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プレスリリース
【東京医科大学】母親の飲酒や糖尿病に胎内暴露された児の運動学習障害を末梢血を用いて予測する新たな手法を発見〜機械学習を用いた末梢血単核球の選択的スプライシングによる運動学習障害の予測〜
東京医科大学(学長:林由起子/東京都新宿区)糖尿病・代謝・内分泌内科学分野の佐々木順子 助教、菅井啓自 臨床研究医、李国 研究員、鈴木亮 主任教授、小田原雅人 兼任教授、産科婦人科学分野の佐々木徹 講師らは、米国Children's National Medical Center Center for Neuroscience Research Dipankar J. Dutta博士、Masaaki Torii博士、Kazue Hashimoto-Torii博士らとの研究で『機械学習を用いた末梢血単核細胞の選択的スプライシングによる運動学習障害を予測する新たな手法』を発見しました。
【概要】
東京医科大学(学長:林由起子/東京都新宿区)糖尿病・代謝・内分泌内科学分野の佐々木順子 助教、菅井啓自 臨床研究医、李国 研究員、鈴木亮 主任教授、小田原雅人 兼任教授、産科婦人科学分野の佐々木徹 講師らは、米国Children's National Medical Center Center for Neuroscience Research Dipankar J. Dutta博士、Masaaki Torii博士、Kazue Hashimoto-Torii博士らとの研究で『機械学習を用いた末梢血単核細胞の選択的スプライシングによる運動学習障害を予測する新たな手法』を発見しました。
母親の飲酒や糖尿病などの出生前ストレス因子に暴露されて生まれた児では神経発達障害の危険が増すことが知られています。しかし、この神経発達障害の重症度を早期に正確に予測することは現状困難であり、早期発見・早期介入の実現に向け、影響を受けやすい児を早期かつ正確に同定できる生物学的バイオマーカーと手法の開発が急務となっています。本研究では、機械学習モデルを用いて、出生前ストレス因子に暴露されて生まれた若いマウスの末梢血単核球(PBMC)における特定の主要なメッセンジャーRNA(mRNA)のスプライシングの差異から、そのマウスが運動学習障害を示すかどうかを正確に予測できることを示しました。この手法は種々の不利な条件下の妊娠においても応用可能で、疾病の早期発見・早期介入への一助となると考えています。
本研究は、2020年6月に第80回American Diabetes Association (ADA:米国糖尿病学会) Scientific Sessionsでも発表され、研究成果は2023年12月5日(米国東部標準時)にPNAS (IF = 11.1) に掲載されました。
【本研究のポイント】
●出生前アルコール暴露モデルマウスの仔(PAE)と出生前糖尿病暴露モデルマウス(OMD)における運動発達の障害を確認した。
●PAEとOMDとで共有するPBMCのmRNAでの選択的スプライシングイベント(AS)を同定した。
●共有するASを用いて運動発達障害を正確に予測することができた。
【研究の背景】
母親の妊娠中の飲酒や糖尿病など、出生前ストレス因子に暴露されて生まれた児の神経行動障害をもたらすことが知られていますが、障害の重症度は暴露期間や暴露量と必ずしも相関しないことが知られています。児の神経行動障害への早期診断、早期介入のためには障害を正確に同定・予測できる生物学的バイオマーカーや手法の解明が必要とされていますが、未解明の状態です。そこで、我々は軽微な侵襲で採取可能なPBMCを用いてこれらの解明を目的として本研究を立案しました。
【本研究で得られた結果・知見】
CD-1マウスに薬剤を投与し、出生前アルコール暴露モデルマウス(PAE)および出生前糖尿病暴露モデルマウス(OMD)を作成しました。これらのモデルマウスは、青年期に相当する30日齢で加速する回転棒装置(ローターロッド)を用いて運動学習能を評価されました。運動学習能評価後に末梢血サンプルからリンパ球(T細胞、B細胞、単球)を蛍光活性化セルソーティング(FACS)にて抽出し、RNAseqを行い、図2Aに示した5種の選択的スプライシングイベント(AS)についてrMAT(replicate multivariate analysis of transcript splicing)を用いて有意なものを同定しました。PAEとOMDで共有する有意なASはT細胞で13個、B細胞で16個、単球で1個確認されました(図2B-D)。ディープラーニングモデルであるLong Short-Term Memory(LSTM)を用いて、PBMCのRNA配列データを解析し、PAEとOMDにおける運動学習障害の正確な予測因子として、PAEとOMDで共有する29個の主要遺伝子におけるASを同定しました。また、Shapley-value分析を用いて、適切に訓練されたLSTMモデルを解釈し、運動学習障害の予測に対する29個のバイオマーカーの相対的な寄与を裏付けました。
