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【東芝】可視光下では無色透明で、紫外光下で強発光する「透明蛍光体」を開発

(Digital PR Platform) 2022年12月13日(火)10時30分配信 Digital PR Platform

  2022−12−13
株式会社 東芝


可視光下では無色透明で、紫外光下で強発光する「透明蛍光体」を開発
〜高度セキュリティ分野、有害物質のセンシング、マイクロLED用途を目指す〜






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「透明蛍光体」応用例のイメージ

概要
 当社は、室内光などの可視光の下では無色透明で視認性がなく、ブラックライトなどで紫外光を照射すると発光する当社独自の「透明蛍光体」技術において、新たに開発した新規化合物を用いることで、従来の蛍光体より溶解性を高め透明度を向上させるとともに赤色の発光強度を約6倍(*1)に高めることに成功しました。本成果は、当社が蛍光体材料において新しい分子設計の指針を見出したことにより実現しました。

 当社が開発した蛍光体はポリマーや有機溶媒に溶けやすく、溶解性を高めることで完全に無色で世界最高クラスの透明度を実現します。また、本技術を利用して様々な色に発光する蛍光体を創成することが可能ですが、材料の特性から特に赤色で強く発光(強発光)し、明るく色純度が高い鮮明な赤色の発光を実現します。

 蛍光体は、LED・液晶のバックライト・ディスプレイ・インクや塗料など様々なものに用いられており、発光色や発光強度の違いを用いて、化学・熱センサーなどにも活用されています。当社が開発した「透明蛍光体」は、印刷物の偽造を防ぐための印刷方法である「セキュリティ印刷」や、有害物質のセンシングなど、蛍光体の活用範囲の大幅な拡大に貢献します。また、ポリマーに溶解することで光散乱がなくなり、紫外光を照射すると色純度の高い赤色で強発光する特徴を生かし、赤色領域の技術に課題があるLED分野への活用も期待できます。

 当社は、本技術の詳細を12月14日〜16日に福岡国際会議場で開催されるThe 29th International Display Workshops (IDW’22)の招待講演(*2)にて発表します。また、本学会のIDW Exhibitionにおいて、「透明蛍光体」を使用した赤色LEDおよび蛍光フィルムを参考展示します。

開発の背景
 蛍光体は、原子・分子・イオンまたは電子が、紫外光や可視光など外部からの光のエネルギーを吸収し、エネルギーの異なる光を放出する材料です。原子・分子・イオンまたは電子は、通常時はエネルギーの最も低い状態(基底状態)にありますが、外部からのエネルギーを吸収すると、エネルギーが高い状態に移行(励起状態)することがあります。励起状態の後は通常、エネルギーを放出し短時間で基底状態に戻りますが、このエネルギーの放出により発光するのが蛍光体の発光現象です。
 
 蛍光体は今日、発光現象そのものを利用したLED・液晶のバックライト・ディスプレイや、発光現象を活用したセンシングなど、日常的に様々な製品に使われていますが、小さなチップで構成されるミニ/マイクロLEDやマイクロLEDディスプレイといった分野では、現在一般的に使用されている無機蛍光体では色再現能力に限界があり、発光強度が弱いことが課題となっています。また、室内光や太陽光の下では無色透明でシースルーで、必要な時に鮮明に強発光する蛍光体は、その特長を生かしてより広いアプリケーションへの展開が期待されています。

 当社は強発光する透明蛍光体を実現するため、2003年に発光効率が高く発光色も多彩な有機発光体の開発に着手しました。有機蛍光体は、発光に必要な電子などを多く含むレアアースが主な原料に用いられますが、当社は、レアアースの1つで、ポリマーに溶解することにより透明化でき、色純度が高く、発光スペクトルの色相が蛍光体の濃度や溶解する媒体の性質に依存しないユーロピウム(Eu)に着目しました。開発を進め、2007年に、他の有機蛍光体では困難であった、優れた溶解性・発光強度・耐久性を持つEuの化合物(Eu(III)錯体)を見出しました。

 実用化に向けては、Eu(III)錯体の溶解性を高め完全に無色透明な蛍光体の実現すること、また高い色純度を維持したまま発光強度を増大することが必要です。溶解性においては、従来の蛍光体は、溶解せずに微粒子状で存在するため、文字などパターンを印刷したものが、角度や光の当たり具合によってうっすらと見えてしまいます。また、微粒子の粒径のばらつきにより素子特性のばらつきが発生したり、微粒子の光散乱が素子の特性を落としてしまうことが課題となっていました。

