• トップ
  • リリース
  • 【兵庫県立大学・富山県立大学】セロトニン由来の内因性物質が新型コロナウイルス酵素メインプロテアーゼを阻害することを発見

プレスリリース

  • 記事画像1

【兵庫県立大学・富山県立大学】セロトニン由来の内因性物質が新型コロナウイルス酵素メインプロテアーゼを阻害することを発見

(Digital PR Platform) 2023年07月11日(火)14時05分配信 Digital PR Platform



兵庫県立大学環境人間学部(先端食科学研究センター兼務)の加藤陽二教授、金子一郎准教授、富山県立大学工学部の生城真一教授、西川美宇助教らの研究グループは、生理活性アミンの一つであるセロトニンに由来する内因性物質(キノン)が新型コロナウイルスの酵素メインプロテアーゼを阻害することを発見しました。コロナウイルスに対抗する物質が、もともと体の中に備わっている(内在する)ことを示唆する研究となります。




 兵庫県立大学環境人間学部(先端食科学研究センター兼務)の加藤陽二教授、金子一郎准教授、富山県立大学工学部の生城真一教授、西川美宇助教らの研究グループは、生理活性アミンの一つであるセロトニンに由来する内因性物質(キノン)が新型コロナウイルスの酵素メインプロテアーゼを阻害することを発見しました。コロナウイルスに対抗する物質が、もともと体の中に備わっている(内在する)ことを示唆する研究となります。
 新型コロナウイルス感染において、炎症を伴うことが知られています。炎症時には、生体内に存在するセロトニンの一部がキノンに変化します。本研究では、生体内に内在する物質が新型コロナウイルス感染防御に役立つと考えました。その結果、セロトニンに由来するキノンが、ウイルス複製に重要な働きを示すウイルス酵素メインプロテアーゼを強く阻害することを初めて発見し、その阻害機構を分子レベルで明らかにしました。さらに、新型コロナウイルス感染細胞モデルとして、ウイルス酵素メインプロテアーゼのみを発現させたヒト培養細胞を作製しました。実験する人に感染の恐れはない安全・安心な感染モデルです。その細胞にセロトニン由来キノンを作用させることで、セロトニン由来キノンが細胞内でウイルス酵素メインプロテアーゼに結合することも確認しました。
 その研究成果は、Free Radical Biology and Medicine誌(Impact Factor 8.1)に2023年6月28日にオンライン掲載されました。冊子体には9月に掲載予定です。


【本研究で得られた主な成果(ポイント)】
1.セロトニン及びその代謝物に由来する内因性成分「セロトニン由来キノン」がウイルス酵素メインプロテアーゼを強く阻害することを発見
2.セロトニン由来キノンが酵素メインプロテアーゼに結合する部位(酵素を阻害する仕組み)を解明
3.細胞内で発現している酵素メインプロテアーゼに対し、細胞外から作用させたセロトニン由来キノンが細胞内で結合していることを確認


【1.背景(コロナウイルス蔓延と予防・治療)】
 新型コロナウイルスは依然として世界中で蔓延しています。このウイルス感染(COVID-19)では、急性炎症を伴う例も多く報告されています。またウイルス感染による慢性炎症と後遺症の関係にも関心が集まっています。ウイルスに対しては、ワクチン、中和抗体薬による治療(抗体カクテル療法)が開発され、最近では治療薬(飲み薬)も登場しています。一方で、新型コロナウイルスよりも以前にSARSやMERSが発生していることからもわかるように、今後、新たなウイルスの発生も懸念されています。

【2.ウイルス酵素メインプロテアーゼとその阻害について】
 酵素メインプロテアーゼはチオール基(システイン残基)を活性部位に持つウイルス由来の酵素です。感染細胞内において、ウイルス遺伝子をもとにポリペプチドが合成されます。酵素メインプロテアーゼはそのポリペプチドを切断し、ウイルス複製に必要なタンパク質を作り出します。つまり、ウイルス複製に働く重要な酵素と言えます。コロナウイルスは変異が多いことで知られていますが、この酵素については活性部位近くの遺伝子変異が少ないとされ、当該酵素を標的とする(阻害する)治療薬は変異株にも対応でき、長く使えることが期待されています。実際に、ウイルス酵素メインプロテアーゼを標的とする(阻害する)治療薬として、パキロビッドパック(ファイザー)やゾコーバ(塩野義製薬)が利用されています。

【3.炎症に伴い生じる内因性成分セロトニンキノンとウイルス抑制について】
 治療薬(飲み薬)に加え、いくつかの食品成分にもウイルス酵素を阻害する働きが期待されています。しかしながら感染したウイルスに作用するには、経口から取り込んだ成分が体内の臓器・組織に到達する必要があります。しかしながら、腸における吸収の効率や、代謝による分解・構造変化など、感染細胞・組織にたどり着くまでには数多くのハードルがあります。一方、体内にはウイルス酵素を阻害しうる成分がもともと存在している可能性があります。その一つとして、たとえばビタミンKにウイルス酵素の阻害作用が期待されています。また、生体内で生理活性アミンとして働くセロトニンは炎症時に体内でセロトニン酸化物「キノン」に変化することは知られていますが、その働きはまだ充分にわかっていません。コロナウイルス感染に伴い、過度の炎症が生じることが知られています。体内に常時存在するセロトニンがウイルス感染時にキノンへと変換し、ウイルス酵素阻害を介して感染防御に役立っている可能性を考え、本研究を行いました。

