プレスリリース
言論NPO は世界55 カ国の民主主義に関する世論調査の結果を公表しました〜後退する世界の民主主義、際立つ日本の民主機能への不信〜
非営利シンクタンク言論NPO(東京都中央区、代表:工藤泰志)は8月17日、フランスの政治刷新研究基金などの7団体が協力して昨年の7月に行った世界55カ国、47,408名が回答した世論調査結果を公表しました。世界各国の民主主義の状況を55カ国で比較できる世論調査はほかに例がなく、調査では民主主義の仕組みやそれぞれの機能の信頼など108もの設問に及んでいます。
この調査結果から、多くの国で代表制民主主義の仕組みに対する市民の信頼が後退、中でも日本人の自国の民主主義機能に対する信頼が際立って低いことが明らかになりました。
報道関係者の皆様には、この調査結果をぜひご報道いただきたく、お願い申し上げます。また、当代表・工藤へのインタビューなどのご要請がありましたら、積極的に対応させて頂きます。
1.世界で後退する「政党、国会、政府」への信頼、日本は際立って低い
今回、調査に協力した55カ国では民主主義に対しては根強い信頼が見られるものの、多くの国で民主主義制度を構成する様々な仕組みが、信頼を失い始めている。 G7の国をはじめとして多くの国では、代表制民主主義の根幹である「政党」、「国会」と「政府」への信頼を失い始めている。※各グラフはPDF版をご覧ください
◆選挙自体は「有意義」だと感じている人は55カ国全体の回答者の70%と圧倒的だが、政治家が国民の願いを顧みないために投票自体に意味はないと感じる国民が4割を超える国も14カ国存在する。G7でもフランスの41%が選挙自体に意味はないと回答、日本にもそうした人は35%存在する。
◆世界で最も国民の信頼を失っているのは「政党」。55カ国の全回答者の58%が、自国の「政党」を信頼していない。国別でみると国民の7割以上もが「政党」を信頼しない国は、30カ国に及び、G7で自国の「政党」を信頼しないという人が7割を超えているのは日本の73%、イタリアの82%、フランスの83%の3カ国。
◆今回の55カ国の全回答者の44%と半数近くが「議会」を信頼していない。「議会」を信頼しない人が国民の半数を超えている国は55カ国の中では35カ国で、G7ではフランス(52%)、英国(53%)、イタリア(63%)と日本(64%)と6割を超えている。
◆「政府」を信頼していない人も全回答者の43%になっており、34カ国で半数以上の国民が、「政府」を信頼していない。G7の国で半数以上が政府を信頼できないと回答しているのは英国の59%、イタリアの60%、フランスの61%だが、日本は68%と際立っている。
◆自国の民主主義が「機能していない」と感じる人が、「機能している」を上回っている国は55カ国の中で26カ国もあり、調査国の半分以上が、自国の民主主義に在り方に疑問を感じている。G7国ではイタリアで58%、フランスで50%、日本でも48%と半数程度が、自国の民主主義が「機能していない」と回答。
2.日本で問われる民主主義の「有用性」、民意が政治から離れ始めている
日本の民主主義や政治不信は、55カ国やG7でも突出しているが、民主主義自体への尊重や信頼が崩れているわけではない。問われているのは現状の政治が国民の不安や日本の将来に役立っていないという、民主主義の有用性であり、日本の課題や将来への不安に真っ向から取り組めない日本の政党や政治への不信が、現状の民主主主義制度への不信に広がっている。その結果、民意が政治や政党から離れている。※各グラフは参考資料をご覧ください
◆この数年で国民の生活水準が「悪化した」と感じる人が、「向上した」を上回る国は55カ国の中で28カ国と半数を上回る。日本では「向上した」と感じている人はわずか9%(悪化は25%)、これは55カ国ではレバノンに次ぐ二番目の低さ。自国の将来が今日よりも「良くならない」と感じる人が、「良くなる」を上回る国も37カ国も存在し、G7各国では全ての国で「良くならない」が、「良くなる」を上回る。特にフランスは「良くなる」がわずか9%、日本も12%と際立って低い。
◆日本の場合、多くの人は民主主義自体には強い期待を持っており、民主主義そのものに対する疑問に繋がっているわけではない。「政府や行政の行動をより効率的にするために市民の自由が制限されてもかまわない」との見方に84%の日本人が反対、「議会や選挙を顧みない強い指導者を持つこと」に82%の日本人が反対する。この数字は世界55カ国でもG7でも圧倒的に高い。
◆政党と民意の繋がりは世界的にも根強く、55カ国のうち40カ国では半数を超える人が国内に自分の意見を代弁する政党があると回答する。ところが、日本では63%もの人が自分の意見を代弁する政党は国内にないと回答。これは55カ国やG7の中でも突出した傾向である。
