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植物の栄養素「リン酸」の吸収・利用効率を高める新手法を開発 -- 肥料を低減した持続可能な農業などへ応用に期待 -- 東京工科大学応用生物学部

(Digital PR Platform) 2022年11月28日(月)20時05分配信 Digital PR Platform



東京工科大学(東京都八王子市、学長:大山恭弘)応用生物学部の多田雄一教授らの研究チーム(注1)は、植物の重要な栄養素「リン酸」の吸収・利用効率を高める新手法を開発、低リン酸および通常のリン酸の両条件においいて高い生産性を示す植物を作出することに成功しました。
本研究成果は、植物科学専門誌「Plant Science」(インパクトファクター:5.363)電子版に2022年11月19日に掲載されました。




【研究背景】
 リンは植物に必要な三大栄養素(窒素、リン、カリウム)のひとつで、核酸、細胞膜成分、エネルギー代謝産物などに利用される重要な元素です。植物はリンをリン酸として吸収しますが、土壌中で不溶態になりやすく吸収されにくい成分であり、しばしば植物の成長の制限要因になっています。また肥料として散布されたリン酸の作物による吸収率は1〜3割程度という研究報告もあります。一方、植物に吸収されなかったリン酸は、川や湖沼に流出し、富栄養化といった環境への影響も懸念されています。さらに、リン酸肥料の原料であるリン鉱石資源は、埋蔵量が有限で石油よりも早く枯渇すると予測されています。このような理由から、植物のリン酸吸収とその利用効率を改善することは、持続可能な農業を実現するうえで重要な育種目標となっています。従来の研究では、リン酸の吸収と輸送を担うタンパク質である「リン酸トランスポーター」(注2)を植物全体で強化する手法が用いられてきましたが、成長改善よりも阻害が生じるケースも多く報告されています。

【研究内容】
 同研究チームでは、リン酸トランスポーターを植物全体で強化することがリン酸の吸収と輸送をかく乱していると考え、根の表皮で特異的にリン酸トランスポーターを発現させました。具体的には、シロイヌナズナの根の表皮で強く働くAKT1プロモーター(注3)で制御したコムギ由来のリン酸トランスポーター遺伝子(TaPT2)をシロイヌナズナに組み込み、その効果を検証しました。
 根の表皮で働くAKT1プロモーターで制御したリン酸トランスポーター遺伝子を組み込んだシロイヌナズナは、通常のシロイヌナズナ(非組換え)と比べて、低リン酸条件でも通常リン酸条件でも成長が促進され、葉茎の大きさや茎の太さが増大しました(図1、図2)。また植物体あたりのリン酸吸収量の増加も確認されました。一方、植物全体で働くACT8プロモーターで制御した場合は、成長は促進されない、もしくは阻害が観察されました。これらの結果から、植物におけるリン酸の吸収と輸送における律速段階は、根の表皮における吸収能力であり、その後のリン酸の輸送能力には余力があること、植物全体でリン酸トランスポーターを強化した場合には、リン酸の吸収・輸送経路がかく乱されることで成長に悪影響を与えることが示されました。

図1:リン酸トランスポーター強化したシロイヌナズナの茎葉重量(A:通常リン酸条件 B:低リン酸条件)

図2:リン酸トランスポーターを強化したシロイヌナズナ(通常リン酸条件)


【社会的・学術的なポイント】
 本研究により、根の表皮特異的にリン酸トランスポーターを強化することで、植物によるリン酸の吸収・利用効率を大きく改善できる可能性が示されました。これは従来の研究では確認されていなかった効果であり、リン酸肥料を低減した持続可能な作物栽培や、肥料コストの削減などへの応用が期待されます。また、肥料の入手が困難な地域での食糧増産や、リンの環境への流出の軽減、有限なリン鉱石資源の節約など、SDGsの達成にも貢献する技術として期待されます。



【論文情報】
・論文名: Yuki Noike, Izumi Okamoto, Yuichi Tada,「Root epidermis-specific expression of a phosphate transporter TaPT2 enhances the growth of transgenic Arabidopsis under Pi-replete and Pi-depleted conditions」
・雑誌名: Plant Science(オンライン版)
・URL: https://doi.org/10.1016/j.plantsci.2022.111540

【用語解説】
(注1)東京工科大学応用生物学部 教授:多田雄一、同学部卒業生:野池優希、岡本和泉
(注2)リン酸トランスポーターは、根においてリン酸イオンを吸収するとともに、リン酸を他の部位に輸送する働きをするタンパク質です。
(注3)プロモーターは遺伝子の発現を制御しているDNA配列で、例えるなら遺伝子をいつ、どの細胞で、どのくらいの強さで働かせるかを決める「スイッチ」の役割を果たします。AKT1プロモーターは、本来はシロイヌナズナの根の表皮でカリウムイオンを取り込むタンパク質であるカリウムチャネルの遺伝子を制御しているプロモーターです。

■東京工科大学応用生物学部 植物工学(多田雄一)研究室
 植物のストレス耐性機構の解明と強化に関する研究を行っています。特に、低リン酸などの低肥料条件でも生育できる仕組みの研究や耐塩性植物の耐塩性機構を解明して利用する研究を行なっています。そのほかに高温耐性遺伝子の同定、シックハウス症候群の原因物質であるホルムアルデヒドを浄化する能力の強化などの植物バイオテクノロジーに関する幅広い研究を行っています。

[主な研究テーマ]
1.低肥料耐性植物に関する研究
2.植物の耐塩性に関する研究
3.植物の高温耐性に関する研究
4.ホルムアルデヒド浄化植物の研究
5.果実の糖度を高める栽培法に関する研究
[研究室ウェブサイトURL]
 https://tada-lab.bs.teu.ac.jp/



■応用生物学部WEB:
 https://www.teu.ac.jp/gakubu/bionics/index.html

【研究内容に関しての報道機関からのお問い合わせ先】
 東京科学 応物学部 多雄 教授
 E-mail tadayui(at)stf.teu.ac.jp
※@は(at)に置き換えてください。

【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/

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