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痛み止め市販薬「セレコキシブ」の新たな抗がん作用機構を発見 -- 東京工科大学大学院バイオ・情報メディア研究科

(Digital PR Platform) 2023年02月01日(水)20時05分配信 Digital PR Platform



東京工科大学(東京都八王子市、学長:大山恭弘)大学院バイオ・情報メディア研究科の丸山竜人助教、杉山友康教授らの研究グループは、痛み止め市販薬である「セレコキシブ」のミトコンドリアを介した新たな抗がん性の作用機構を発見しました。
本研究成果は、2023年1月24日にドイツ実験臨床薬学毒物学会の学術誌「Naunyn-Schmiedeberg's Archives of Pharmacology」オンライン版に掲載されました。




【ポイント】
●セレコキシブによる、がん細胞死において重要な役割を担うミトコンドリアを介した誘導機構を検証
●COX-2を標的としない新たな作用経路を発見
●がん細胞におけるミトコンドリアの不安定化はがん治療に効果的であり、セレコキシブを利用した新たながん治療の戦略開発が期待される



【研究背景】
 セレコキシブは、シクロオキシゲナーゼ(COX-2)を選択的に阻害する非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)で、ロキソニンやアセトアミノフェンと共に代表的な痛み止め市販薬として知られています。一方、セレコキシブは抗がん作用を有することも注目されていますが、その分子機構については十分に解明されていませんでした。セレコキシブは、小胞体内のカルシウムイオンを枯渇させ、小胞体に過剰なストレスを与えることで、細胞が生体の恒常性を保つために自ら死滅するシステム(細胞死)を誘導します。本研究では、この細胞死において重要な役割を担う細胞小器官のミトコンドリアを介した誘導機構の解明に取り組みました。

【研究内容】
 ミトコンドリアの状態を把握するための指標として、ミトコンドリア膜電位を用いました。ヒト大腸がん細胞株HCT116にセレコキシブを複数の濃度条件で処理したところ、セレコキシブの処理濃度依存的にミトコンドリア膜電位が消失しました(図1)。同消失は、ミトコンドリア生合成に異常が生じると引き起こされると考えられています。次に、ミトコンドリア生合成に関連する遺伝子の発現量にセレコキシブが与える影響を検証したところ、セレコキシブの処理によりそれら遺伝子の発現量は低下していました(図2)。したがって、セレコキシブによるミトコンドリア膜電位の消失の一因として、ミトコンドリア生合成遺伝子の発現低下が関与していることが示唆されました。



[図1] セレコキシブ処理によるミトコンドリア膜電位への影響:セレコキシブの処理濃度依存的にミトコンドリア膜電位が消失


[図2] セレコキシブによるミトコンドリア生合成遺伝子の発現への影響:セレコキシブを終濃度70μMで24時間処理をしたところ、ミトコンドリア生合成関連遺伝子の発現量が未処理の状態と比較して低下


 本研究室では、これまでの研究でミトコンドリア膜電位の消失を介した細胞死を誘導するshRNA配列を取得し、その標的遺伝子としてTMEM117を同定しています。そこで、この発現量への影響を調べた結果、セレコキシブの処理によりTMEM117の発現量は減少しました。また、上述のミトコンドリア生合成に関連する遺伝子の発現量がTMEM117遺伝子の発現を抑制した場合でも低下しました(図3)。以上の結果から、セレコキシブによるミトコンドリア膜電位の消失は、TMEM117の発現低下を介したミトコンドリア生合成に重要な遺伝子の発現抑制によって引き起こされることが示唆されました。




[図3] TMEM117発現抑制によるミトコンドリア生合成遺伝子の発現への影響:遺伝子の発現を特異的に抑制するRNA干渉法を用いてTMEM117の発現を抑制したところ、ミトコンドリア生合成関連遺伝子の発現量が通常の状態と比較して低下


【社会的・学術的なポイント】
 本研究では、COX-2を発現していないがん細胞株に対して、セレコキシブはがん細胞死の初期にみられるミトコンドリア膜電位の消失を引き起こすことを示しました。これはCOX-2選択的阻害剤として使用する一般的な濃度と比べて、高い濃度で作用させたときに見られた現象です。高濃度セレコキシブには抗がん作用があることが知られていますが、本研究成果はCOX-2を標的としない新たな作用経路を発見したと言えます。がん細胞におけるミトコンドリアの不安定化はがん治療に効果的であるため、セレコキシブを利用した新たながん治療の戦略開発などへの応用が期待されます。

【論文情報】
論文名: Effects of the anti-inflammatory drug celecoxib on cell death signaling in human colon cancer
雑誌名: Naunyn-Schmiedeberg's Archives of Pharmacology
URL: https://link.springer.com/article/10.1007/s00210-023-02399-4

■東京工科大学応用生物学部 機能性RNA工学(杉山友康・丸山竜人)研究室
 遺伝子の働きをノックダウンする独自技術を中核として、核酸医薬の探索、遺伝子の新しい機能解明、細胞の制御、モデル動物の解析等によって新しい核酸医薬の創製を目指します。また、新属新種の細菌 Flexivirga albaを解析して、土壌環境汚染の浄化に寄与する技術開発を目指します。
[主な研究テーマ]
1.遺伝子ノックダウンした細胞の高効率評価による核酸医薬探索
2.再生モデル動物を利用した核酸医薬評価系の開発
3.がん幹細胞の画像ディープラーニングとその応用
4.六価クロム汚染浄化法の基礎研究
[研究室WEB]
https://sugiyama-lab.bs.teu.ac.jp/
東京科学 学院 バイオ・情報メディア研究科バイオニクス専攻WEB:
https://www.teu.ac.jp/grad/bs/index.html
応用生物学部WEB:
https://www.teu.ac.jp/gakubu/bionics/index.html



【研究内容に関してのお問い合わせ先】
東京科学 学院 バイオ・情報メディア研究科 丸助教
Tel 042-637-2104(研究室直通)
E-mail maruyamart(at)stf.teu.ac.jp

※(at)は@に置き換えてください。

【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/

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