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【中部大学】心筋細胞内サルコメアのカオス的振動はカルシウム変動が引き起こす---「S4C」の特定とその生理学的重要性を解明---

(Digital PR Platform) 2024年01月16日(火)14時05分配信 Digital PR Platform



中部大学 生命健康科学部 生命医科学科の新谷正嶺(しんたに・せいね)講師は、横紋筋(心筋・骨格筋)の最小収縮ユニットであるサルコメア(図1)の自律振動がカルシウム濃度の変動によって混沌としたカオス*3的不安定性を示すことを発見した。新谷講師は、カルシウム濃度変動の有無によってこの特性が現れるか否かが決まることを明らかにし、このサルコメアの不安定性を、S4C (Sarcomere Chaos with Changes in Calcium Concentration)と命名した。





1.発表のポイント 
■温めた心筋細胞を構成するサルコメア*1(筋肉の基本単位)がカルシウム濃度の変化により不安定な振動を示す現象「S4C」を新たに発見。

■心筋細胞の興奮収縮連関*2における収縮したサルコメアの弛緩過程でもS4Cを確認。

■S4Cは、心臓の拡張期における心室筋の迅速かつ柔軟な弛緩を支える重要な機能として、心疾患治療における新たな治療アプローチの開発に寄与する可能性がある。




2.発表概要
〜カルシウム濃度の変化によって生じるサルコメアのカオス的特性(S4C)を発見〜
中部大学 生命健康科学部 生命医科学科の新谷正嶺(しんたに・せいね)講師は、横紋筋(心筋・骨格筋)の最小収縮ユニットであるサルコメア(図1)の自律振動がカルシウム濃度の変動によって混沌としたカオス*3的不安定性を示すことを発見した。新谷講師は、カルシウム濃度変動の有無によってこの特性が現れるか否かが決まることを明らかにし、このサルコメアの不安定性を、S4C (Sarcomere Chaos with Changes in Calcium Concentration)と命名した。

新谷講師は以前、心筋細胞を深部体温程度に温めると細胞内のサルコメアが収縮と弛緩を繰り返す振動状態になることを発見し、熱筋節振動(HSOs: Hyperthermal Sarcomeric Oscillations) *4と命名した。そして、HSOsの振動特性を詳細に研究し、サルコメアの振動振幅や位相がカオス的に変化する現象を確認していた。この研究では、初代培養ラット心筋細胞を用いて、カルシウム濃度が一定の場合と変動する場合でのHSOsの波動特性を比較した(図2)。その結果、カルシウム濃度の変動がサルコメアの振動振幅や位相のカオス的な不安定性を引き起こす要因であることが明らかになり、この現象を「S4C」と命名した。

特筆すべきは、カルシウム濃度の変動が影響するHSOsにおいて、S4Cは振動の振幅や速度をカオス的に変化させる一方で、一定の周期を保持していた(図2)。また、カルシウム濃度の変動に応答してサルコメアの振動波形が変化する様子も観察された(図2)。すなわち、カルシウム濃度の変化という生体リズムが、自律的に振動するサルコメア集団に作用することで、「カルシウム濃度変化への鋭敏な応答をしつつ周期を一定に保つ恒常性を生み出す」という「生き物らしい特性」が創出されることが明らかになった。


〜心筋細胞の自発拍動においても速やかな弛緩を行う際にS4C的特性が顕在化〜
さらに、HSOsを引き起こす前の、自発的に拍動する心筋細胞でも、S4C的特性が顕在化することが明らかになった(図2)。心筋細胞の自発拍動は、膜電位変化による興奮収縮連関として知られている。この過程では、細胞内のカルシウム濃度が周期的に上昇し、サルコメアを収縮させる。本研究では、特に収縮期後の弛緩過程について深い洞察が得られた。弛緩期において、サルコメアの振動振幅にばらつきを見せるカオス的不安定性が観察され、HSOs時の不安定性と同様に、リアプノフ指数が正であることも確認された。つまり、類似した挙動でも、挙動の差が指数関数的に拡大する性質が見られた。

サルコメアは、収縮と弛緩の中間状態で一定の張力がかかると、自律的に収縮と弛緩を繰り返す振動状態に入る。上述のHSOsも、温度上昇によってこの自律振動特性を顕在化させた現象である。心筋細胞の自発拍動における弛緩期初期では、細胞内カルシウム濃度が高く、多くのサルコメアが縮んだ状態にある中で、初期に弛緩するサルコメアにおいてこの自律振動特性が顕在化すると考えられる。そして、この時、カルシウム濃度も変動している。そのため、興奮収縮連関の弛緩期におけるS4Cは、HSOs時のS4Cと共通性が非常に高いと考えられる。実際、振動振幅の変動やリアプノフ指数の大きさも同等で、明確な区別は見られなかった。

