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日本人の血液透析患者では新型コロナワクチン接種後の抗体価上昇が抑制 ―ピーク抗体価の上昇に寄与する因子は栄養状態と貧血の改善、ビタミンDの補充―

(Digital PR Platform) 2022年06月28日(火)14時00分配信 Digital PR Platform

 横浜市立大学大学院医学研究科 循環器・腎臓・高血圧内科学の金井大輔医師(大学院生)、田村功一主任教授、涌井広道准教授、横浜市立大学附属病院 次世代臨床研究センター(Y-NEXT)土師達也助教、感染制御部 加藤英明部長らは、医療法人社団 厚済会 大西俊正博士、山口聡博士、三橋洋医師、花岡正哲医師、花岡加那子氏らとの共同研究により、新型コロナウイルスワクチン(ファイザー社)接種後に獲得される抗スパイクタンパク抗体*1について、抗体価の経時的な推移を血液透析患者群と医療スタッフ群で比較しました。
 その結果、血液透析患者群では、ワクチン2回目接種から1か月後(ピーク値)と6か月後の抗体価は医療スタッフ群に比べて有意に低値であり、透析患者ではワクチン接種後の抗体価上昇が抑制されることを明らかにしました。一方、抗体価の減衰速度には有意差が認められませんでした。さらに、血液透析患者のピーク抗体価を上昇させうる因子として、栄養状態の改善・貧血の改善・ビタミンDの補充があり、6か月後の抗体価の維持にはピーク抗体価の上昇が重要であることを明らかにしました。
 本研究成果は、日本腎臓学会誌『Clinical and Experimental Nephrology』に掲載されました。(2022年6月25日オンライン掲載)

研究成果のポイント

新型コロナウイルスmRNAワクチン2回目接種1か月後と6か月後の抗体価は、血液透析患者群で医療スタッフ群の約1/3と有意に低値であリ、透析患者ではワクチン接種後の抗体価上昇が抑制された。
抗体価の減衰速度は、血液透析患者群と医療スタッフ群で有意差を認めなかった。
血液透析患者群では、栄養状態の改善・貧血の改善・ビタミンDの補充が、ピーク抗体価の上昇に寄与していた。
血液透析患者群では、6か月後の抗体価維持にはピーク抗体価を上げておくことが重要であった。


研究背景
 新型コロナウイルスメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチン*2は新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)の重症化率を低下させ、死亡率を減少させる効果があります(文献1)。新型コロナウイルスmRNAワクチンは2回接種で十分な抗体獲得が可能とされていますが、2回目接種後には徐々に抗体価が低下し、COVID-19に対する効果も減少することが分かっています(文献2)。
 進行した慢性腎臓病を持っている方、特に血液透析を受けている方は、COVID-19の重症化や死亡の危険性が高いことが報告されています(文献3)。しかしながら、血液透析を受けている方であっても、新型コロナウイルスmRNAワクチンを接種することで、重症化率や死亡率の低下が可能になります(文献4)。そのため、日本国内では、血液透析を受けている方に対してワクチン接種が強く推奨されてきました。しかしながら、進行した慢性腎臓病を持った方は免疫力が低下しており、ワクチンに対する反応が弱く抗体を獲得しにくいとされています。例えば、B型肝炎ワクチンや季節性インフルエンザワクチンの接種に対して抗体を得にくいことが報告されています(文献5,6)。
 新型コロナウイルスmRNAワクチンにおいても、血液透析患者では、ワクチン接種1か月後の抗体価(ピーク値)は、健常者と比較して低いと報告されています(文献7)。しかしながら、血液透析を受けている方の、ワクチン接種後長期間経過した後の抗体価については不明点が多く、イスラエル、米国、ドイツから6か月経過後のデータが発表されているものの、日本を含めて東アジアからの報告はありませんでした。
 そこで本研究グループは、日本人で血液透析を受けている方(血液透析患者群)と健康な医療スタッフ群を対象に、新型コロナmRNAワクチン2回目接種後から6か月間における、中和抗体価の経時的な推移を比較しました。また、血液透析患者群の中で、ワクチン接種後の抗体価に関連する因子を検討しました。

研究内容
 本研究では、新型コロナウイルスに対するファイザー社製mRNAワクチンの接種を受けた日本人血液透析患者群と医療スタッフ群を対象として、ワクチン接種後に獲得された抗スパイクタンパク抗体の力価の経時的な推移を後方視的に調査*3しました。
 医療法人社団 厚済会では、関連透析施設(上大岡仁正クリニック、文庫じんクリニック、金沢クリニック、追浜仁正クリニック)に通院されている血液透析患者さんと勤務している医療スタッフの中で、2回のワクチン接種を完了した抗スパイクタンパク抗体検査の希望者に対して、抗体検査が提供されていました。また、2回目のワクチンを接種してから1か月後、3か月後、6か月後に検査を受ける機会を設けており、その結果は各被検者に通知され、診療録等に記録されていました。
 保管されていた血液透析患者群412名、医療スタッフ群156名のデータを解析したところ、抗スパイクタンパク抗体の力価は両群で1か月後が最大値(ピーク値)となり、以後は経時的に減衰していました。血液透析患者群では医療スタッフ群に比べて、抗体のピーク値が1/3程度であり(2617 v.s. 7285 AU/ml, p<0.001)、6か月後においても有意に低値でした(353 v.s. 812 AU/ml, p<0.001)。
 一方、抗体価の減衰速度については、両群で有意差を認めませんでした(抗体価を対数変換し減衰直線の傾きを減衰速度定数として計算。– 4.7±1.1 v.s. – 4.7±1.4 log AU/mL/年)。
 さらに、血液透析患者群の中で、抗体価への影響因子について検討したところ、血清アルブミン値やヘモグロビン値が高い方、ビタミンDの補充を受けている方、年齢が若い方は抗体価のピーク値が高くなりました。また、抗体価のピーク値が高いほど6か月後の抗体価が高く維持されていました。



