プレスリリース
芝浦工業大学(東京都港区/学長:山田純)工学部機械機能工学科・細矢直基教授、東京工業大学(東京都目黒区/学長:益一哉)工学院機械系・前田真吾教授らの研究チームは、液体燃料を高分子ゲルに含有して貯蔵することで、爆発や火災につながる液体燃料の蒸発を抑制しつつ、粒子燃焼させた場合には、従来の液滴燃焼とほぼ同じ燃焼特性となることを明らかにしました。
エネルギー密度が高く、揮発しやすいような液体燃料は、これが事故などにより漏れた際、その周囲に可燃性混合ガスを形成し、爆発、火災事故に至る危険性があります。
この問題解決のため、液体燃料を高分子ゲル内に貯蔵し、蒸発抑制の効果、ならびに、燃料として十分な燃焼性能を有するかを検証しました。
この研究成果は、液体燃料の安全な輸送・貯蔵、利用に新たな可能性を示すものです。
■ポイント
・液体燃料を高分子ゲルに含有する方法を確立した
・常温常圧下においては15倍以上、蒸発速度が遅くなる
・液滴燃焼と同じような燃焼特性を有する
■研究の背景
エネルギー密度の高い液体燃料は、ロケット、ガスタービン、ボイラー、自動車のエンジンなど、化学エネルギーを制御された運動に変換する用途で多く必要とされています。しかし一般流通においては、燃焼特性だけでなく、使用時や輸送時、貯蔵時の安全性を保証することも重要です。蒸発しやすい液体燃料には、引火性の高い可燃性混合ガスを発生させ、爆発や火災などの重大な事故につながる危険性があります。そこで、燃料を添加物でゲル化させる「ゲル化燃料」が現在検討されています。しかし、長期間での安定性に問題があり、ゲル化燃料が研究段階を超えるには、多くの最適化すべき点と克服すべき課題があります。
今回研究チームは、高分子ゲル中に液体燃料の保持を可能にしました。化学的に架橋されたポリ(N-イソプロピルアクリルアミド:PNIPAAm)ゲル内に一般的な液体燃料であるエタノールを保持した場合の性能、利点、限界について分析しました。
■研究概要
長く化学的に絡み合ったPNIPAAm高分子鎖の中にエタノール分子を膨潤することで、その蒸発速度を抑制できることを確認しました。そこで、エタノールを含んだPNIPAAmゲルの小さな球体をつくりました。そして、球体のゲルと、ほぼ同じ表面積と質量のエタノールを蒸発皿に注ぎ、蒸発速度を計測しました。実験の結果、高分子ゲルの中にエタノールを保持すると、燃料の急速な蒸発を抑制できることが明らかになりました。高分子ゲルには、化学的に強く架橋された無数の三次元高分子鎖が存在します。これらの鎖は、さまざまな物理的相互作用によってエタノール分子と結合し、その過程でエタノールの蒸発を制限します。
次に研究チームは、高分子ゲル内のエタノールの燃焼特性を調べました。さまざまな大きさのエタノールを保持したゲル球に着火し、その質量と形状の変化を観察しました。その結果、PNIPAAmゲルの燃焼は、主にエタノールが燃焼するフェーズ1と、エタノールとPNIPAAmポリマー自体が共に燃焼するフェーズ2の2つの段階からなることが判明しました。この結果を分析すると、PNIPAAmゲル球体のフェーズ1は、「d 2則」とも呼ばれる液滴燃焼に則しています。これは、エタノールを含んだゲルの燃焼が、液体燃料の液滴に用いられるのと同じ法則に則していることを意味し、両者の燃焼特性が似ているということを示唆しています。
■論文情報
著者 :
芝浦工業大学工学部機械機能工学科 教授 細矢 直基
芝浦工業大学工学部機械機能工学科(当時) 西口 和輝
芝浦工業大学工学部機械機能工学科 教授 斎藤 寛泰
東京工業大学工学院機械系 教授 前田 真吾
論文名: Chemically cross-linked gel storage for fuel to realize evaporation suppression
掲載誌: Chemical Engineering Journal
DOI : 10.1016/j.cej.2022.136506
▼本件に関する問い合わせ先
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【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/