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酪酸菌にケトン体を供与し潰瘍性大腸炎を抑制 〜制御性T細胞の活性化による炎症抑制を動物実験で検証〜 東京工科大学応用生物学部

(Digital PR Platform) 2022年12月26日(月)20時05分配信 Digital PR Platform



東京工科大学(東京都八王子市、学長:大山恭弘)応用生物学部の佐藤拓己教授と麻布大学(神奈川県相模原市)獣医学部の山下匡教授の共同研究チームは、バクテリア由来の生分解性プラスチックの一種であるポリヒドロキシ酪酸(以下、PHB)(注1)が、マウス実験で潰瘍性大腸炎を抑制することを発見しました。
本研究成果は、2022年12月23日に米国実験生物学会連合の国際科学誌「The FASEB Journal」(インパクトファクター5.8)オンライン版に掲載されました。




【研究背景】
 PHBは、海や湖に生息するバクテリアの一種から作られる、ケトン体が直鎖上に連結されたポリエステルであり、ポリヒドロキシアルカン酸 (PHA)の一種です。大腸管腔内において腸内細菌により分解されるため、腸内細菌にケトン体を供与する「ケトン供与体」として作用します(文献1)。佐藤教授は、すでにPHBの同作用が酪酸菌優位な腸内細菌叢を誘導することを発見し、新たなプレバイオティクスとして「ケトバイオティクス」(注2)を提唱しています(文献2)。また、PHBはロゼブリア属などの酪酸菌を増加させ酪酸を大腸管腔に放出させること(文献3)、および酪酸は制御性T細胞(注3)を活性化して大腸内の炎症を抑制すること(文献4)が知られています。
 これらの知見をもとに、PHBの腸管粘膜における保護作用を検証することを目的として、同共同研究チームでは潰瘍性大腸炎のマウスモデルを用いた実験を行いました。

【研究成果】
 デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)を投与して作製した潰瘍性大腸炎の病態モデルのマウスに2%のPHBを混餌で与えたところ、大腸の粘膜上皮の変性は有意に抑制されました(図1)。また大腸上皮に存在する制御性T細胞が有意に増加しました(図2)。さらに、大腸管腔内に放出されたケトン体は、大腸上皮に存在するTリンパ球のヒストンのアセチル化(注4)を亢進しました。
 これらの結果から、PHBは 1)酪酸菌にケトン体を供与して酪酸菌を活性化し、酪酸を放出させる 2)大腸上皮のTリンパ球にケトン体を供与してヒストンのアセチル化を促進する という2つのメカニズムで制御性T細胞を活性化すると考えられます(図4)。

[図1] PHB供与による大腸の粘膜上皮の変性の抑制:DSS投与により大腸上皮の配列は乱れたが(右上)、PHBが共存すると配列は保持された(右下)。
[図2] PHB供与による大腸の粘膜上皮の制御性T細胞の活性化:PHBのみでは制御性T細胞(▼)は増加しなかったが(左下)、DSSと共存では数倍に増加した(右下)。

【社会的・学術的なポイント】
 PHBは、酪酸菌優位な腸内環境を誘導し、酪酸、酢酸及びプロピオン酸を遊離させることから、哺乳類の消化管の健康を保つ可能性があります。また難病に指定されている潰瘍性大腸炎に対する創薬シーズとして社会実装することが期待されます。

[図3] PHBの分子構造。ケトン体が直鎖上に多数連結されており、この結合は腸内細菌の酵素だけが分解できる
[図4] PHBは腸内細菌と大腸上皮にケトン体を供与し、制御性T細胞を活性化する

【論文情報】
論文名: The novel sustained 3-hydroxybutyrate donor poly-D-3-hydroxybutyric acid prevents inflammatory bowel diseases through upregulation of regulatory T-cells
U R L:https://doi.org/10.1096/fj.202200919R

【参考文献】
(文献1) 佐藤拓己「腸内細菌の酵素でケトン体を生産させ酪酸菌を活性化する 新しいプレバイオティクスとしてのケトバイオティクス」 アンチエイジング医学 Vol.18(2022年)048-051.
(文献2) Takumi Satoh. Ketobiotics by Poly-3- Hydroxybutyrate: A Novel Prebiotic Activation of Butyrate-Producing Bacteria through 3-Hydroxybutyrate Donation to the Microbiota. Journal of Biotechnology and Biomedicine 5 (2022): 158-162.
(文献3) Fernandez J, et al, Antitumor bioactivity and gut microbiota modulation of polyhydroxybutyrate (PHB) in a rat animal model for colorectal cancer. Int J Biol Macromol. 2022 Apr 1;203:638-649.
(文献4) Furusawa Y, et al. Commensal microbe-derived butyrate induces the differentiation of colonic regulatory T cells. Nature. 2013 Dec 19;504(7480):446-50.

【用語解説】
(注1)ポリヒドロキシ酪酸(PHB):海や湖に生息するバクテリアの一種から作られる。ケトン体が何千とつながった重合体というシンプルなもの。生分解性プラスチックの原料としての可能性が指摘されてきたが、近年になり食材や医薬品としての応用が期待されている。
(注2)ケトバイオティクス:佐藤拓己教授が提唱する新しいプレバイオティクスの呼称(図5)。
(注3)制御性T細胞:Tリンパ球の一種で、過剰な免疫応答を抑制する役割を担っている。
(注4)ヒストンのアセチル化:ケトン体は核内蛋白質・ヒストンのアセチル化を促進して抗炎症作用を誘導する。


[図5] 佐藤教授が提唱する「ケトバイオティクス」:酪酸菌にケトン体を供与し、大腸内に持続的に酪酸を放出させる

■東京工科大学応用生物学部 佐藤拓己(アンチエイジングフード)研究室
 ミトコンドリアは人間の体内で細胞の生死を司るという決定的な役割を持っています。私たちの研究テーマは、活性酸素などに注目してミトコンドリアを活性化させる分子の機能を解き明かすことです。
[研究室ウェブサイトURL] https://www.teu.ac.jp/info/lab/project/bio/dep.html?id=34

■応用生物学部:
 https://www.teu.ac.jp/gakubu/bionics/index.html



■本件に関する報道関係からのお問い合わせ先
 柳学園 コミュニケーション企画部
 担当
 Tel 042-637-2109
 E-mail ohta(at)stf.teu.ac.jp
※(at)は@に置き換えてください

【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/

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