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プレスリリース

子宮頸がんワクチン(HPVワクチン)接種後の副反応に関する基礎医学論文の科学的欠陥を明らかに ワクチンの正しい理解啓発へ

(Digital PR Platform) 2023年02月09日(木)14時05分配信 Digital PR Platform



近畿大学医学部(大阪府大阪狭山市)産科婦人科学教室主任教授 松村 謙臣と、微生物学教室主任教授 角田 郁生を中心とする研究チームは、子宮頸がんワクチン(HPVワクチン)に含まれる免疫を活性化させる成分「アジュバント」が、重篤な神経系の症状(副反応)を生じると主張する論文の根拠を詳細に検証し、それらのデータに欠陥があることを明らかにしました。この研究成果は、HPVワクチン接種後に生じた神経系の症状を、HPVワクチンの成分と関連付けていた根拠を否定し、HPVワクチンの安全性を正しく示すものです。




本件に関する論文が、令和5年(2023年)2月8日(水)23:00(日本時間)に、がんに関する国際的な学術誌''Cancer Science''にオンライン掲載されました。


【本件のポイント】
●子宮頸がんおよび神経免疫学の専門家チームが、子宮頸がんワクチンの副反応の根拠とされた基礎医学論文の科学的根拠の欠陥を明らかに
●HPVワクチンのアジュバントで重篤な神経系の症状(副反応)が生じる根拠を否定
●HPVワクチンの安全性を示し、正しい理解を啓発

【本件の背景】
子宮頸がんは、ヒトパピローマウイルス(HPV)の感染によりおこる病気で、日本においては年間3,000人が亡くなっていますが、発症を予防するための子宮頸がんワクチン(HPVワクチン)があり、その有効性と安全性は科学的に立証されています。
HPVワクチンの種類には、特に子宮頸がんの原因になりやすい2種類のHPV(HPV16型と18型)の感染を予防するサーバリックス、コンジローマ(性器の外側、外陰のイボ)の原因になるHPVの感染も含めて4種類のHPV(HPV6型、11型、16型、18型)の感染を予防するガーダシル、さらに子宮頸がんの原因となりうる他の5種類のHPVを含めて9種類のHPVの感染を予防するガーダシル9/シルガード9があります。日本では平成25年(2013年)4月から、12〜16歳の女性を対象に、サーバリックスとガーダシルによるHPVワクチンが定期接種となりました。しかし、同年6月には、HPVワクチン接種後の''副反応''の可能性に対する国民の懸念から、厚生労働省がHPVワクチンの積極的接種勧奨を停止し、日本におけるHPVワクチン接種率は対象者の1%未満に落ち込みました。令和4年(2022年)4月、厚生労働省は9年間の中断を経て、HPVワクチン接種の積極的勧奨を再開しましたが、接種率は低いままです。HPVワクチン接種に対する国民の懸念は、HPVワクチン接種を受けた女性が、慢性疼痛、運動障害、認知障害などの神経学的症状(いわゆる「多様な症状」)を発症したとされる事例に基づいています。この懸念は、現在HPVワクチン薬害訴訟が進行中であることにより、さらに強まりました。
その原告弁護団は、「HPVワクチンの成分が神経系の障害を引き起こす」と主張しており、その根拠となる基礎医学研究の論文をホームページ等にリストアップしています。子宮頸がんおよび神経免疫学の専門家からなる本研究チームは、それらの論文における一つ一つのデータを詳細に検討してきました。そして令和4年(2022年)8月には、「ヒト生体分子とHPVの間に分子相同性※1 があるために、HPVワクチン接種後に自己抗体が生じて臓器障害が生じる」と主張する論文、およびその考えに基づく動物実験の論文に大きな欠陥があることを明らかにし、Cancer Science誌に報告しました。
参考: https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/cas.15482