◆「政治に対する関心」でも日本で「関心がある」はわずかに37%で、55カ国でもセルビア、スロベニア、マケドニアに次ぎ下から4番目、G7で半数を下回るのは、フランスの49%と日本のみで、日本が突出して低くなっている。
◆日本では、民主主義を支える社会基盤に対する信頼もG7国の中で極めて低い。メディアに対する信頼はG7国は全体的に低く、日本は36%しかないが、フランスは28%、イタリアは27%、英国は25%で更に低い。ただ、日本人で非営利組織を信頼しているのは42%で、半数を越えている他の6カ国よりも大きく下回っている。学校に対する信頼も64%で、G7国では最下位である。
3.日本の民主主義に問われる「27」と「19」という数字の意味
日本人が、55カ国と異なる傾向を示しているのは、自国の民主主義に対する最も大きな脅威に対する設問。最も多い回答は、「中国やロシアなどのような専制国家」の27%であり、次に多いのは「政治への国民の無関心」の19%である。
隣国中国への不安が高いとはいえ、この「専制国家」の存在を民主主義の脅威としてここまで意識する傾向は55カ国に存在しない。むしろ注目すべきは後者である。
そこでは、民主主義の脅威を自分たち有権者側の無関心にあるという姿勢が示されていたからである。自国の民主主義の問題の解決を自分たちに求めるこうした傾向も、今回の調査では日本が突出している。※各グラフは参考資料をご覧ください
▼こちらも併せてご覧ください「世界の民主主義の修復で何が問われているのか」
https://www.genron-npo.net/future/archives/13187.html
▼【座談会】世界の民主主義はなぜ信頼を失ったのか―世界55カ国の世論調査を分析するー
https://www.genron-npo.net/future/archives/13192.html
世界55カ国の民主主義の世論調査とは
◆調査実施機関
言論NPO (日本)、フォンダポール財団(政治革新のための財団・フランス)、共和党国際研究所(アメリカ)、民主主義共同体 (政府間組織)、コンラート・アデナウアー・シュティフトゥング財団 (ドイツ)、ヌエバス・ケネダシオネス財団(アルゼンチン)、レプブリカ・ド・アマニャン研究所(ブラジル)
◆調査地域
世界55カ国(総サンプル数:47408)
◆サンプル抽出方法
抽出にあたっては各国の人口統計を考慮している。目安として、800万人以上の人口の国の場合は、サンプル数の規模が1000人、500から800万人規模の国の場合は、600人のサンプルを集めた。また、500万人以下の人口の国は、500人のサンプルを収集した。ただし、アルバニア、ブルガリア、クロアチア、エストニア、ラトビア、リトアニア、北マケドニア、セルビア、スロバキア、スロベニアでは800万人以下の人口にも関わらず、結果の代表性を最大化するためにサンプル数を800人に増やした。
◆調査期間
2021年7月9日から8月10日まで(フィリピンとインドネシアのみ6月23日から30日に実施)
◆回答者属性
性別:男性:22814人、女性:24594人
年齢:16〜34歳:15345人
35〜59歳:21559人
60歳以上:10504人
【言論NPOとは】
言論NPOは、「健全な社会には、当事者意識を持った議論や、未来に向かう真剣な議論の舞台が必要」との思いから、2001年に設立された、独立、中立、非営利のネットワーク型シンクタンクです。2005年に発足した「東京−北京フォーラム」は、日中間で唯一のハイレベル民間対話のプラットフォームとして17年間継続しています。また、2012年には、米国外交問題評議会が設立した世界25カ国のシンクタンク会議に日本から選出され、グローバルイシューに対する日本の意見を発信しています。この他、国内では毎年政権の実績評価の実施や選挙時の主要政党の公約評価、日本やアジアの民主主義のあり方を考える議論や、北東アジアの平和構築に向けた民間対話などに取り組んでいます。
また、2017年には世界10カ国のシンクタンクを東京に集め、東京を舞台に世界の課題に関する議論を行う「東京会議」を立ち上げ、会議での議論の内容をG7議長国と日本政府に提案する仕組みをつくり出しました。
さらに、米中対立下で、米国と中国が出席する4カ国の「アジア平和会議」を2020年1月に創設し、歴史的な作業に着手しています。
本件に関するお問い合わせ:言論NPO事務局 宮浦・西村
TEL:03-3527-3972 FAX:03-6810-8729 MAIL:info@genron-npo.net
世界55カ国の民主主義の世論調査とは