• トップ
  • リリース
  • 酪酸菌とヒトはケトン体を介して共生関係にある〜大腸管腔内のケトン体濃度が高いことを発見、仮説を提唱〜東京工科大学応用生物学部

プレスリリース

  • 記事画像1
  • 記事画像2
  • 記事画像3
  • 記事画像4

酪酸菌とヒトはケトン体を介して共生関係にある〜大腸管腔内のケトン体濃度が高いことを発見、仮説を提唱〜東京工科大学応用生物学部

(Digital PR Platform) 2023年12月05日(火)14時05分配信 Digital PR Platform



東京工科大学(東京都八王子市、学長:香川豊)応用生物学部の佐藤拓己教授と神戸大学大学院科学技術イノベーション研究科の佐々木建吾・特命准教授(研究当時、現:(株)バイオパレット主席研究員)は、大腸管腔内におけるケトン体濃度の分析などをもとに、ヒトの腸内におけるケトン体(注1)の存在には特別な意味があることを提唱しました。




 同研究グループは、メタボロームのデータ(文献1)を解析し、ヒト大腸管腔中のケトン体濃度は血液中と比較して有意に高いことを見出しました。また佐々木氏は、試験管内で培養したヒトの腸内細菌にケトン体を添加すると酪酸(注2)の産生が増加することを発見(論文1)しており、これはケトン体が大腸管腔内の環境を決定する因子の一つであることを示しています。これらをもとに、同研究グループは、ヒトと酪酸菌が密接な共生関係にあり、これがケトン体と酪酸を介して成立しているとする仮説「ケトン体−酪酸シャトル」(図1)を提唱しました。
 同論文は、医学界の重要かつ興味深い仮説を取りあげる雑誌「Medical Hypotheses」オンライン版(現地時間2023年11月23日)に掲載されました。


【研究背景】
 佐藤教授は、2017年よりケトン体の腸内細菌への生理作用について研究してきました(論文2)。健常人における大腸上皮細胞では、ケトン体の合成に関与する酵素であるHMGCS2(注3)が強く発現しているため、大腸管腔内のケトン体濃度が高く維持されています。これにより、エネルギー基質であるケトン体が酪酸菌の代謝を活性化し(論文1)、酪酸菌優位な腸内細菌叢を維持することでヒトの健康に貢献していると考えられます(図2)。健常人においては、大腸上皮細胞のHMGCS2の発現量を確保できれば、「ケトン体−酪酸シャトル」が機能し、「酪酸菌とヒトの共生関係」が成立すると推測されます。

【研究内容】
 同研究グループは、大腸管腔内においてケトン体が生理的な役割を持つと想定し、大腸がん患者のメタボロームのデータ(文献1)を用いて、大腸管腔内におけるケトン体濃度を解析しました。まず、健常人では血液中のケトン体濃度が0.1mM程度であるのに対して、大腸管腔ではその3〜4倍となる0.3mM程度であることを確認しました(図3)。一方、ステージ3以上の大腸がん患者では、がん組織内のHMGCS2が消失するため、ケトン体が不足すると考えられます。この応急処置として周囲の大腸上皮細胞が代償的にHMGCS2を強く発現させ、大量にケトン体をがん組織に供給するため、がん組織内のケトン体濃度が異常に増加すると考えられます(図4)。



【社会的・学術的なポイント】
 本論文で提唱した「ケトン体−酪酸シャトル」は、大腸管腔内の良好な環境を維持するのに極めて重要であり、アンチエイジングの中心的な課題になると考えられます。この共生関係は双方にとって利益が大きく、特にホモ・サピエンスが飢餓を生き残るために必要であるとともに、酪酸菌が大腸管腔内で生き延びるための一つの重要な手段であったと考えられます。ホモ・サピエンスは、20万年ほど前に出現して以来そのほとんどを飢餓にさらされてきました。飢餓の状態においてこそ、ホモ・サピエンスはケトン体の供与を増やすことによって酪酸菌を優先的に保護してきました。その見返りとして酪酸菌は酪酸を大量に大腸管腔内に供給し、氷河期をホモ・サピエンスと共に乗り越えてきたと考えられます。

【論文情報】
論文名:3-Hydroxybutyrate could serve as a principal energy substrate for human microbiota
掲載誌:Medical Hypotheses 2023 in press
掲載URL:
https://doi.org/10.1016/j.mehy.2023.111217

【用語解説】
(注1) ケトン体:脂質から合成される。糖質由来のぶどう糖と共に主要なエネルギー基質。
(注2) 酪酸:腸内細菌が産生する短鎖脂肪酸の一種で、種々の健康効果が期待される。
(注3) HMGCS2:ケトン体の合成に関与する酵素。ケトン体が大腸がんを抑制し(文献2)、大腸がん組織においてはHMGCS2の発現が消失する。このため大腸がんとの関連が強く示唆されている。

【関連論文】
(論文1) Sasaki K, Sasaki D, Hannya A, Tsubota J, Kondo A. In vitro human colonic microbiota utilises D-β-hydroxybutyrate to increase butyrogenesis. Sci Rep. 2020 May 22;10(1):8516
(論文2) Satoh T. New prebiotics by ketone donation. Trends Endocrinol Metab. 2023 Jul;34(7):414-425.

【参考文献】
(文献1) Yachida S, et al. Metagenomic and metabolomic analyses reveal distinct stage-specific phenotypes of the gut microbiota in colorectal cancer. Nat Med. 2019 Jun;25(6):968-976
(文献2) Dmitrieva-Posocco O, et al. β-Hydroxybutyrate suppresses colorectal cancer.
Nature. 2022 May; 605(7908):160-165.

■東京工科大学応用生物学部 佐藤拓己(アンチエイジングフード)研究室
ミトコンドリアは人間の体内で細胞の生死を司るという決定的な役割を持っています。私たちの研究テーマは、活性酸素などに注目してミトコンドリアを活性化させる分子の機能を解き明かすことです。

[研究室ウェブサイトURL]
https://www.teu.ac.jp/info/lab/project/bio/dep.html?id=34



■応用生物学部WEB:
https://www.teu.ac.jp/gakubu/bionics/index.html



■本件に関するお問い合わせ先
片柳学園 コミュニケーション企画部
担当:大田 Tel 042-637-2109
E-mail ohta(at)stf.teu.ac.jp
※@は(at)に置き換えてください





【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/

このページの先頭へ戻る