【本件の内容】
本研究チームは、Cancer Science誌に掲載された、先行研究と今回の研究の2本の論文により、HPVワクチン薬害訴訟原告弁護団がリストアップした基礎医学研究論文に重大な欠陥があり、その証拠能力が欠如していることを明らかにしました。
本研究では、「HPVワクチンの成分として含まれる、免疫を活性化させるための成分(アジュバント)が多様な神経症状を引き起こす」と主張する論文を詳細に検討し、その主張には根拠がないことを明らかにしました。20年以上前に、アルミニウムアジュバントを含んだワクチンの筋肉注射では、マクロファージ性筋膜炎(macrophagic myofasciitis; 以下MMF)という、全身性の筋肉痛、関節痛、疲労感、認知機能障害を生じる病態がおこるケースがあると報告されました。MMFの特徴は、ワクチンを注射した筋肉内へのアルミニウムの沈着と、それを取り込んだマクロファージ※2 という細胞の集積ですが、これは筋肉という局所に異物であるアルミニウムを注射すれば、かならず起こる反応です。今回、研究チームは、このワクチンを注射した一つの筋肉にとどまる局所反応と、MMFによって起こるとされる全身性の炎症(からだ全身の筋肉痛、関節痛)や脳の異常(認知機能障害など)との因果関係は、これまで一度も示されたことがなく、MMFという疾患の存在自体が否定的であることを明らかにしました。また、MMFの症例は、アルミニウムの中でも、水酸化アルミニウムを含むワクチン接種後に限定して報告されています。日本で使用されてきたHPVワクチンにはサーバリックスとガーダシルの2種類があります。水酸化アルミニウムは、サーバリックスには含まれていますが、ガーダシルには含まれていません。したがって、日本でのHPVワクチン接種後の多様な症状は、たとえMMFという病気が存在したとしても、MMFでは説明できません。
一方、ワクチンに含まれるアジュバントによって自己免疫反応が誘導されるとする、''autoimmune /autoinflammatory syndrome induced by adjuvants(以下ASIA)''という病態も提唱されています。しかし、研究チームは、ASIAの診断基準が広すぎること、データの再現性がないこと、動物実験が不適切であること、ワクチン接種やアルミニウム含有アレルゲン製剤の治療と自己免疫性疾患の関連が疫学的に否定されていることから、ASIAの存在も否定的であることを明らかにしました。
このように、本研究チームによる一連の検討は、「HPVワクチンの成分が神経学的な諸症状の原因になる」という理論的な根拠を否定し、HPVワクチンが安全であることを、あらためて強く示しました。そして、本研究チームが検証したのは、HPVワクチン薬害訴訟原告弁護団の主張の根拠となっている基礎研究の論文であることから、本研究の成果は同訴訟に大きく影響を与えると考えられ、ひいては国内外におけるHPVワクチン接種に関する施策や副反応への対応策、積極的推奨が再開されたHPVワクチンの接種率にも波及効果を有すると考えられます。

【論文概要】
論文名:Cancer Science(インパクトファクター:6.716 @2020-2021)
演題名:Critical evaluation on roles of macrophagic myofasciitis and aluminum adjuvants in HPV vaccine-induced adverse events
(HPVワクチンによる有害事象におけるマクロファージ性筋膜炎とアルミニウムアジュバントの役割に関する批判的評価)
研究者:松村 謙臣1、城 玲央奈1、角田 郁生2
所属 :1 近畿大学医学部産科婦人科学教室、2 近畿大学医学部微生物学教室