本技術の特長
 当社は、Eu(III)錯体の発光強度と溶解性を増大させる独自の分子設計手法である「互いに異なる2種類以上のホスフィンオキシドをEu(III)イオンに配位させる分子設計コンセプト」を活用し、新しいEu(III)錯体を開発しました。
 これまで、異なる2種類のホスフィンオキシドを有するEu(III)錯体、非対称構造ジホスフィンジオキシド配位子を有する多数の新規希土類蛍光錯体を開発してきました(*3)が、今般、「非対称構造テトラホスフィンテトラオキシド配位子」を発見し、同配位子を有する新規Eu(III)錯体複核錯体を創成し、「透明蛍光体」の発光強度のさらなる増大を実現しました。発光強度は従来技術の約6倍です。このEu(III)錯体をポリマーに溶解すると、可視光下で完全に無色で透明性が高く、紫外線光下では色純度が高い赤色に強発光する「透明蛍光体」を得ることができます。
 なお、テトラホスフィンテトラオキシド配位子は、2種類のホスフィンオキシド(Type 1, 2)を有し、2つのEu(III)イオンをブリッジする機能があります。「@それぞれのEu(III)イオンに対して異なる2種類のホスフィンオキシド骨格が配位」「A2つのEu(III)は互いに異なる配位環境」という新しい構造により、発光強度と溶解性の両立が可能となります。



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図1.当社の新しい分子設計指針により実現した2種類以上のホスフィンオキシド構造を有するEu(III)錯体

主な想定アプリケーション
(1)ミニ/マイクロLED、ミニ/マイクロLEDディスプレイ
 近年、テレビやディスプレイ分野において液晶や有機ELに続く技術として、ミニLEDやマイクロLEDを用いたディスプレイの開発が進められています。ミニLEDは、直径が100μm〜200μm程度のLEDを指し、100μm未満のLEDで「マイクロLED」と呼びます。極小・極薄のためデバイスの小型化にも貢献するとともに、光量の調整をきめ細かく行うことで液晶が苦手な黒や、有機ELが苦手な白の再現性を高めるとして注目されています。しかし、現在使用されている無機蛍光体では赤色蛍光体の種類が限られており、明るさを出す白色LEDと合わせて使用した場合光の錯乱が発生し、ディスプレイの色再現範囲を規定する赤色の色純度が低下するという課題があります。無機蛍光体においては色純度と明るさはトレードオフの関係にありありますが、今般開発した有機蛍光体による透明蛍光体はポリマーに溶解することにより光散乱がない透明な蛍光膜を実現することができるため、色純度と明るさの両立が可能です。

(2)新型コロナウイルスを除菌できる深紫外光(222 nm)の可視化
 今般開発した透明蛍光体は深紫外から紫色(222 nm〜405 nm)の幅広い光で励起して赤色を発光します。人体に対する悪影響が少なく新型コロナウイルスを除菌できる深紫外光(222 nm)を可視化することができ、紫外線照明設計への活用が期待できます。繰り返し何度も、瞬時に可視化できることが特徴です。

(3)高度なセキュリティ印刷への応用
 セキュリティ印刷は、印刷物の偽造を防止する目的で行われる印刷方法です。偽造を未然に防ぎ、偽造された印刷物を発見しやすくするために、印刷物に特殊な加工やデザインなどを施します。当社が開発した透明蛍光体は、室内光下では無色透明で既存の蛍光体よりも視認性が低く、紫外光を照射すると強発光するため、高度なセキュリティが求められる分野でのセキュリティ印刷への応用が期待できます。

(4)有害物質センシングへの応用
有機リン系農薬「ジクロルボス」と作用すると瞬時に消光することから、高度な分析機器が不要で簡易的に迅速に残留農薬の有無を判定できる有害物質センシングへの応用が期待できます。残留農薬を検出するEu(III)錯体は人体に無害となります。



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図2.当社製蛍光体のアプリケーションの例


 当社は今後、IDW Exhibitionにおいて展示する透明蛍光体および蛍光フィルムのサンプル提供を開始します。照明・ディスプレイ・印刷・化学分野などでの各種アプリケーションへの適用を進め、2025年の量産開始を目指します。

展示品の主な特長
外観:乳白色粉末
励起主波長:深紫外(222 nm)〜紫色(405 nm)
発光主波長:613 nm(赤色)
樹脂溶解性:酢酸エチル、ヘキサンに1×10-3 mol/l


(*1)発光強度が従来の六配位ユーロピウム錯体に新開発の新規化合物を加えると約6倍になる。
(*2)Dec.14,13:00-13:20,Room413,FMC1-1,
Development and Photoluminescence Properties of Red Luminescent Dinuclear Eu(III)-β-diketonates with a Branched Tetraphosphine Tetraoxide Ligand for Potential Uses in LEDs,
Hiroki Iwanaga1, Fumihiko Aiga1, Shin-ichi Sasaoka2, Takahiro Wazaki2,
1. Toshiba Corporation (Japan), 2. NITTO KASEI CO., LTD (Japan)
(*3)論文「Bull. Chem. Soc. Jpn. 92, 1385-1393 (2019).」
https://www.journal.csj.jp/doi/abs/10.1246/bcsj.20190068
論文「ACS Omega, 6, 1, 416-424 (2020).」
https://pubs.acs.org/doi/full/10.1021/acsomega.0c04826



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