【4.研究結果・成果】
 今回の研究では、まず、ウイルス酵素メインプロテアーゼ(組換え体)を用い、試験管内でセロトニン由来キノンによる酵素阻害について調べました。その結果、強い酵素阻害作用が示されました。この阻害とともに酵素にセロトニン由来キノンが結合していることを明らかにしました。更に、その結合部位を解析したところ、システイン(Cys)117、145及び156番目に結合していました。特にCys145は酵素活性部位に位置しており、その部位への結合は酵素の不活性化・阻害を誘導します。
 生体に近い状況でのウイルス酵素阻害作用を調べるために、ヒト培養細胞に酵素メインプロテアーゼ遺伝子の入ったプラスミドを組み込み、細胞内で酵素メインプロテアーゼを発現させることで、安全な感染細胞モデル(酵素メインプロテアーゼ過剰発現モデル)を作製しました。セロトニン由来キノンを細胞に作用させたところ、細胞内からキノンが結合したウイルス酵素メインプロテアーゼが取り出されました。セロトニン由来キノンによるウイルス酵素の結合・阻害は、感染細胞内でも充分に生じることが示唆されました。

【5.今後の展開・課題】
 本研究は、内因性物質がウイルス感染防御に寄与しうることを明らかにした新規性の高い研究となります。しかしながら、実際にウイルス感染した体内でも同様な現象(結合反応)が生じるか、その結合反応がウイルス感染防御に実際に役立つかについては未解明であり、更なる研究が必要です。

【6.用語解説】
・メインプロテアーゼ(Main protease, Mpro):ウイルスが遺伝情報として持つタンパク質分解酵素(プロテアーゼ)の一つ。3C-like Proteaseとも呼ばれる。メインプロテアーゼはウイルス遺伝情報から翻訳されたポリペプチドを切断してウイルス複製に必要なパーツを作成するために必須のウイルス酵素である。メインプロテアーゼの遺伝子配列は変異が少ないため、治療のための優れた標的と考えられる。ファイザーや塩野義製薬はメインプロテアーゼを標的とする飲み薬を開発し、治療に利用されている。
・酵素活性部位(触媒部位):酵素を構成するタンパク質の中で、酵素活性(触媒作用)を担う部位を示す。その修飾などは酵素活性に大きな影響を及ぼす。メインプロテアーゼは145番目のシステイン残基(C145)が活性部位に位置しており、酵素活性に必須の役割を担っている。
・セロトニン由来キノン:セロトニンは生理活性アミンの一つであり多彩な働きを示す。体内では5-ヒドロキシインドール酢酸(5HIAA)に代謝される。炎症関連酵素であるミエロペルオキシダーゼの働きにより、セロトニンはセロトニン由来キノンであるトリプタミンダイオン(TD)に変換される。また、セロトニンと同様に5HIAAもキノン化される。これらセロトニンに由来するキノンはチオール基(システイン残基)に対する化学反応性(結合活性)が極めて高い。

【7.支援】
 本研究の一部は、タカノ農芸化学研究財団の及び兵庫県立大学の支援を受けています。

【8.掲載論文の情報・著者】
・論文タイトル:Covalent adduction of serotonin-derived quinones to the SARS-CoV-2 main protease expressed in a cultured cell(参考訳:培養細胞に発現させた新型コロナウイルスのメインプロテアーゼに対してセロトニン由来キノンが共有結合する)
・著者:加藤陽二、坂西あさひ、松田 薫、服部磨依、金子一郎、西川美宇、生城真一
・掲載誌:Free Radical Biology and Medicine (Elsevier), Volume 206, September 2023, Pages 74-82, https://doi.org/10.1016/j.freeradbiomed.2023.06.018
・以下のリンクから無料で論文が閲覧できます(2023年8月18日まで):
 https://authors.elsevier.com/a/1hKoV3AkHAdt1x

著者所属(卒業生含む)
・兵庫県立大学環境人間学部(先端食科学研究センター兼務) 教授 加藤 陽二
・兵庫県立大学環境人間学部 学生 坂西 あさひ・松田 薫・服部 磨依
・兵庫県立大学環境人間学部(先端食科学研究センター兼務) 准教授 金子 一郎 
・富山県立大学工学部生物工学科 助教 西川 美宇
・富山県立大学工学部生物工学科 教授 生城 真一

【9.問い合わせ先】
[研究に関する問い合わせ]
 兵庫県立大学環境人間学部 教授 加藤 陽二(カトウ ヨウジ)
 yojikato(末尾に''@shse.u-hyogo.ac.jp''をつけてください)
 079-292-9413

 富山県立大学工学部生物工学科 教授 生城 真一(イクシロ シンイチ)
 ikushiro(末尾に''@pu-toyama.ac.jp''をつけてください)
 0766-56-7500(内線 1601)

[報道に関する問い合わせ]
 兵庫県立大学姫路環境人間キャンパス経営部総務課
 u_hyogo_kankyou(末尾に''@ofc.u-hyogo.ac.jp''をつけてください)
 079-292-1515

 富山県立大学事務局 教務課 情報研究係
 johokenkyu(末尾に''@pu-toyama.ac.jp''をつけてください)
 0766-56-7500(内線 1229)



【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/

このページの先頭へ戻る