〜S4Cの生理学的重要性〜
心臓の拍動では、拡張期(心臓が弛緩し血液で満たされる段階)において、心筋は迅速かつ柔軟に弛緩する必要がある。この過程で、カルシウム濃度がまだ高い状態でのサルコメアの速やかな弛緩には、HSOsなどの自律的なサルコメア振動特性が関与している可能性が示唆されている。この時、カルシウム濃度は変動しており、S4Cが生じている可能性が高い。S4Cの理解は、心臓の動態と機能、さらには心臓の障害に関する新たな洞察をもたらす可能性がある。カルシウム濃度の変化に応答するS4Cの特性は、心臓がさまざまな条件に迅速に適応する能力に重要な役割を果たしていると考えられる。S4Cの発見は、心臓のリズム維持と変化への適応メカニズムについての新しい理解を提供し、心臓病治療法の開発に貢献することが期待される。

本研究は日本学術振興会科学研究費などの助成を受けて実施した。研究成果は1月12日、生化学と生物物理学に関する国際学術誌Biophysics and Physicobiology(電子版)に早期公開版が掲載された。

3.論文の情報
雑誌名:Biophysics and Physicobiology
論文タイトル:Observation of sarcomere chaos induced by changes in calcium concentration in cardiomyocytes
著者:Seine A. Shintani
DOI: 10.2142/biophysico.bppb-v21.0006
URL: https://doi.org/10.2142/biophysico.bppb-v21.0006

4.お問い合わせ先
【研究内容について】
中部大学 生命健康科学部 生命医科学科 講師 新谷正嶺
電子メール shintani@isc.chubu.ac.jp
電話 0568-51-9180

5.用語解説
*1 サルコメア(筋節)
 筋肉の中で収縮機能を起こす最小単位。カルシウムイオン(Ca2+)の存在下で、筋原線維を構成する主要たんぱく質の一つであるミオシンがアデノシン三リン酸(ATP)をエネルギー源としてアクチンをたぐり寄せるように引き込み、筋肉を収縮させる。カルシウムイオン濃度が低下すると、アクチンはミオシンに結合できなくなり、筋が弛緩する。

*2 興奮収縮連関
 心筋細胞の興奮が収縮に変換される過程を指す。電気信号が心筋細胞を刺激し、カルシウムイオンの流入を促進する。このカルシウムの増加が筋収縮を引き起こす。培養心筋の自発拍動も膜電位変化を引き金としたこの興奮収縮連関である。心臓においては、洞房結節のペースメーカー細胞群からの電気信号によって心筋細胞が周期的に興奮し、その結果、定期的な拍動として現れる。このメカニズムは、心筋の動きを理解する上で不可欠であり、心疾患の研究や治療法開発においても重要な役割を果たす。

*3 カオス
 物理学やその他の科学分野で、外見上は無秩序や予測不可能な振る舞いを示す現象を指す。しかし、この「無秩序」は完全なランダムさとは異なる。カオスの特徴は、その基本単位が特定の力学的関係や法則に従っているにもかかわらず、全体として見ると複雑で予測が困難な振る舞いを示すことである。カオスは、元々「混沌」という意味を持ち、秩序のない原初的な状態を指していたが、現代科学においてはより具体的な現象を指すようになった。

*4 熱筋節振動 (HSOs: Hyperthermal Sarcomeric Oscillations)
 外力やカルシウム濃度変化などの振動が無いにも関わらず、サルコメアが自ら収縮と弛緩を繰り返す振動状態になるとき、この振動を自励的収縮振動と呼ぶ。心筋細胞を温めることで、温めている間だけ可逆的に、心筋細胞内のサルコメアが自励的収縮振動となる。この温めることで生じるサルコメアの自励的収縮振動を熱筋節振動と呼ぶ。
 生きた心筋細胞は、自ら細胞内カルシウム濃度を周期的に変化させる。熱筋節振動は、このカルシウム濃度変動があっても無くても発生する。細胞自らが生み出すカルシウム濃度変化がある場合、サルコメアは、カルシウム濃度変化に応答して振動波形を変化させつつ、熱筋節振動も持続させ、その周期を一定に保つ。この性質を収縮リズム恒常性と呼ぶ。
「説明してください」と言われると意外に応えられない用語です。用語解説に加えました。



▼本件に関する問い合わせ先
中部大学 学園広報部広報課
TEL:0568-51-7638
メール:cuinfo@office.chubu.ac.jp


【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/

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