[画像1]https://user.pr-automation.jp/simg/1706/60224/600_338_2022062709381862b8fbfa9a8f3.jpg


本研究の概要図


今後の展開
 本研究の意義は、日本人の血液透析患者では、新型コロナワクチン接種に対する抗体価の獲得反応は健常者に比べて弱いものの、抗体価の減衰速度は同等であり、ピーク値を上昇させることが長期的な抗体価の維持に重要だと明らかにしたことです。
 さらに、血液透析患者において、ワクチン接種時に、栄養状態や貧血の改善、ビタミンDの補充が抗体獲得反応の向上に寄与する可能性を明らかにしました。
 COVID-19の蔓延は未だに終息を見通せない状況であり、血液透析を受けている方は、健常者と比較して重症化率や死亡率が高く、ワクチン接種による中和抗体の獲得は重要です。現在も3回目のブースター接種が実施されていますが、海外の報告によると、一般集団に対してブースター接種を行ったところ、前後比較で25倍に抗体力価が上昇したと報告されています。中和抗体価を再獲得するためにブースター接種は有用と考えられますが、日本人の血液透析患者の3回目ブースター接種後の抗体価の変化についてはまだ分かっていません。
 さらに、重症化予防に重要とされる細胞性免疫は、液性免疫(中和抗体価)とは無関係に獲得されるという報告もあります。今後の研究によって、血液透析患者における新型コロナワクチン接種による免疫獲得について、より長期的な効果やメカニズムの解明が期待されます。

論文情報
タイトル: SARS-CoV-2 spike protein antibody titers 6 months after SARS-CoV-2 mRNA vaccination among patients undergoing hemodialysis in Japan
著者: Daisuke Kanai, Hiromichi Wakui, Tatsuya Haze, Kengo Azushima, Sho Kinguchi, Shunichiro Tsukamoto, Tomohiko Kanaoka, Shingo Urate, Yoshiyuki Toya, Nobuhito Hirawa, Hideaki Kato, Fumimasa Watanabe, Kanako Hanaoka, Masaaki Hanaoka, Hiroshi Mitsuhashi, Satoshi Yamaguchi, Toshimasa Ohnishi, and Kouichi Tamura
掲載雑誌: Clinical and Experimental Nephrology
DOI: 10.1007/s10157-022-02243-8

用語説明
*1 抗スパイクタンパク抗体:新型コロナウイルスの表面にはスパイクタンパク質が存在しており、ウイルスが体内の細胞に侵入する際に足掛かりとなる重要なタンパク質である。ウイルス表面のスパイクタンパク質に結合することで、スパイクタンパク質が体内の細胞に足掛かりを作るのを妨害して、ウイルスの体内への侵入を阻害する。ファイザー社やモデルナ社のワクチンの接種によって、抗スパイクタンパク抗体を獲得することができる。

*2 mRNAワクチン:mRNA(メッセンジャーRNA)ワクチンは、ウイルスのタンパク質をつくるもとになる遺伝情報の一部を注射する。この情報をもとに、体内でウイルスのタンパク質の一部が作られ、それに対する抗体が作られる。

*3 後方視的に調査:既に行われたことを遡って調査すること。

参考文献など
(文献1)
Pilishvili T, et al. Effectiveness of mRNA Covid-19 Vaccine among U.S. Health Care Personnel. N Engl J Med 2021; 385(25): e90.
(文献2)
Levin EG, et al. Waning Immune Humoral Response to BNT162b2 Covid-19 Vaccine over 6 Months. N Engl J Med 2021; 385(24): e84.
(文献3)
Chung EYM, et al. Incidence and Outcomes of COVID-19 in People With CKD: A Systematic Review and Meta-analysis. Am J Kidney Dis 2021; 78(6): 804-15.
(文献4)
Sibbel S, et al. Real-World Effectiveness and Immunogenicity of BNT162b2 and mRNA-1273 SARS-CoV-2 Vaccines in Patients on Hemodialysis. J Am Soc Nephrol 2022; 33(1): 49-57.
(文献5)
Ghadiani MH, et al. Response rates to HB vaccine in CKD stages 3-4 and hemodialysis patients. J Res Med Sci 2012; 17(6): 527-33.
(文献6)
Mastalerz-Migas A, et al. Immune response to influenza vaccine in hemodialysis patients with chronic renal failure. Adv Exp Med Biol 2013; 756: 285-90.
(文献7)
Grupper A, et al. Humoral Response to the Pfizer BNT162b2 Vaccine in Patients Undergoing Maintenance Hemodialysis. Clin J Am Soc Nephrol 2021; 16(7): 1037-42.



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本件に関するお問合わせ先
横浜市立大学 広報課
E-mail:koho@yokohama-cu.ac.jp

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