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新型コロナワクチン3回目接種により血液透析患者の免疫応答が改善することを発見 〜2回目接種で低反応の人ほど有効〜

(Digital PR Platform) 2022年09月13日(火)10時00分配信 Digital PR Platform

 横浜市立大学大学院医学研究科 循環器・腎臓・高血圧内科学の金井 大輔医師(大学院生)、田村 功一主任教授、涌井 広道准教授らは、医療法人社団厚済会の大西 俊正博士、山口 聡博士、三橋 洋医師、花岡 正哲医師、花岡 加那子氏、渡邉 文雅渡氏らとの共同研究により、新型コロナウイルスワクチン(ファイザー社)3回目接種後に獲得される抗スパイクタンパク*1抗体価について、高リスクの血液透析患者群と健常人(医療スタッフ群)で比較しました。ワクチン3回目接種1か月後の抗スパイクタンパク抗体価が、2回目接種後に比べて大幅に上昇し、健常人(医療スタッフ群)と同レベルまで上昇したことを認めました。
 また、血液透析群、医療スタッフ群の両群において、2回目のワクチン接種で十分な抗体を獲得できなかった人(無反応/低反応群)の約9割が、3回目接種後に有意に抗体価が上昇したことを認め、さらに、2回目接種で無反応や低反応であった人の方が、(2回目接種で)高反応であった人に比べて、3回目接種による抗体価の上昇比が高いことも明らかしました。本研究により、新型コロナmRNAワクチン*2を2回受けても十分な液性免疫を獲得できなかった血液透析患者でも、3回目の追加接種を受けることで、健常人と変わらない程度の抗体価を獲得できることが明らかになりました。
 本研究成果は、国際腎臓学会誌Kidney International Reportsに掲載されました。(2022年9月10日オンライン)

研究成果のポイント:高リスクの血液透析患者における3回目ワクチン接種の意義

血液透析患者は新型コロナワクチン2回目接種後の抗体価は健常人の約1/3と低い
新型コロナワクチン3回目接種にて血液透析患者は健康人と同等の抗体価を獲得
2回目接種で無反応/低反応な人ほど、3回目接種後の抗体価上昇比が大きい
2回目接種で無反応/低反応な人の約9割が、3回目接種後に反応性が向上


研究背景
 新型コロナウイルスメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンはCOVID-19の重症化率を低下させ、死亡率を減少させる効果があります(文献1)。進行した慢性腎臓病をもっている人、特に血液透析を受けている人は、COVID-19の重症化や死亡の危険性が高いことが国内外で報告されていますが(文献2、3)、ワクチンを接種することで、重症化率や死亡率を下げることができます(文献4)。
 日本国内では、血液透析を受けている人に対してワクチン接種が強く推奨されてきましたが、進行した慢性腎臓病をもつ人は尿毒素の影響で免疫力が低下しており、ワクチンに対する免疫応答が悪く抗体を獲得しにくいとされています(文献5、6)。本研究グループの先行研究でも、2回のワクチン接種後に獲得できる抗体価は、血液透析患者では健常人と比べて3分の1程度と有意に低値でした(文献7)。日本より先に3回目のワクチン接種を開始した海外からの報告では、血液透析患者や免疫抑制薬内服者のように2回目までのワクチンに対する免疫応答が悪かった人でも、3回目のワクチン接種後に有意な抗体価の上昇を認めたとされています(文献8、9、10)。しかしながら、健常人と血液透析患者で3回目接種後の抗体価を比較した研究はほとんどなく、日本を含めて東アジアからの報告はありませんでした。そこで、日本人の血液透析を受けている人(血液透析患者群)と医療スタッフ(コントロール群)を対象に、新型コロナmRNAワクチン2回目接種時から3回目接種1ヶ月後までにおける抗スパイクタンパク抗体価の経時的な推移を比較しました。また、ワクチンに対する反応性の変化を3回目のワクチン接種前後で検討しました。