ASは初期脳発達の重要なドライバーです。PBMCにおけるASが発達中の脳の同じ遺伝子に同様の影響を与え、脳の初期発達に直接影響を与える可能性があります。Gene Ontology解析において神経発達への影響が報告されているIL-17シグナル伝達経路におけるエンリッチメントを認めており、本研究で同定されたAS事象は、認知の発達と機能に寄与している可能性が高く、その破綻がアルコール、糖尿病やその他の出生前ストレス因子に暴露した小児の認知機能障害の根底にある可能性が示されました。
【今後の研究展開および波及効果】
本検討で使用したPBMCのmRNAにおけるASによる機械学習モデルを用いた運動発達障害程度の予測は、その他の様々な不利な条件下で誕生した児の疾病発症予測のテンプレートとなりうると考えられます。他条件下での検証のみならず、今後は運動発達以外でも予測可能かどうかの検証、さらにはヒトサンプルを用いた検討を予定しています。
【掲載誌名・DOI】
掲載誌名:Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America (PNAS)
DOI:10.1073/pnas.2304074120.
【論文タイトル】
Alternative splicing events as peripheral biomarkers for motor learning deficit caused by adverse prenatal environments.
【著者】
Dipankar J. Dutta 1*, Junko Sasaki 1,2*, Ankush Bansal 1, Keiji Sugai 1,2, Satoshi Yamashita 1, Guojiao Li 2, Christopher Lazarski 3, Wang Li 1, Toru Sasaki 4, Chiho Yamashita 1, Heather Carryl 1, Ryo Suzuki 2, Masato Odawara 2, Yuka Imamura Kawasawa 5, Pasko Rakic 6†, Masaaki Torii 1,7†, Kazue Hashimoto-Torii 1,7†
(*:共同筆頭著者、†:共同責任著者)
1 Center for Neuroscience Research, Children's National Hospital, Washington, DC 20010, USA.
2 Department of Diabetes, Endocrinology and Metabolism, Tokyo Medical University, Tokyo 160-8402, Japan.
3 Center for Cancer and Immunology Research, Children's National Hospital, Washington, DC 20010, USA.
4 Department of Obstetrics and Gynecology, Tokyo Medical University, Tokyo 160-8402, Japan.
5 Department of Biochemistry and Molecular Biology, Pennsylvania State University College of Medicine, Hershey, PA 17033, USA.
6 Kavli Institute for Neuroscience, Yale School of Medicine, New Haven, CT 06520, USA.
7 Department of Pediatrics, Pharmacology and Physiology, George Washington University, Washington, DC 20010, USA.
【主な競争的研究資金】
・ National Institute of Health (NIH), National Institute on Alcohol Abuse and Alcoholism (NIAAA) grant R01AA026272
・ Collaborative Initiative on Fetal Alcohol Spectrum Disorders (CIFASD) grant UH2AA026106
・ National Institute on Drug Abuse (NIDA) DA023999
・ 日本学術振興会 科学研究費 19K240390
・ Scott-Gentle Foundation grant
・ District of Columbia Intellectual and Developmental Disabilities Research Center (DC-IDDRC) Award U54HD090257 by NICHD
▼本件に関する問い合わせ先
企画部 広報・社会連携推進室
住所:〒160-8402 東京都新宿区新宿6-1-1
TEL:03-3351-6141
メール:d-koho@tokyo-med.ac.jp
【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/