プレスリリース
ウクライナ危機がユーロ圏株式にどのような影響を与えているか、について、銀行、公益事業、自動車メーカーの3つのセクターに注目してご説明します。
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ニコレット・マクドナルド-ブラウン
欧州株式コア/ブレンド 運用戦略ヘッド
サイモン・コーコラン
インベストメント・ダイレクター, 欧州株式
ロシアによる衝撃的な軍事侵攻は、ウクライナ国民に壊滅的な影響を及ぼしています。ロシアの侵攻とそれに対する欧米諸国の対抗策が最終的にどうなるかについては、依然として非常に不透明な状況となっています。
投資の観点から見ますと、ロシアによる軍事侵攻以降足元までの期間でユーロ圏株式は他地域の株式市場に劣後しています。
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ユーロ圏株式のアンダーパフォームは、急激に起こりました。ただし、3月9日にエネルギー価格の高騰が落ち着きを見せ、ロシアのウクライナへの侵攻による経済的影響を抑えるべくEU首脳が対抗策を講じると予想された局面で、株価は一部回復しました。
なぜユーロ圏株式は他市場のリターンを下回っているのか
ユーロ圏株式のアンダーパフォームの主な要因は、ユーロ圏地域がロシアやウクライナに地理的に近いこと、またインフレ率上昇への懸念が高まっていること、等を背景とした経済成長への懸念にあります。原油やガスの価格高騰は欧州の産業にとってコストの急激な上昇をもたらす恐れがあります。航空会社、海運会社、自動車メーカー、その他のエネルギー集約型の業界がその顕著な例です。
次のグラフは、欧州の景気敏感企業が、ディフェンシブ企業と比較して、急激に売られたことを示しています。
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なぜ銀行の株価はこれほど急落したのか
ユーロ圏の銀行は、ロシアによるウクライナへの侵攻によって最もマイナスの影響を受けたセクターの一つです。MSCI EMU銀行セクター指数でみた場合、ロシアの軍事侵攻以降、17.3%下落しました(2022年3月15日時点)。
しかしながら、ユーロ圏の銀行の多くはロシアやウクライナのいずれか、もしくは両方に対して大きなエクスポージャーを有していません。エクスポージャーがあるとしても、その多くはロシアかウクライナにある子会社の現地法人であるため、銀行としては損失に上限が設定されていることになります。現地子会社を切り離して、銀行は撤退することが可能です。
これまでのところ、銀行セクターの株価の動きは、当運用チームが予想した最大下落幅の2倍から3倍を上回っています。株価下落により、銀行セクターの株主還元を一定期間遅らせる、もしくは縮小する可能性はありますが、この影響は現在のバリュエーションに既に織り込み済であると考えています。
金利動向など、他の要因についても考慮することが重要です。ロシアの軍事侵攻開始前は、金利上昇への期待がユーロ圏の銀行株を支えていました。軍事侵攻開始後、当初は株式市場の無条件反射的な反応として、金利の上昇期待が低下しました。
しかしながら、これがインフレ率の急激な上昇(インフレ・ショック)によるものであることが明らかになったため、金利の上昇期待は再び高まりました。一般的に銀行の利益水準は、金利が1%上昇すると約25%改善します。
信用損失(すなわち回収不能債権による損失)も不透明感の強まった分野です。新型コロナウイルスの感染拡大以降、多くの銀行は慎重に引当金の積み増しを行っており、ショックを十分に吸収できる水準となっています。
公益事業セクターは劇的な変化に直面している
一方、欧州の公益事業セクターの企業の将来は昨年末時点とは全く異なる様相を呈しています。過去10年から20年の期間で優先されてきたのは、供給の脱炭素化であり、欧州全域での供給の安定性と消費者負担への配慮は後回しにされてきました。
しかしながら、次の10年間ではこの優先順位のバランスに変化が見られる可能性が高いと考えています。これは、欧州各国のエネルギー市場全体に対して影響を及ぼすと予想されます。各々の国が独自の電力システムを保有し、各々の方法で影響を及ぼすと考えられます。
最初に導き出される結論は次の3点です。
供給の将来の安定性を支えるべく、再生可能エネルギーの普及を一段と加速しなければならず、それによりグリーン発電の開発業者や供給業者を支えることになります。
市場は短期的には、石油・石炭などの従来の化石燃料を、炭素排出量に関わらず、ある程度復活させなければならないと予想されます。これにより、従来の石炭や原子力発電所を有する企業にとって追い風となります。
しかしながら、このような動揺した市場から生まれる超過利潤は、電力料金の請求額の上昇に直面する消費者を政府が支援する手段として、課税される可能性があります。
自動車メーカーはサプライチェーンの一段の圧迫に直面する
ウクライナへの軍事侵攻により、自動車業界に大きな混乱が起こっています。IHS(自動車産業に関するベンチマークとなる指標や予想を提供する機関)は、今般のロシアの軍事侵攻の結果、世界の生産量の2%が失われ、特に欧州の生産量は1桁台半ばまで失われると予想しています。
一方で、パラジウム、ニッケル、ネオン(触媒コンバーター、バッテリー、半導体に使用される)等の投入材料の供給リスクは、生産への影響を悪化させる可能性があるとみています。
2021年に深刻な半導体不足が起こった際に、同じような状況が見られました。その際には、景気刺激プログラムと貯蓄率の上昇により、消費者に経済力があり、需要が高水準であったことから、販売価格を押し上げ、自動車メーカーの利益率を守ることができました。今回の場合は、原油・ガス価格の高騰、製品価格のインフレ、経済成長見通しの悪化などから、今後1年間、販売価格を通じた下支えを想定することは難しい状況となっています。
欧州の政策担当者はどのような対策を講じたか
3月8日に欧州連合(EU)は「REPowerEU」計画の概要を発表しました。これは、欧州のロシアへのガス依存から2030年までに完全に独立することを目指し、高く、不安定なエネルギー価格に対処することを目的としています。
企業や家庭に手頃な価格で、安全なクリーン・エネルギーを供給することは、価格の低減措置と次の冬に向けてガスを貯蔵することを直ちに開始する、という断固たる行動が必要となります。欧州のグリーン・ディールの取り組みの下での迅速なクリーン・エネルギーへの移行を求める意見はかつてないほど強く、明確になっています。
依然、解決されていない詳細な部分は多くあります。しかしながら、欧州のエネルギー供給の長期的な安全性を確保するために、欧州地域が強い姿勢を示していることは明るい材料であると考えています。
一方で欧州中央銀行(ECB)は3月10日に月次の政策理事会を開催しました。資産購入プログラム(APP)の規模の縮小ペースを加速するという内容でした。4-6月期における純購入額は、事前に予想されていた1,200億ユーロから900億ユーロに縮小されることになります。
ECBは、今後この縮小ペースを変更する可能性はあるものの、APPプログラムによる債券買い入れを6月末までに終了することを示唆しています。ECBは、金利が上昇する前にAPPを終了させなければならないと一貫して表明してきました。ユーロ圏の政策金利の引き上げは今年の後半になると予想されます。
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