【研究詳細】
HPVワクチン薬害訴訟原告弁護団は、HPVワクチンに含まれる成分と「多様な症状」との因果関係を裏付ける科学的根拠として、基礎医学の研究論文を列挙しています。それらは、以下の3つの仮説に分類されます。
仮説I:「ワクチンに含まれるHPV L1タンパク質とヒトのタンパク質との分子相同性により、ヒトの臓器を障害する交差反応性抗体※3 が産生される」
仮説II:「HPVワクチンに含まれるアルミニウムアジュバントは、マクロファージ性筋膜炎(MMF)や、自己免疫性疾患を引き起こし、中枢神経系※4 の障害をもたらす」
仮説III:「ガーダシルは実験用マウスに中枢神経系の障害を誘発する」
子宮頸がんと神経免疫学の専門家からなる本研究チームは、先行研究で仮説IとIIIに基づく4本の論文を科学的に評価しました。その結果、仮説Iに基づく2本の論文は、HPVとヒトタンパク質のエピトープ※5 配列の相同性を比較するために、エピトープ配列全体の一部分のみを使用していたことを示しました。これは、交差反応性抗体の産生をもたらしません。また、仮説IIIに基づく2本の論文については、方法、結果、考察の全てに科学的に不備があることを示しました。また、今回の研究では、仮説IIに基づく5本の論文を評価しています。
ワクチンには、毒性を弱めた微生物(ウイルス、細菌)そのものを使う弱毒ワクチンがありますが、さらに安全性を高めるために微生物を完全に不活化するか、微生物の成分(サブユニット)を使ったワクチンが使用されています。後者の、不活化ワクチンやサブユニットワクチンは、免疫を活性化させるための成分(アジュバント)を含んでいます。アジュバントとして一般的なのは、アルミニウム塩です。HPVワクチンのうち、サーバリックスはAS04(水酸化アルミニウムとモノホスホリルリピッドA)を含み、ガーダシルとガーダシル9/シルガード9は硫酸アルミニウムハイドロキシホスフェートを含みます。水酸化アルミニウムはB型肝炎ウイルスワクチン(ビムゲン)やインフルエンザウイルスワクチンの成分として、硫酸アルミニウムハイドロキシホスフェートはHBVワクチン(ヘプタバックス-II)の成分として使用されています。
約20年前に、フランスの研究グループが、ワクチンのアジュバントである水酸化アルミニウムは筋肉注射(以下、筋注)によってMMFという新しい病態を起こすと提唱しました。MMFの臨床症状は、上肢と下肢を含むからだ全体の筋肉痛、関節痛、疲労感、認知機能障害などとされており、その著者らは、ワクチン筋注部位である三角筋へのアルミニウムを含んだマクロファージの集積が、ワクチン接種後に生じる全身の神経症状に関連していると主張しました。
しかし、MMFの存在は以下の理由により否定的です。
・ワクチン接種後に症状をしめさなかった健常人には、筋注部位の三角筋の生検が行われていない。したがって、MMF症例における筋注部位の変化が、ワクチンを接種した全ての人に普通に見られる変化であるか否かについての情報がなく、MMFは疾患概念としての科学的な妥当性に欠ける。
・ワクチン中に含まれるアルミニウム量は非常に少ないため、ワクチン接種者の生体内アルミニウム濃度はワクチン未接種者と差がなく、アルミニウムそのものによる全身への有害事象が生じるとは考えられない。
・カニクイザルを用いた実験において、アルミニウム含有ワクチンの筋注によってヒトMMFと同様の局所の組織学的変化が認められるが、行動の変化や筋力低下は全く認められない。マウスを用いた実験でも、HPVワクチン以外も含めたアルミニウム含有ワクチンの筋注によって、アルミニウムを貪食するマクロファージの浸潤が局所に認められ、局所には炎症の指標のサイトカインであるインターロイキン(IL)-1β、IL-6、G-CSFの濃度の上昇を認める。しかし、全身の血液で、これらのサイトカイン濃度の上昇はなく、全身性に炎症が生じている証拠はない。
・MMFの症例は、一部の例外を除いてフランスでのみ観察されているが、MMFの提唱者とは別のグループの研究者がフランスで行った解析では、アルミニウム含有ワクチンと筋肉痛、慢性疲労症候群、認知機能不全の関連は確認されなかった。そして日本でもHPVワクチン以外の、アルミニウム含有ワクチンで神経学的な「多様な症状」は報告されていない。
以上より、世界保健機関(WHO)は、「アルミニウム含有ワクチンの投与による健康リスクが存在すると結論づける理由はなく、現行のワクチン接種方法を変更する正当な理由もない」と述べています。
さらに、仮にMMFが特定の疾患として存在したとしても、MMFは水酸化アルミニウム(サーバリックスの成分)含有ワクチンのみで報告されており、硫酸アルミニウムハイドロキシホスフェート(ガーダシルの成分)含有ワクチンでは報告されていません。したがって、HPVワクチンに共通の神経学的な「多様な症状」をMMFによって説明することはできません。