研究内容
 今回の研究は、新型コロナウイルスに対するファイザー社製mRNAワクチンの接種を受けた日本人血液透析患者群と医療スタッフ群を対象として、ワクチン接種後に獲得された抗スパイクタンパク抗体の力価の経時的な推移を後方視的に調べた研究です。
 医療社団法人厚済会では、関連透析施設(上大岡仁正クリニック、文庫じんクリニック、金沢クリニック、追浜仁正クリニック)に通院されている血液透析患者さんと勤務している医療スタッフの中で、2回目のワクチン接種を完了し抗スパイクタンパク抗体検査を希望された者に対して、無料で(抗体検査費用の全額を医療社団法人厚済会が負担)抗体検査が提供されていました。その結果は各被検者に通知され、診療録などに記録されており、3回目のワクチン接種後も希望者に対しては継続して検査の機会を設けていました。本研究では、保管されていた情報を診療録などから収集し解析を行いました。
 血液透析患者群350名、医療スタッフ群130名のデータを解析したところ、2回目接種6か月後までの抗体価は、血液透析患者群は医療スタッフ群に比べて約1/3と有意に低値でした。しかしながら、3回目接種1ヵ月後の抗体価は血液透析患者群と医療スタッフ群で差を認めませんでした(24,500 AU/mL vs. 20,000AU/mL)。従来、血液透析患者は尿毒素の影響で新型コロナワクチンに対する免疫応答が悪く、健常人と比べると獲得される抗体価は有意に低くなることが知られていたため、予想に反する結果でした。また、2回目のワクチン接種に対する反応性を抗体価によって3群(高反応群 [7021AU/mL以上]、低反応群 [50以上7021AU/mL未満]、無反応群 [50AU/mL未満])に分け、3回目接種後の抗体価上昇比を比較しました。その結果、血液透析患者では高反応群は3.3倍、低反応群10.2倍、無反応群90.8倍であり、医療スタッフでは高反応群は2.0倍、低反応群3.7倍であり、両群共に2回目接種に対する反応性が低い人の方が3回目接種後に抗体価の上昇比が大きいことが分かりました。




[画像1]https://user.pr-automation.jp/simg/1706/62839/600_709_20220912131303631eb1cfa8b8f.JPG

今後の展開
 血液透析患者は健常人に比べて、ワクチンに対する免疫応答が悪く、獲得できる抗体価が低いと考えられていました。しかしながら、本研究の結果では、血液透析患者でも新型コロナmRNAワクチンを3回接種することで、健常人と同レベルまで抗体価を上昇させられることが明らかになりました。ただし、ワクチンの適切な接種間隔や他のワクチンでも同様な反応が得られるかなどは不明です。また、本研究では2回目の接種で高反応を示した群は3回目接種で抗体価の上昇比が最小であり、「ワクチンに対する免疫応答の天井 (”ceiling of immune response”)」の存在が示唆されました。海外の報告では、4回目の新型コロナmRNAワクチン接種を受けた健常人の抗体価は3回目接種後と比べて軽度の上昇に留まりました(文献11)。2022年8月時点では4回目ワクチン接種後の日本人における抗体価の推移に関する報告は公表されておらず、血液透析患者においてもどのような傾向があるのかは不明です。
 今後、さらなる研究によって、血液透析患者において新型コロナワクチン接種による免疫獲得についての知見が深まり、ワクチンを接種すべき回数、接種の間隔や時期などに関して、より適切なプロトコールの作成や施策へ反映されることが期待されます。

研究費
 本研究は、日本学術振興会科学研究費補助金、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)、日本腎臓病協会・日本ベーリンガーインゲルハイム共同研究事業、公益財団法人 上原記念生命科学財団、公益財団法人 ソルト・サイエンス研究財団医学研究プロジェクト助成、公益社団法人 日本透析医会、および一般財団法人 横浜総合医学振興財団などによる研究助成を受けて行われました。

