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【あおぞら銀行】 BANK The Story
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◆アメリカ不動産の相続は大変!…やっておきたい事前準備
アメリカ不動産を所有されている方のすべてに起こりうる話、それは所有者が亡くなること、つまり相続です。今回は、アメリカ不動産の相続について考えていきましょう。
海外不動産に明るく、ニューヨーク州弁護士資格も保有する、中村法律事務所の代表弁護士、中村優紀先生が解説します。
●資産防衛のため、海外への資産分散を狙った社長だが…
ある60代の会社経営者の男性は、長年の堅実な経営のおかげで、それなりの額の資産を築くことができました。しかし、昨今の為替変動の状況を見て、「日本円の資産だけでは心配だ。ドル資産も持っておく必要がある」と考えるようになりました。
知り合いの経営者に相談したところ、「それならアメリカに不動産を持ってはどうか?」とアドバイスされました。くわしく話を聞いて納得した社長は早速、日系の仲介業者を紹介してもらい、アメリカ不動産を購入しました。
購入した不動産は、日系の不動産管理業者を通じて賃貸に出しましたが、円安のトレンドだったことから賃料は上昇傾向となり、かなりの収益を得ることができました。「アメリカ不動産を購入して、本当によかった!」と喜んでいたのです。
しかしその後、社長に異変が起こります。新型コロナウイルスに感染し、急遽入院することになったのです。数週間後には退院し、無事に回復しましたが、これをきっかけに、遺産相続について考えるようになりました。
社長の家族構成は、60代の妻と、いずれも30代の長男・長女の子ども2人です。子どもたちはそれぞれ結婚し、独立しています。
日本の不動産や預貯金の相続については、これから遺言書の作成等の対策に着手すればよく、心配に思うことはありませんでした。しかし問題は、最近購入したアメリカ不動産です。これをどうやって家族に承継させればいいのか、さっぱりわかりません。
社長は毎日、仕事を終えたあとにインターネットで調べてみましたが、慣れない英語に阻まれ、作業は進みません。ただひとつ明確にわかったのは、どうやら日本の相続とはかなり異なるようだ、ということでした。
●日本とアメリカ…相続制度は大きく違う!
中村先生は、相談に訪れた社長に下記のような説明をしました。
アメリカの相続は日本の相続と異なり、日本のように、相続人間の話し合いで自由に遺産を分配することができません。裁判所の監督のもと、遺産の確定、負債の弁済、相続人への分配がなされます。これを「プロベート」といい、英米法体系の国で広く採用されている相続手続きです。
このプロベートには、いくつか留意点があります。
まず、プロベートは裁判手続きであり、現地弁護士を起用するのが通常です。しかし、アメリカの弁護士の費用は決して安くありません。また、プロベートは時間がかかります。案件によっては2〜3年かかることもあります。
そして、このプロベートが続いている間、相続人は遺産を受け取ることはできません。相続人が遺産を使うことも、当然できません。もし日本にも遺産があり、日本で相続税が発生する場合でも、プロベートが続いている間はアメリカの遺産を納税に使うことはできないのです。
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●面倒な「プロベート」手続きを、事前に回避する方法
社長は、長男夫婦が子ども(社長の孫)の教育資金として役立てられるよう、アメリカ不動産を相続させたいと考えていました。しかし、万一いまの状態で自分が亡くなってしまうと、プロベートによって数年間もの間、不動産の売却金を承継させることができません。
その事実を知り愕然とした社長ですが、かといって、いますぐアメリカ不動産を売却するのもためらわれます。せっかくの賃料収入がなくなってしまいますし、このタイミングで売却すると、日本の確定申告では「短期譲渡所得」として、税率が高くなってしまうという事情もあったからでした。
実に大変なプロベートですが、これを回避する事前対策はいくつかあります。そのひとつが「死亡時譲渡証書(Transfer on death deed:TODD)」の手続きです。「自分が死亡した際にはこの者に所有権を譲渡する」ということを、事前に定めておくのです。
相談者の社長も、アメリカ不動産を所有しながら、万一の事態が生じたときにプロベートを回避して息子に相続させるため、TODD(死亡時譲渡証書)の手続きを行うことにしました。
息子を不動産の受取人(beneficiary)に指定し、万一、息子が自分より先に亡くなってしまったときのため、息子の子どもを第二次受取人(second beneficiary)に指定したのです。
この手続きによって、無事にアメリカ不動産の承継が可能になりました。社長は本業のビジネスや、事業承継の業務に集中でき、プライベートでは孫との時間を楽しめるようになりました。
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中村 優紀氏プロフィール
国際コンプライアンス案件を専門とする法律事務所で国際カルテル案件等を担当。その後はニューヨーク州弁護士資格を取得し、米国大手法律事務所のサンフランシスコオフィスに執務。中村法律事務所開設後は、日系企業のアメリカ進出の法的サポート、クロスボーダーM&A、海外現地法人設立、海外不動産トラブルの交渉、海外の債務者への債権回収、アメリカ大使館での証人尋問といった紛争案件の代理も務めるほか、個人の国際相続も専門的に取り扱う。
Words:弁護士・ニューヨーク州弁護士 中村 優紀(中村法律事務所)、幻冬舎ゴールドオンライン
Illustration:坂木 浩子(株式会社ぽるか)
取材日:2023年3月11日
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