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内視鏡止血後の食道静脈瘤破裂患者における予防的抗菌薬投与の有効性は確認できず

(Digital PR Platform) 2024年01月26日(金)14時00分配信 Digital PR Platform

―国際的な治療ガイドラインの見直しの必要性を報告―


 横浜市立大学大学院データサイエンス研究科ヘルスデータサイエンス専攻 市田親正医師(博士前期課程2年、湘南鎌倉総合病院 消化器病センター 部長)、清水沙友里講師(同専攻)、後藤匡啓客員講師(TXP Medical株式会社)らの研究グループは、徳洲会メディカルデータベースを用い、内視鏡止血を行った食道静脈瘤破裂患者に対する予防的抗菌薬投与の有効性を検証しました。これは、同種の研究としては過去最大規模で行われ、その結果、予防的抗菌薬投与の明確な有効性は認められませんでした。
 本研究成果は、査読付き英文雑誌「World Journal of Gastroenterology」に掲載されました。(2024年1月21日オンライン公開)


研究成果のポイント

内視鏡止血後の食道静脈瘤破裂患者への予防的抗菌薬投与は、近年のエビデンスが不足しているにも関わらず世界中で広く行われています。
多剤耐性菌の増加を背景に、不必要な抗菌薬の使用は避けるべきであり、これに関する明確なエビデンスの構築が急務となっています。
本研究により、内視鏡止血を行った食道静脈瘤破裂患者への予防的抗菌薬投与の有効性は確認できなかったことが示され、世界的な診療ガイドラインの見直しが必要であることが明らかになりました。







[画像1]https://user.pr-automation.jp/simg/1706/82300/400_247_2024012512252365b1d4a30adc6.jpg

図1 検証結果

(各アウトカムにおいて予防的抗菌薬投与の優位性は確認できませんでした。)






研究背景
 食道静脈瘤破裂は肝硬変を背景に持つ重篤な消化管出血の一つです。現在、欧米の診療ガイドラインでは、内視鏡的止血術を行う際の予防的抗菌薬投与が、感染症、再出血、死亡率の低下につながるとして、全ての患者への投与が高いエビデンスレベルで推奨されています。しかし、これらのガイドラインは1990年から2000年初頭の比較的古いランダム化比較試験に基づいており、現代医療の進歩を反映していない可能性があります。特に、肝硬変治療や内視鏡止血デバイス・技術の進展、多剤耐性菌の問題を考慮すると、予防的抗菌薬投与の有効性ついては再検討が必要です。日本の診療ガイドラインでは、食道静脈瘤破裂患者への予防的抗菌薬投与に対する明確な推奨はされておらず、意見が分かれています。この状況を背景に、本研究では救急診療に注力する徳洲会のデータベースを用いて、近年の医療環境における予防的抗菌薬投与の有効性を検証しました。


研究内容
 徳洲会メディカルデータベース*1を用い、46施設、13年間のデータから、食道静脈瘤破裂に対して内視鏡止血術を行った980人の患者データを抽出しました。徳洲会メディカルデータベースは診断群分類(Diagnosis Procedure Combination, DPC)データによる患者基礎情報、採血結果・バイタルサインに加え、電子カルテに遡ることで更に詳細なデータが得ることが可能なデータベースです。重篤な患者(例えば、人工呼吸器を使用している患者)や、明らかに抗菌薬投与が必要な感染症が疑われる患者(バイタルサイン・血液培養取得情報に基づく)は、この分析から適切に除外されました。抗菌薬投与が行われた群(予防投与群)と行われなかった群(非予防投与群)に分け、6週間の死亡、4週間の特発性細菌性腹膜炎*2、4週間の再出血と、これらの3つの複合アウトカムを比較しました。この比較のため、患者の共変量に関する欠測値は多重代入法*3を用いて補完され、その後、逆確率重み付け法*4を用いてアウトカムの分析が行われました。その結果、予防投与群の優位性は確認できませんでした(図1)。









今後の展開
 本研究は、欧米の診療ガイドラインにおける予防的抗菌薬投与の推奨について再考を促します。特に、肝硬変治療や内視鏡止血技術の進歩を踏まえた現代の医療環境において、これらのガイドラインの適切性についてはさらなる検証が必要であると考えられます。今後は、ランダム化比較試験を含む、世界各国でのより包括的な研究が期待されます。


論文情報
タイトル: Effectiveness of antibiotic prophylaxis for acute esophageal variceal bleeding in patients with band ligation: A large observational study
著者: Chikamasa Ichita1,2, Sayuri Shimizu2, Tadahiro Goto2,3,4, Uojima Haruki1,5, Naoya Itoh6, Masao Iwagami7, Akiko Sasaki1
掲載雑誌:World Journal of Gastroenterology
DOI:https://dx.doi.org/10.3748/wjg.v30.i3.238

1.市田親正、魚嶋晴紀、佐々木亜希子:湘南鎌倉総合病院 消化器病センター
2.市田親正、清水沙友里、後藤匡啓:横浜市立大学 データサイエンス研究科
      ヘルスデータサイエンス専攻                 
3.後藤匡啓:TXP Medical株式会社
4.後藤匡啓:東京大学大学院 医学研究科公共健康医学専攻臨床疫学経済学講座
5.魚嶋晴紀:国立研究開発法人国立国際医療研究センター 肝炎・免疫研究センター
6.伊東直哉:愛知県がんセンター 感染症内科部
7.岩上将夫:筑波大学 医学医療系



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用語説明
*1 徳洲会メディカルデータベース:全国70病院を有する日本最大の私立病院グループである徳洲会が有する医療データベース。
*2 特発性細菌性腹膜炎:肝硬変患者に伴う重篤な腹膜炎。
*3 多重代入法:データの欠損部分を推測して補う統計的手法で、より正確なデータ解析を可能にする。
*4 逆確率重み付け法:観察研究で処置群と非処置群の間のバイアスを減らすために、各参加者に重みを割り当てる手法。





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