論文情報
タイトル:Improved immune response to the third COVID-19 mRNA vaccine dose in hemodialysis patients
著者:Kanai D, Wakui H, Haze T, Azushima K, Kinguchi S, Kanaoka T, Toya Y, Hirawa N, Kato H, Uneda K, Watanabe F, Hanaoka K, Hanaoka M, Mitsuhashi H, Yamaguchi S, Ohnishi T, Tamura K
掲載雑誌: Kidney International Reports
DOI: https://doi.org/10.1016/j.ekir.2022.09.005

用語説明
*1 抗スパイクタンパク:
 新型コロナウイルスの表面にはスパイクタンパク質というものが存在しており、ウイルスが人体の細胞に侵入する際に足掛かりとなる重要なタンパク質である。ウイルス表面のスパイクタンパク質に結合することで、スパイクタンパク質が人体の細胞に足掛かりを作るのを妨害して、ウイルスの体内への侵入を阻害する。ファイザー社やモデルナ社のワクチンの接種によって、抗スパイクタンパク抗体を獲得することができる。

*2 mRNAワクチン:
 mRNA(メッセンジャーRNA)ワクチンは、ウイルスのタンパク質をつくるもとになる遺伝情報の一部を注射する。人の身体の中で、この情報をもとに、ウイルスのタンパク質の一部が作られ、それに対する抗体が作られる。

参考文献など
(文献1)
Pilishvili T, et al. Effectiveness of mRNA Covid-19 Vaccine among U.S. Health Care Personnel. N Engl J Med 2021; 385(25): e90.
(文献2)
Kikuchi K, et al. Survival and predictive factors in dialysis patients with COVID-19 in Japan: a nationwide cohort study. Ren Replace Ther 2021;7(1):59.
(文献3)
Chung EYM, et al. Incidence and Outcomes of COVID-19 in People With CKD: A Systematic Review and Meta-analysis. Am J Kidney Dis 2021; 78(6): 804-15.
(文献4)
Sibbel S, et al. Real-World Effectiveness and Immunogenicity of BNT162b2 and mRNA-1273 SARS-CoV-2 Vaccines in Patients on Hemodialysis. J Am Soc Nephrol 2022; 33(1): 49-57.
(文献5)
Ghadiani MH, et al. Response rates to HB vaccine in CKD stages 3-4 and hemodialysis patients. J Res Med Sci 2012; 17(6): 527-33.
(文献6)
Mastalerz-Migas A, et al. Immune response to influenza vaccine in hemodialysis patients with chronic renal failure. Adv Exp Med Biol 2013; 756: 285-90.
(文献7)
Kanai D, et al. SARS-CoV-2 spike protein antibody titers 6 months after SARS-CoV-2 mRNA vaccination among patients undergoing hemodialysis in Japan. Clin Exp Nephrol. 2022. doi: 10.1007/s10157-022-02243-8.
(文献8)
Gressens SB, et al. Anti-SARS-CoV-2 antibody response after 2 and 3 doses of BNT162b2 mRNA vaccine in patients with lymphoid malignancies. Clin Microbiol Infect. 2022; 28(6):885.e7–885.e11.
(文献9)
Del Bello A, et al. Efficiency of a boost with a third dose of anti-SARS-CoV-2 messenger RNA-based vaccines in solid organ transplant recipients. Am J Transplant. 2022; 22(1):322–323.
(文献10)
Syversen SW, et al. Immunogenicity and safety of standard and third-dose SARS-CoV-2 vaccination in patients receiving immunosuppressive therapy. Arthritis Rheumatol. 2022. doi: 10.1002/art.42153.
(文献11)
Regev-Yochay G, et al. Efficacy of a fourth dose of Covid-19 mRNA vaccine against omicron. N Engl J Med. 2022;386(14):1377–1380.



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