プレスリリース
日本臨床カンナビノイド学会(事務局:東京品川区)は、CBDとテルペン類の食品利用と加工技術に関するレポートを8月12日付で本学会サイトに仮訳を公表した。
タイトル:ヘンプのCBDとテルペン類 -未来の食品と加工技術のための素材
-ヘンプのカンナビジオールやテルペン類に関する世界各国の法的規制についてまとめている。
-CBDとテルペンの食品への添加の現状と課題について議論されている。
-ヘンプの加工技術における最近の進歩と研究ニーズが強調されている。
概要
ヘンプ(Cannabis Sativa L.)は、世界的に広く栽培されている植物である。近年、ヘンプに含まれるカンナビジオール(CBD)およびテルペン類は、抗不安、鎮痛、リラックス促進、抗炎症、抗菌作用など、ヒトへの健康効果や薬効があることから、ますます研究上の関心を集めている。しかし、ヘンプのCBDやテルペンの食品系への研究・応用は、様々な法的規制や消費者基盤、技術的課題から、ほとんど報告されていない。また、高品質で食品安全性の高いCBDやテルペンを食品用に安定生産するための乾燥、抽出、精製などのヘンプの加工技術についても、十分な検討がなされておらず、十分なレビューに欠ける。そこで、本総説では、ヘンプのCBDやテルペンの基本的な特徴や世界各国の関連する法的規制を整理し、ヘンプCBDやテルペンの食品への配合やヘンプバイオマスの加工技術の現状と技術的課題を明らかにし、解決策や今後の動向、研究ニーズなどを明らかにする。このレビューから得られた知見は、ヘンプの加工とCBD/テルペンの食品への応用に関するより多くの食品関連研究を刺激する可能性がある。また、ヘンプ産業が貴重なバイオリソースとしてのヘンプの加工効率を向上させ、食品メーカーが将来の機能性食品成分としてヘンプのCBDとテルペンを使用する道を切り開くのに役立つ可能性がある。
1. はじめに
2. ヘンプのカンナビジオールの食品素材への応用
2.1. ヘンプCBDの基本的な特徴
2.2. ヘンプCBDの機能性食品素材としての可能性と課題
2.2.1. 法的規制
2.2.2. 消費者の意識とニーズ
2.2.3. 技術的な課題
2.3. 潜在的な技術的解決策と将来
3. ヘンプテルペンの未来型食品素材への展開
3.1. ヘンプのテルペンの基本的な特徴
3.2. ヘンプのテルペンの機能性食品素材としての可能性と課題
4. ヘンプの加工技術
4.1. 乾燥技術
4.1.1. ヘンプ産業における従来の乾燥技術
4.1.2. 新たな乾燥技術
4.1.3. 課題及び研究ニーズ
4.2. 抽出技術
4.2.1. 溶媒抽出
4.2.2. 超臨界流体抽出
4.2.3. 新しい抽出技術
4.2.4. 課題及び研究ニーズ
5. 精製技術
5.1. 分子蒸留法
5.2. 分取クロマトグラフィー
5.3. 晶析
6. 結論と今後の展望
仮訳はこちら
http://cannabis.kenkyuukai.jp/information/information_detail.asp?id=128293
図1 昨年6月の「大麻等の薬物対策のあり方検討会」報告書を受けて、22年5月25日から厚生労働省の有識者会議「大麻規制検討小委員会」が始まった。
本学会は、大麻草およびカンナビノイドに関する専門学会ですが、国際的な薬物政策の影響が大きいテーマであるため、今後もこのような世界情勢についての有益な資料の和訳および紹介に努めていきます。
なお、本学会が提供するすべての翻訳情報の内容は、学会としての意見表明ではありません。
<用語集>
Δ9-THC:
デルタ9−テトラヒドロカンナビノール。THCとも表記される。144種類ある大麻草の独自成分カンナビノイドのうち、最も向精神作用のある成分。いわゆるマリファナの主成分として知られている。痛みの緩和、吐き気の抑制、けいれん抑制、食欲増進、アルツハイマー病への薬効があることが知られている。
CBD:
カンナビジオール。144種類ある大麻草の独自成分カンナビノイドのうち、向精神作用のない成分で、てんかんの他に、アルツハイマー病、パーキンソン病、多発性硬化症、神経性疼痛、統合失調症、社会不安、抑うつ、抗がん、吐き気抑制、炎症性疾患、関節リウマチ、感染症、クローン病、心血管疾患、糖尿病合併症などの治療効果を有する可能性があると報告されている。2018年6月に行われたWHO/ECDD(依存性薬物専門家委員会)の批判的審査では、純粋なCBDは国際薬物規制の対象外であると勧告された。
内因性カンナビノイド系:
内因性カンナビノイド系(ECS)は、内因性リガンド(アナンダミド、2-AG等)、それらのカンナビノイド受容体(CB1,CB2等)、および内因性カンナビノイドの形成と分解を触媒する酵素(FAAH、MAGL等)を含む脂質の複雑なネットワークである。内因性カンナビノイド系は、学習と記憶、感情処理、睡眠、体温制御、痛みの制御、炎症と免疫応答、食欲など、私たちの最も重要な身体機能の調節および制御を担っている。
2018年米国農業法による「ヘンプ」の定義:
「ヘンプ」という用語は、「大麻(学名Cannabis sativa L.)」の植物および、その植物のいずれかの部位(種子と全ての派生物、抽出物、カンナビノイド、異性体、酸、塩、異性体の塩を含む)であり、成長しているか否かにかかわらず、デルタ−9−テトラヒドロカンナビノール(delta−9 tetrahydrocannabinol)の濃度が乾燥重量ベースで0.3%以下であるもの」を指す。
日本臨床カンナビノイド学会
2015年9月に設立し、学会編著「カンナビノドの科学」(築地書館)を同時に刊行した。同年12月末には、一般社団法人化し、それ以降、毎年、春の学術セミナーと秋の学術集会の年2回の学会を開催している。2016年からは、国際カンナビノイド医療学会; International Association for Cannabinoid Medicines (IACM)の正式な日本支部となっている。2021年4月段階で、正会員(医療従事者、研究者)101名、賛助法人会員14名、 賛助個人会員27名、合計142名を有する。http://cannabis.kenkyuukai.jp/
日本の大麻取締法
我が国における大麻は、昭和5年(1930年)に施行された旧麻薬取締規則において、印度大麻草が≪麻薬≫として規制されてきた。第二次世界大戦後、GHQ(連合国軍最高司令官総司令部)により印度大麻草と国内の大麻草は同一だと指摘を受け、一旦は、大麻草の栽培等の全面禁止が命じられた。ところが、当時の漁網や縄などの生活資材に必要不可欠であり、国内の農家を保護するために大麻取締法(1948年7月10日制定、法律第124号)を制定した。医師の取り扱う麻薬は、麻薬取締法(1948年7月10日制定、法律第123号)となり、農家が扱う大麻は、大麻取締法の管轄となった。その後、化学繊維の普及と生活様式の変化により、大麻繊維の需要が激減し、1950年代に3万人いた栽培者が1970年代に1000人まで激減した。欧米のヒッピー文化が流入し、マリファナ事犯が1970年代に1000人を超えると、それらを取り締まるための法律へと性格が変わった。つまり、戦後、70年間で農家保護のための法律から、マリファナ規制のための法律へと変貌した。2018年の時点で、全国作付面積11.2ha、大麻栽培者35名、大麻研究者401名。この法律では、大麻植物の花と葉が規制対象であり、茎(繊維)と種子は、取締の対象外である。栽培には、都道府県知事の免許が必要となるが、マリファナ事犯の増加傾向の中、新規の栽培免許はほとんど交付されていない。また、医療用大麻については、法律制定当初から医師が施用することも、患者が交付を受けることも両方で禁止されたままである。
現在、2021年の大麻等の薬物対策のあり方検討会の報告書が取りまとめられ、厚生科学審議会医薬品医療機器制度部会大麻規制規制小委員会にて改正大麻法に向けた議論が進められている。