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原発性アルドステロン症に対する薬物療法治療後の“レニン抑制解除”が良好な長期腎機能と関連

(Digital PR Platform) 2023年07月31日(月)10時00分配信 Digital PR Platform

 横浜市立大学のデータサイエンス研究科ヘルスデータサイエンス専攻の桂川翔さん(研究実施時)と後藤温教授の研究チームは、横浜労災病院内分泌・糖尿病センターとの共同研究により、二次性高血圧症*1の重要な原因疾患である原発性アルドステロン症において、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬による薬物療法開始後にレニン抑制*2が解除されていることがその後の良好な長期の腎機能と関連していることを初めて解明しました。本研究は、ガイドラインで推奨されている原発性アルドステロン症に対する薬物療法戦略の根拠となるエビデンスの強化につながることが期待されます。本研究成果は、査読付き英文雑誌「Hypertension」に掲載されました。本研究成果は、査読付き英文雑誌「Hypertension」に掲載されました。

研究成果のポイント

薬物療法を行う原発性アルドステロン症では、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬投与6ヶ月以降のレニン抑制が解除されているとその後の長期腎機能が良好であることが判明(図1)。






[画像1]https://user.pr-automation.jp/simg/1706/74410/500_472_2023072812272564c3359d7e18d.jpg

図1 薬物療法開始後、レニン抑制解除群とレニン抑制残存群のeGFR(推定糸球体濾過量)の変化を比較したグラフ




研究背景

原発性アルドステロン症は、副腎皮質ホルモンであるアルドステロンの過剰分泌・過剰作用状態を特徴とした内分泌疾患であり、二次性高血圧症の原因疾患として最も頻度が高いと言われています。同疾患は血圧が同程度の本態性高血圧症*3に比べ腎障害や心血管疾患を発症するリスクが高く、半数以上は薬物療法が行われます。

未治療の原発性アルドステロン症ではアルドステロン過剰作用を反映したレニン抑制の状態が見られ、それは血漿レニン活性(PRA: Plasma Renin Activity [ng/mL/h])というバイオマーカーを使って評価されます。一方、原発性アルドステロン症に対して、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬を投与するとアルドステロンの過剰作用が抑えられ、血圧が低下するとともに、レニン抑制の状態が改善することが知られています(PRA <1.0 mg/mL/hがレニン抑制状態、PRA ≥1.0 mg/mL/hがレニン抑制解除状態)。過去の研究により、治療後のPRAの値が1.0 mg/mL/h以上であると1.0 mg/mL/h未満に場合に比べて、心血管疾患発症リスクが低いことが報告されています。このため、日本内分泌学会の診療ガイドラインにおいては、薬物療法を行う際は十分量のミネラルコルチコイド受容体拮抗薬を投与してPRAを1.0 mg/mL/h以上に上昇させる、つまりレニン抑制を解除させることが推奨されています。しかし、薬物療法開始後のレニン抑制の程度(PRAの値)とその後の長期的な腎機能の関連については未だ不明であり、本研究ではその関連を検討しました。




研究内容
本研究では、2008年から2020年にかけて横浜労災病院の内分泌・糖尿病センターに入院した原発性アルドステロン症患者のうち、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬による薬物療法を開始した318名を解析しました。薬物療法を開始して半年以降に最初に測定されたPRA(post-PRAと定義)が 1.0 ng/ml/h以上であった人達をレニン抑制解除群、post-PRA が1.0 ng/ml/h未満の人達をレニン抑制残存群と定義しました。それらの2群間でpost-PRA測定後の推定糸球体濾過量(eGFR: estimated glomerular filtration rate [mL/min/1.73 m2])の低下速度を交絡因子で調整した線形混合効果モデルを用いて比較・推定しました。
解析対象者のうち、119人がレニン抑制解除群、199人がレニン抑制残存群に分類され、追跡期間は中央値で3.1年でした。レニン抑制解除群(post-PRA ≥1.0 ng/ml/h)ではeGFRが年間平均0.46 mL/min/1.73 m2低下、一方でレニン抑制残存群(post-PRA <1.0 ng/ml/h)では年間平均1.41 mL/min/1.73 m2低下し、レニン抑制解除群はレニン抑制残存群に比べeGFRの低下速度が年間で0.96 mL/min/1.73 m2遅い、という結果が得られました。つまり、レニン抑制残存群に比べ、レニン抑制解除群では腎機能がより良好に保たれていました(図1)。

今後の展開
本研究結果から、原発性アルドステロン症に対する薬物療法戦略において、十分量のミネラルコルチコイド受容体拮抗薬を投与してレニン抑制を解除することが腎機能保護の観点からも有用である可能性が示唆されました。これは現行の日本内分泌学会の診療ガイドラインで推奨されている薬物療法戦略を支持するものであり、推奨の根拠となるエビデンスを強化することができました。一方で、本研究は単一施設の後ろ向きの研究であるため、同分野のエビデンスをより確固たるものとするために、今後は多施設の前向き研究や本研究結果のメカニズムを解明するようなさらなる研究が必要です。

研究費
本研究は、科学研究費助成事業科研費(21K10500)の支援を受けて実施されました。

論文情報
タイトル: Association of Reversal of Renin Suppression With Long-Term Renal Outcome in Medically Treated Primary Aldosteronism
著者: Sho Katsuragawa, Atsushi Goto, Satoru Shinoda, Kosuke Inoue, Kazuki Nakai, Jun Saito, Tetsuo Nishikawa and Yuya Tsurutani
掲載雑誌: Hypertension
DOI:http://doi.org/10.1161/HYPERTENSIONAHA.123.21096

用語説明
*1 二次性高血圧症:ホルモンの過剰分泌や腎血管の狭窄など特定の原因によって引き起こされる高血圧症。二次性高血圧症の原因として最多の原発性アルドステロン症は、高血圧患者の5〜10%を占めると言われている。

*2 レニン抑制:レニンは体内の水分量調整に関わる重要なホルモンであり、脱水や低血圧の際に腎臓から分泌され、レニンはさらに副腎からのアルドステロン分泌を促進する。原発性アルドステロン症では、アルドステロンが副腎や副腎腫瘍から自律的に、レニンとは独立して過剰に分泌され、その結果、レニンの分泌は抑制され、それの状態をレニン抑制状態と言う。

*3 本態性高血圧症:加齢、肥満、生活習慣、遺伝素因など様々な要素が複合的に影響して引き起こされる一般的な高血圧症。高血圧症患者の多くは本態性高血圧症に分類される。




[画像2]https://user.pr-automation.jp/simg/1706/74410/400_88_2023072812273064c335a25e0a0.jpg














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