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日本電信電話株式会社

世界初、窒化アルミニウムトランジスタを実現 〜カーボンニュートラルに貢献する次世代パワーデバイスの本命登場〜

(Digital PR Platform) 2022年04月22日(金)15時12分配信 Digital PR Platform

 日本電信電話株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:澤田 純、以下「NTT」)は、窒化アルミニウム(AlN)を用いたトランジスタ動作(※1)に成功しました。トランジスタは半導体パワーデバイス(※2)として家電、電気自動車、産業機器などの電力変換に使われており、その低損失化は消費電力の削減によるカーボンニュートラルの実現に向けて重要です。ウルトラワイドバンドギャップ半導体(※3)のAlNは絶縁破壊電界が大きく、パワーデバイスの超低損失化に有望な材料です。NTTでは有機金属気相成長(MOCVD)(※4)による高品質AlN半導体の作製技術、良好なオーミック特性(※5)やショットキー特性(※6)を有する電極構造の作製技術を開発し、これら要素技術の確立により、AlNトランジスタの動作を実現しました。また、AlNトランジスタは500℃の高温においても動作することを明らかにしました。本成果は、半導体パワーデバイスのさらなる低損失化と耐環境デバイス応用に貢献することが期待されます。

1.研究背景
 電力変換に用いられる半導体パワーデバイスは、家電、PC/スマートフォンからサーバー機器、電気自動車など幅広く利用されており、近年では太陽光発電や鉄道などの大電力領域へとその用途が拡大しています。近い将来のカーボンニュートラル実現に向けて、クリーンエネルギー活用に必須なパワーデバイスのさらなる低損失化が望まれています。パワーデバイス用の半導体材料として、主にシリコン(Si)が普及していますが、半導体材料に絶縁破壊電界の大きいワイドバンドギャップ半導体を用いることでパワーデバイスの低損失化、高耐圧化が可能になります。そこで、現在、炭化珪素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)といったワイドバンドギャップ半導体を用いたパワーデバイスの開発が進められていますが、これらよりも絶縁破壊電界の大きなウルトラワイドバンドギャップ半導体を用いることで、パワーデバイスのさらなる性能向上が期待されています(図1)。ウルトラワイドバンドギャップ半導体としては、AlN、ダイヤモンド、酸化ガリウム(Ga2O3)があります(表I)。絶縁破壊電界が半導体で最大級のAlNを用いてパワーデバイスを作製できれば、電力損失をSiの5%以下、SiCの35%以下、GaNの50%以下にまで低減できることが理論的に予想されています。

 AlNは一世紀以上前に合成されてから絶縁体として利用されてきました。2002年にNTTが世界で初めてAlNの半導体化に成功し、AlNの半導体デバイス応用の可能性が拓かれました。ウルトラワイドバンドギャップ半導体のなかでもAlNは、産業応用に適した大面積ウエハ上への作製が可能であり、また、GaNとのヘテロ接合形成による多様なデバイス構造を作製できるなどの利点があります。しかし、これまでAlNパワーデバイスに関する報告は少なく、またその特性も優れたものではありませんでした。

2.研究の成果
 NTTは、MOCVD法により作製した高品質AlN半導体を用いて、良好な特性のトランジスタ動作に初めて成功しました。AlNトランジスタの電流-電圧特性は、オーミック特性による線形性の良い電流の立ち上がりと極めて小さいリーク電流(※7)を示しました(図2, 3)。パワーデバイスの性能として重要な絶縁破壊電圧も1.7 kVと大きい値を実現しました。

 さらに、AlNトランジスタは高温でも安定して動作することを明らかにしました(図4)。従来の半導体材料と異なり、AlNトランジスタでは高温で性能が向上し、500℃において、電流は室温の約100倍に増加しました。また、500℃においてもリーク電流は10-8 A/mmと非常に小さく抑えられました。その結果、AlNトランジスタは500℃においても106を超える高いオンオフ電流比を示しました。

