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東京医科大学健康増進スポーツ医学分野 黒澤裕子講師らの研究グループが、「低着圧の弾性ストッキング着用が、長時間座位姿勢保持時の血栓症発症リスクの軽減につながる可能性を発見」

(Digital PR Platform) 2022年03月01日(火)14時05分配信 Digital PR Platform



東京医科大学(学長:林 由起子/東京都新宿区)健康増進スポーツ医学分野黒澤裕子講師らの研究グループは、長時間座位姿勢保持が生体に及ぼす影響と、長時間座位姿勢保持時の低着圧弾性ストッキング着用効果を検証するため、健常若年男性を対象に、8時間連続での座位姿勢保持実験を実施しました。その結果、下記の知見が明らかとなり、その研究成果が2022年3月1日発行の国際医学雑誌 Medicine & Science in Sports & Exercise に掲載されました。





【本研究のポイント】
 連続8時間の座位姿勢保持実験を行った結果、以下の結果が認められました。
1)脹脛(ふくらはぎ)および足首の周径囲の増大と、下肢の浮腫
2)下肢動脈の血流低下とずり応力※低下 ※ずり応力:血管壁にかかる力のこと。
3)腓腹筋(ふくらはぎの筋肉)酸素化レベルの低下
 一方で、連続8時間座位姿勢保持時に、医療現場で推奨されている着圧よりも低い着圧の弾性ストッキングを片肢に着用することにより、1)〜3)に示される血行動態悪化の抑制に成功しました。
 これらの結果は、日常生活における長時間の座位姿勢保持が、特に下肢の血行動態を悪化させ、血栓症発症リスクを増大させる可能性を示唆しています。その一方で、着圧の低い、着用しやすい弾性ストッキングの着用は、血栓症発症リスクを軽減させる可能性があることを示しました。



【研究の背景】
 飛行機や長距離バスによる移動のほか、パソコン作業や講義を受けるなど、長時間にわたり座位姿勢を保持する場面は、日常生活に数多く見られます。その結果、下肢の深部静脈に血栓が生じる深部静脈血栓症、いわゆるエコノミークラス症候群が発症するとともに、命にかかわる肺塞栓症を併発する場合もあることがわかってきました。しかしながら、長時間の座位姿勢保持が生体にどのような影響を及ぼすのか、時間経過に伴う詳細な変化は、完全にはわかっていませんでした。さらに、近年、一過性の座位姿勢保持による悪影響ばかりでなく、長期間にわたる座位姿勢保持、つまり毎日座り続ける生活を送っていると、循環器疾患をはじめとする種々の疾患の罹患率が上昇するとともに、死亡率も上昇することがわかってきました。1日当たりの座位時間は、ここ数十年の間、世界的に増加傾向にあり、日本は他国に比べて座位時間が1番長いという調査報告もあります。しかしながら、長時間座位姿勢保持による生体への悪影響を予防する方法について、その有効性を検証したエビデンスは不足しているという現状があります。


【本研究で得られた結果・知見】
 本研究は、平均年齢22.6歳の健康な男性9名を対象に実施しました。飛行機のエコノミークラスシートに近い形状の椅子に、8時間連続で座ってもらい、1時間ごとに、下肢の周径囲、動脈血流、筋酸素化レベルの測定を行いました(図1)。また、同時に、座位時に左右無作為に片肢のみ、低い着圧の弾性ストッキングを鼠径部から足首まで着用してもらいました(図1)。


下肢周径囲および下肢浮腫の変化(図2)
 連続8時間の座位姿勢保持により、ふくらはぎと足首の周径囲は増大し(図2A、2Bの〇)、下肢の浮腫が認められました(図2Cの)。また、下肢浮腫の変化率と、ふくらはぎ周径囲の変化率との間には、有意な正の相関関係が認められました(図2D)。この結果は、下肢周径囲の座位姿勢保持による増大は、下肢浮腫に由来するものであることを示しています。


下肢動脈血流、ずり応力、および動脈血流変化率と下肢周径囲変化率との関係(図3)
 連続8時間の座位姿勢保持により、下肢の動脈血流は約40%低下し(図3Aの〇)、ずり応力も、弾性ストッキング着用肢に比べ、非着用肢では有意な低値を示しました(図3Bの〇)。また、動脈血流の変化率と脹脛周径囲変化率(図3C)、および足首周径囲変化率(図3D)との間には、有意な負の相関関係を認めました。この結果は、座位姿勢保持による下肢動脈血流の低下が下肢周径囲の増大につながったことを示しています。


 さらに、腓腹筋の酸素化レベルも、座位開始前と比べ、座位後には低下していました。以上の結果は、座位姿勢保持による下肢の血行動態の悪化を示しており、血栓症発症リスクの上昇を示唆するものでした。
 一方で、現在医療現場で推奨されている着圧よりも低い着圧の弾性ストッキングを片肢に着用することにより、8時間座位後でも、ふくらはぎと足首の周径囲は増加せず(図2A、2Bの●)、下肢の動脈血流の低下も約15%に抑えられていました(図3Aの●)。また、腓腹筋の酸素化レベルも、実験開始前と比べて変化しておらず、悪化を示しませんでした。
 これらの結果は、日常生活での長時間座位姿勢の保持は、特に下肢の血行動態を悪化させ、血栓症発症リスクを増大させる可能性を示唆する一方、着圧の低い、着用しやすい弾性ストッキングの着用は、血栓症発症リスクの軽減につながることを示しています。


【今後の研究展開および波及効果】
 今回、健康な若年男性を対象に研究を行いましたが、若い健康な方々でも、8時間座位姿勢保持により、血栓症発症リスクの上昇を示す結果が認められました。今後、妊婦や高齢者のような、血栓症発症リスクがより高い方々を対象とした研究を行うことにより、高リスク者の座位姿勢保持に伴う生体変化が明らかになると同時に、低い着圧の弾性ストッキング着用効果を調べることができます。これまで医療現場で推奨されてきた着圧の高いストッキングの着用は、特に筋力が低く皮膚の弱い高齢者では、履きにくさから着用率が低下した、皮膚炎の原因となっていました。一方、今回の研究で用いた着圧が低く、履きやすいストッキングは、着用率の向上につながると同時に、血栓症発症リスクの予防効果も期待できると考えられます。さらに、座位姿勢保持に伴う生体への悪影響を予防する方法として、座位中の運動実施効果も今後検証する予定です。

【掲載誌名・DOI】
掲載誌:Medicine & Science in Sports & Exercise 2022 Mar 1;54(3):399-407.
DOI:10.1249/MSS.0000000000002822

【論文タイトル】
Effects of Prolonged Sitting with or without Elastic Garments on Limb Volume, Arterial Blood Flow, and Muscle Oxygenation

【著者】
Yuko Kurosawa, Shinsuke Nirengi, Izumi Tabata, Tadao Isaka, Joseph F Clark, Takafumi Hamaoka
日本語名:黒澤裕子、二連木晋輔、田畑泉、伊坂忠夫、Joseph F. Clark、 浜岡隆文

【健康増進スポーツ医学分野ホームページはこちら】
http://www.tokyo-med.ac.jp/whoccsm/sportsmed/


▼本件に関する問い合わせ先
企画部 広報・社会連携推進室
住所:〒160-8402 東京都新宿区新宿6-1-1
TEL:03-3351-6141
FAX:03-6302-0289
メール:d-koho@tokyo-med.ac.jp


【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/

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