの共通祖先において(すなわち異種交配後短期間で)、LおよびSサブゲノム共に、大規模なDNA欠失が起きたことがわかった。この短期間における遺伝子欠失数は、Sサブゲノムで4-6千、Lサブゲノムでは1-2千と想定された。
(3) 2種の異質四倍体ツメガエルの共通祖先において(すなわち異種交配後短期間で)、大規模な染色体逆位がL種に比べS種のサブゲノムでより多く起きた。
(4) 異種交配後の短期間において、トランスポゾン各種サブファミリーの活性化とDNA欠失との相関関係を調べたところ、DNA型のトランスポゾンにのみ、L/Sサブゲノム間に明確なパターン差異が認められた。SサブゲノムではDNA欠失と正の相関を示すサブファミリーが多いのに対し、Lサブゲノムでは負の相関を示すものが多かった。すなわち、Sサブゲノム内のDNAトランスポゾンの活性化が、SサブゲノムのDNA欠失に関わると考えられた。
 これらの結果と現在までの知見に基づき、以下に「ツメガエル異種交配後の非対称サブゲノム進化モデル【図1】」を提案する。ツメガエル二倍体の祖先から3400万年ほど前に集団分化した2集団は、生殖的隔離により、それぞれの集団でトランスポゾンが進化・多様化(→本研究から、この多様化が種分化の分子基盤と提案)した。約1800万年前にL種とS種は異種交配し、異質四倍体ツメガエルが誕生した。異種ゲノム混在の生殖系列細胞では、@自己・非自己ゲノム認識(認識はトランスポゾン-piRNAと想定)システムによる「異種ゲノム闘争」がおき、ASサブゲノムに偏ったDNAトランスポゾンの脱抑制(活性化)を介し、B二重鎖切断の頻発、これによる CDNA欠失や逆位の頻発が起きた。


■今後の展開
 本研究における考察は、生殖的隔離により種特異的に多様化したトランスポゾン闘争を介した「異種間ゲノム闘争」という概念の提案、さらに「有性生殖における種の分子基盤は生殖的隔離によるトランスポゾンの進化・多様化とその防御システムの共進化にある」という生命進化の根源的な進化仮説の提唱を研究グループに導いた。今後、この概念と仮説の分子的検証を、現存する雑種のヨーロッパトノサマガエル(コガタガエルとワライガエルの異種交配種:体細胞では2種のゲノムをもつが、生殖細胞ではコガタガエルゲノムが排除)で行う予定である。現在、親2種のゲノム解析とそれらのトランスポゾン対応piRNAの解析から、上記の概念と仮説の分子的検証を試みている。

■論文情報
掲載誌:Genome Biology and Evolution
論文名:Correlation between subgenome-biased DNA loss and DNA transposon activation following hybridization in the allotetraploid Xenopus frogs
(異質四倍体ツメガエルの異種交配後のサブゲノム偏向DNA欠失とDNAトランスポゾン活性化との相関)
著 者:Kosuke Suda, Takahiro Suzuki, Shun Hayashi, Honoka Okuyama, Daisuke Tsukamoto,
Takuya Matsuo, Kei Tamura, Michihiko Ito
DOI:10.1093/gbe/evae179

本研究は、大隅基礎科学創成財団の第6期基礎科学研究助成、JSPS科研費 (18K06389)の助成を受けたものです。


■用語解説
※1 トランスポゾン(転移因子)
ゲノム上の位置を転移することのできるDNA断片。断片がゲノムに直接転移するDNA型と、転写(RNA)後に逆転写(DNA)され転移するRNA型(レトロトランスポゾン)が存在する。
※2 利己的DNA
自己DNAの複製あるいは転移などを介してゲノム内に存在あるいは伝播するDNA。ホストの生物に有用な機能をもたない。ほとんどのトランスポゾンやジャンクDNAに相当する。
※3 異種交配
近縁種間での交雑。脊椎動物の祖先の2回目の全ゲノム重複では異種交配を介していると考えられ、種の誕生や体制進化にも関わる。ツメガエル属では、約1800万年前に異種交配が起こり、L種とS種由来のゲノムからなる異質四倍体が形成された【図1】。異種交配由来種は現在、アフリカ各地に10数種生息している。
※4 異種ゲノム間闘争(本研究から創出された造語)
異種のゲノム間の自己・非自己認識により、自身のゲノム残存のために異種ゲノム間で競合する現象を指す。


■問い合わせ先
【研究に関すること】
 北里大学理学部生物科学科
 准教授 伊藤道彦
 e-mail:ito@sci.kitasato-u.ac.jp

【報道に関すること】
 学校法人北里研究所 総務部広報課
 TEL:03-5791-6422
 e-mail:kohoh@kitasato-u.ac.jp


【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/

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