3.技術のポイント
 1点目は、高品質AlNの作製技術です。高温下でのAlN結晶の作製が可能で、原料ガスの供給方法を工夫した独自のMOCVD技術を開発することにより、AlN結晶中の残留不純物および結晶欠陥の密度を低減しました。その結果、世界最高の電子移動度を有する良質なn型伝導性のAlN半導体を実現しました。

 2点目は、良好なオーミック特性を有する電極形成技術です。AlNは金属とのエネルギー障壁が大きいため、オーミック接触を形成することが困難です。そこで、AlN上にAl組成を徐々に減少させた組成傾斜AlGaN層を形成し、AlNの代わりにオーミック接触の形成が容易な低Al組成AlGaNを金属と接触させることにより、良好なオーミック特性を得ることに成功しました(図5)。

 3点目は、理想的なショットキー特性の実現です。ショットキー特性は、金属材料の種類以外にも半導体の結晶品質、金属と半導体の界面状態、オーミック電極側の接触抵抗に影響されます。NTTでは、上述のように高品質AlNの作製と良好なオーミック接触を実現したことにより、整流性の良いショットキー特性が得られました。
これらの要素技術の確立が良好な特性を示すAlNトランジスタ動作につながりました。

4.今後の展開
 AlN半導体の超低損失・高耐圧パワーデバイス応用と耐環境デバイス応用をめざし、ヘテロ接合形成によるさらなる特性向上、高温におけるデバイス動作物理の解明を進めていきます。


論文掲載情報
タイトル:High-Temperature Performance of AlN MESFETs With Epitaxially Grown n-Type AlN Channel Layers
著者:M. Hiroki, Y. Taniyasu and K. Kumakura
雑誌名:IEEE Electron Device Letters(1月7日付)
DOI番号:10.1109/LED.2022.3141100


[画像1]https://user.pr-automation.jp/simg/2341/58297/550_134_202204211545306260fd8a00049.png

表I. 半導体材料のバンドギャップと絶縁破壊電界。




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図1. 各半導体材料の固有オン抵抗率と絶縁破壊電圧の性能指標。



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図2. AlNトランジスタの模式図


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図3. (a) AlNトランジスタの電流-電圧特性。(b) AlNトランジスタのオフ状態での電流-電圧特性。



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図4. AlNトランジスタの室温(RT)から500℃までのゲート電圧に対するドレイン電流の変化。


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図5. AlGaN組成傾斜層なし(a)、あり(b)の金属/n型AlN構造。
(c) 組成傾斜有無による電流-電圧特性の違い。

<用語解説>
(※1) トランジスタ:電気信号の制御や増幅、電力変換を行う3端子の半導体デバイス。

(※2) 半導体パワーデバイス:電力の制御や変換に用いる半導体デバイス。

(※3) ウルトラワイドバンドギャップ半導体:バンドギャップは半導体の特性を決める物性定数。このエネルギー値が大きい半導体ほど絶縁破壊電界が大きくなる。Siのバンドギャップは1.1eV。バンドギャップ が約3 eV程度と大きいSiCやGaNはワイドギャップ半導体と呼ばれる。これらよりもさらに大きなバンドギャップを有するGa2O3、ダイヤモンド、AlNはウルトラワイドギャップ半導体と呼ばれる。

(※4) 有機金属気相成長(Metal Organic Chemical Vapor Deposition:MOCVD):薄膜結晶の成長法のひとつ。原料として有機金属とガスを用いる。原料を加熱された基板上に供給し、化学反応により基板上に薄膜結晶を形成する。

(※5) オーミック特性:オームの法則に従い電圧に対して電流が線形に変化する金属/半導体接触の電気特性。

(※6) ショットキー特性:整流性を示す金属/半導体接触の電気特性。電流の変化は電圧の正負によって異なる。電流が流れる電圧方向を順方向電圧、電流が流れない電圧方向を逆方向電圧と呼ぶ。

(※7) リーク電流:半導体デバイスにおいて本来電流が流れない箇所で意図せず流れる電流。

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