別のカナダの研究グループは、マウスを用いた実験で、水酸化アルミニウムを皮下注射により投与し、運動障害と神経細胞変性が起こると主張する論文を報告しました。しかし、今回その論文を検証すると、神経病理学的な実験手法や統計解析方法に大きな欠陥がありました。なお、同研究グループは、平成17年(2005年)に、水酸化アルミニウムの皮下注射がマウス脳内において、自閉症のバイオマーカーとして知られる自然免疫遺伝子の活性化を生じると報告しました。しかし、後にその論文のデータに捏造があることがわかり、論文は取り下げられています。同研究グループは、反ワクチン団体から資金提供を受けており、他にもアルミニウムアジュバントの安全性に疑問を呈する論文を発表していますが、WHOはそれらの論文を検討し、やはり方法に重大な欠陥があることを指摘しています。
また、反ワクチンの活動家として知られているイスラエルの研究者は、ワクチンアジュバントの注射によって自己免疫反応が誘導されるとする、ASIAという症候群を提唱しています。彼は、実験的にB型肝炎ワクチン(Engerix-B)の投与が全身性エリテマトーデス(SLE)のマウスモデル(NZBWF1マウス)において自己免疫反応を促進することを報告しました。しかしこの研究では、成人ヒトで1.0mL投与するワクチンをマウス1匹あたり0.4mL注入しており、その投与量が非常に多いこと、実験のコントロールが不適切であること、統計解析の手法に誤りがあること、自己免疫病理を評価するための抗体の沈着や免疫細胞の浸潤を調べていないことなど、複数の欠陥がありました。
ASIAの疾患としての存在は、以下の理由により否定的です。
・ASIAは、ワクチン接種後20年以上経過しても、発熱、慢性疲労、自己免疫疾患の存在によって診断され、診断基準が広すぎること。
・ASIAに関する論文はほぼ、提唱者らのグループからのみ報告されていること。
・ほとんどの動物実験において、提唱者らは不適切な量や種類のアジュバントを用いて、自己免疫の素因をもつマウスを用いていること。
・ワクチン接種後のSLE、多発性硬化症、糖尿病などの増悪は一貫して観察されていないこと。
・デンマークの全国調査では、アルミニウム含有アレルゲン製剤による治療を受けたアレルギー性鼻炎患者は、対照群と比較して自己免疫疾患の発生率が14%低いことが実証された。これらの鼻炎患者は、B型肝炎ワクチンやHPVのワクチン接種者よりも3〜5年間で100〜500倍のアルミニウムを含む注射を受けていた。
結論として、本研究チームは、MMFとアルミニウムアジュバントによる中枢神経障害に関する論文を科学的に評価し、それら全てに欠陥があることを見出しました。したがって、HPVワクチン接種後の神経学的な「多様な症状」をMMFやアルミニウムアジュバントによるものとすることは不合理であると結論づけました。本研究チームによる一連の検討は、「HPVワクチンの成分が神経学的な諸症状の原因になる」という理論的な根拠が存在しないことを明らかにし、HPVワクチンが安全であることを強く示しています。そして、検証したのが、HPVワクチン薬害訴訟原告弁護団の主張の根拠となっている基礎研究の論文であることから、本研究の成果は同訴訟に大きく影響を与えると考えられ、ひいては国内外におけるHPVワクチン接種に関する施策や副反応への対応策にも波及効果を有すると考えられます。また本研究は、一般市民がアルミニウムを含む全てのワクチンについて、そのリスクと利点を正しく理解して、科学的に妥当な判断のもとで接種を受けるか否かを決めるために役立つと考えられます。

【用語解説】
※1 分子相同性:二つの分子のかたちが似ていること
※2 マクロファージ:体内に侵入した異物を食べて処理する細胞の一つ
※3 交差反応性抗体:抗体がHPVのみならずヒトの蛋白質にも反応すること
※4 中枢神経系:脳と脊髄
※5 エピトープ:抗体が結合するタンパク質の一部分

【関連リンク】
医学部 医学科 教授 松村 謙臣(マツムラ ノリオミ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/2124-matsumura-noriomi.html
医学部 医学科 教授 角田 郁生(ツノダ イクオ)
https://www.kindai.ac.jp/meikan/1503-tsunoda-ikuo.html

医学部
https://www.kindai.ac.jp/medicine/

▼本件に関する問い合わせ先
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FAX:06‐6727‐5288
メール:koho@kindai.ac.jp


【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/

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